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戦地帰りの俺。訳あって、魔女の家で家政夫をしています。  作者: 武州青嵐(さくら青嵐)


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43話 いいね、結婚しようか

■■■■


 俺は屋根から飛び降り、捕縛したふたりの賊のところに走る。

 大半の賊は中にいる。見張り役にふたりがいただけなのが助かった。


 剣で襲いかかってきたが……。武器を持っているやつにありがちだが、得物を取り上げると途端に命乞いする。あとはそいつを人質にして、無力化した。


 そのあと、ふたりを縄で縛り、小屋の中の様子を探ろうと屋根に上って窓を覗き込んでいたら魔女さんを見つけた。


 彼女の目にふれるようにと魔法陣を窓から垂らして……。


 いそいで離れる。

 というのも、魔女さんお得意の爆破系の魔法陣だからだ。


「耳をおさえるのは無理だろうから、口は開けておけ」


 縄でしばり、芋虫状態で転がされている賊たちにそう言うが、なにやらいぶかし気に見るばかり。


 地面に伏せ、俺自身が防爆態勢をとったとき、天井がはじけ飛んだ。

 同時に身体が空気ごと揺さぶられる感じがし、閃光と爆風が襲ってくる。


 一瞬、戦場の様子がよみがえったのは、賊たちが悲鳴を上げたからかもしれない。

 口を開けてはいなかったのだろうけど。悲鳴をあげることで結果的に同じ効果になったようだ。


 爆破が終了したのを確認し、立ち上がって賊たちを見降ろすが、ポカンとした様子なだけで無事だ。


 俺はすっかり屋根が吹き飛んだ小屋に飛び込む。


「魔女さん!」

 呼びかけるが、屋内で立ち上がり、動いている者は皆無だ。


 ほとんど全員が床に横たわり、その身体には木片が降り注いでいる。

 爆破で飛び散った屋根や壁の木片だろう。


 小屋であることが幸いした。これが重厚な屋敷だったら石や金具、装飾家具が身体を刺したかもしれない。


「魔女さん!」


 呼びかける。

 ひとり、ゆらりと膝立ちになる賊がいたが、鼓膜が破れでもしているのか、頭を抱えてまたうずくまる。


「魔女さん!」


 ようやく壁際にいる彼女を見つけた。

 椅子にしばられ、身体が横倒しになったまま。黒衣はほこりで灰色になっている。

 近づき、ぎょっとしたのは、カラスの頭が決して回らない方向に回っていたからだ。


「魔女さん⁉ 魔女さん!」

 椅子ごと揺さぶる。


「セイファさん? うーん。黒煙のせいか見えないんだけど」

「カラスの頭がまわっちゃってるから……! よかった、無事で! ちょっと待って」


 ぐい、とカラス頭を回すと、緑のガラス目のむこうから自分を見る視線を感じた。


「セイファさん! 助かったよ!」

「無事でよかった……。いま、縄を解きますね」


 抱き着きたい衝動をぐっとこらえる。 

 腰ベルトに挿していた短剣で、彼女を縛る縄を断ち切った。


 助け起こすと、魔女さんは手首を撫でながら周囲を見回した。誘拐され、暴力を受けていただろうに、彼女の佇まいは至っていつも通りだ。


「おー……。壮観」


 どこか愉快気に魔女さんはくちばしをパカパカさせている。

 彼女の視線をたどる。


 天井が完全になくなっていた。

 そのおかげで、屋内にいながら見事な夕日がのぞめた。


 雲一つない空は茜色に染まり、それが夜の色と混じってグラデーションを作っていた。


「いまのうちに逃げましょう」


 一緒に眺めていたいのはやまやまだけど。

 魔女さんの背を押して歩き出す。 

 彼女は木片が散る床に何度か足をとられながら、俺を見上げる。


「よくここがわかったね」

「ダウジングです」


 俺が肘を差し出すと、魔女さんはしっかりとつかまった。


「おお、さすがダウザー」


 なぜか誇らしげに魔女さんが言うから苦笑が漏れる。


「外に賊はいなかったの?」

「いましたが……。まあ、格闘技にはある程度自信があるので」

「言うねぇ」


 魔女さんは笑う。

 彼女とふたり腕を組みながら小屋を出た。


「馬をつないでいるので、それに乗って帰りましょう」

「うん」


 俺は彼女を連れて馬をつないだ木のところまで行く。

 途中、捕縛した賊の足だけを解いた。「二度と来るなよ」とは言ったけど。

 賊たち、聞く気はないようだ。一目散に逃げてしまった。


「甘いねぇ」


 魔女さんがあきれているけど。

 このあと魔女さんを家に連れて帰り、服を着替えさせたり治療したり。

 そのあと通報になるので。

 それまでに死んだらなんか後味が悪いじゃないか。


「まあ、そのうち罰は受けるでしょうから」


 因果応報。

 戦場から帰ってきて、いろんなことがあったけど。


 これほど心にすとんと落ちる言葉はない。

 良いことも悪いこともめぐるのだ。


「あ。ちゃんと馬がいた」


 爆破に驚いて馬が逃げていたらどうしようと思ったけど、さすが伯爵家の軍馬。

 俺は彼女を手伝って鞍に乗せる。


「こんなことなら、あれだったよ」

 手綱を木からほどいていたら、馬上から魔女さんが言う。


「なんです?」

「セイファさんと偽装結婚しておけばよかった」


 はは、と魔女さんが笑う。


「別荘に逃げようとは言ったけど。もうひとつの案が、セイファさんとの結婚だったんだよね。なにしろ、誰かと結婚してたらもう結婚しなくていいんだから」


 俺は手綱を持って彼女を見上げる。


「王女のいやがらせのせいとはいえ、セイファさんと私は結婚を噂されているんだからさ。偽装でもその通りにしておけば、こんなにことがややこしくならなかったのかもね。あ、マルベル商会は別か。いずれ襲って来たかな」


 でもあの家を完全武装させれば別か。迎え撃てたかも、と魔女さんは笑う。


 そして。

 しばらく俺と魔女さんの間に沈黙が生まれる。


 鳥がちちと鳴き、木々の葉が揺れる音がしたけど。

 俺と魔女さんの間はずっと無音だった。


「この提案、いやだった?」

 魔女さんがぽつりと尋ねる。


「私はセイファさんとの生活がとても楽しいし、あなた自身のこともとても好ましく思うのだけど」

「あの」

「うん?」

「偽装、は、いや、です」

「……うん?」


 こてん、と魔女さんがカラス頭を右に傾ける。

 俺はそんな彼女をまっすぐに見つめて言った。


「偽装結婚ではなく、結婚がしたいのですが。魔女さん。それはいやですか?」


 そしてまた、俺と魔女さんの間に沈黙が落ちる。


 さっきと違うのは。

 俺の心臓が爆音で鳴り続けていること。


『え。偽装でいいんだけど』

 そう言われたらどうしよう……。


『キモ。そんな風に思ってたんだ。即契約終了して』

 くちばしが開いてそんな風に言ったらどうしよう……。


 ドキドキしながら見つめる先で。

 ぱかり、とくちばしが開いた。


「いいね、結婚しようか。セイファさん」


 カラス頭のままなのに。

 その中で魔女さんが満面の笑みを浮かべているのが俺にはわかった。



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