5話 この魔女。料理がポンコツだ。
「じゃ、このスープに差し替えるということで……」
手早く俺はテーブルの上のスープを「なかったこと」にして片付ける。
魔女さんはすでにばっちりの状態でスプーンを持って待機。「卵のおおいところ!」というので、多めによそって差し出した。
「おいしい! パンもやわらかい!」
「それはよかった」
「明日からもよろしく!」
「わかりました」
笑って応じたものの、だいぶん苦笑いになっていたと思う。
同時に納得した。
なぜ住み込みの家政夫がいるのか。
この魔女。
料理が……ポンコツだ。
「あ、これ。買い物はこの財布からして。お金が足りなくなったらまた言って。足すから」
表面ぱりぱりー、と言いながら魔女さんはパンを食べていたのだけど、急に長衣から財布を取り出した。
「悪いけど買い出しも自分でお願いできる? 市場とかわかる……」
「わかります。ここ、俺の故郷なので」
言いながらも、ちょっと複雑だ。
復員した俺を見る目は厳しい。……まあ、相手も商売人だから私情は挟まないだろうけど。
「この財布はどこに……」
「君に預けておくよ」
「は?」
さて俺も食べようと思って手が止まる。
「いやあの……」
「ん?」
「……その、中身ちょろまかすとか。そもそもこの財布を持ってとんずらするとか……思わないんですか?」
危機意識がないと思ってそんなことを尋ねたのだけど。
彼女はケラケラと笑ったあと、こてんと首を右に倒した。
「そんなことしたら、毒殺してやるから」
………。
そうだ。彼女は魔女だった。
「わたし、明日からいろいろ忙しくなってきてウロウロするけど気にしないで」
「はい」
「外出するときは一応、わたしに声かけてね」
「はい」
「ほかになにか?」
「中庭の野菜は収穫しても?」
「あ、仕事がひと段落するまで世話もしてくれたらうれしい」
「それは全然かまいません」
「ただし」
「はい?」
「収穫前に声掛けして。なかにはヤバいやつあるから」
「……わ、わかりました。え……ヤバいやつって……?」
「じゃあ、明日からよろしく」
はい、と答えたものの。
ヤバいやつってなんだよ⁉ 毒⁉ そういえばさっき毒殺っていった⁉
そんな風に毒に囚われていたため。
俺は知らなかった。
仕事中の魔女。
それがとんでもなく面倒くさいことになることを……。




