36話 魔女さんの見合い相手
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その来訪者がドアをノックしたのは、王城に訪問してからきっかり2週間が経ったころだった。
いつもと変わらない昼下がり。
俺は午前中に家事を終わらせ、中庭にいる魔女さんにお茶を出して……。夕飯の仕込みにかかるか、と考えていたし。
魔女さんは早朝突撃の子どもたちとひとしきり遊び、今日は中庭で毒草だか薬草だかわからない植物の手入れやメモ書きをしていた。
なにか考え中なのか、昼ごはんの時から魔女さんは喋らない。
魔女さん、割とこういうところがある。
最初はなにか怒っていたり不機嫌だったりしているのかと不安だったけれど、単純に考え事をしていて、俺が眼中に入っていないのだと知る。
カラス頭なだけに、無言になるとかなり怖いのだが。
まあ、仕事モードなのだと思えば、こちらもそっとしておける。
けども。
ご飯をおろそかにするからなぁ……。
昼ごはんも、いつもならもりもり食べるのに、今日は途中で手が止まってしまって……。
寝ているのかと思って揺すってみたら、「手を動かすの忘れた」と。
結局、早々にごちそう様といい、また中庭にもどって一角に座り込む。
遠目には弱って地面に落ちたカラスだ。
今日のお茶にはちょっと高カロリーのものを出そうか。
そんなことを考えていた時。
車輪の音が遠くから聞こえて来た。
村民たちが使う乗合馬車の車輪ではないことはすぐに気づく。
軽やかだし、なによりリズムが一定。よく訓練された馬の足音だ。
その馬車が家の近くで止まる。
てっきり、オリウルさんだと思った。
いつもの馭者さんじゃないのかな、と。
だから、ドアノックが鳴った時も、なんの疑問も持たずに扉を開いた。
いつも通り、ギャルソンエプロンで手をふきふき、「はぁい」と緊張感のない返事をして。
ところが。
「こんにちは」
そこに立っていたのは、見知らぬ青年だった。
俺と年は変わらない。
貴族だということはその仕立てのよい服や髪形を見ればわかる。
しかも腰には剣を佩いていた。武人なのかも。
顔立ちもいい。
オリウルさんのような優男ではなく、精悍な顔立ちと筋肉の付き方。
どこか魔女さんのお兄さんを髣髴とさせた。
「こんにちは。あ……、っと。魔女さんのお客さんでしょうか」
ぼうっと立っていたが、すぐに我に返って尋ねる。
絶対そうだろうと思うが、まだ不審者とか「道を尋ねたい」という人の可能性もある。
「魔女さん? ハイル・エクセレーナ嬢のことかな」
青年はちょっと格好つけた態度で俺を見る。
「ということは、あなたが戦争の英雄セイファ・アルバルド?」
「は? いいえ。家政夫のセイファ・アルバルドです」
俺と同姓同名にそんな奴がいるのか、ときょとんとした。
えらい違いだな、と思っていたのに。
青年は豆鉄砲をくらった鳩のようだ。
ぽかん、と俺を見つめ、それから不意に噴き出して笑った。
……なんかいちいち、芝居がかっているんだよなぁ。
なんだろう。
オリウルさんもちょっと変わっているけど、この男より断然親しみやすいな……。
「セイファさん、どうした」
背後から声がかかり、首をねじる。
魔女さんだ。
相変わらずカラス頭を装着。
……立って並ぶと、カラスの頭頂部が見える。ちょっと毛羽立ってきたなぁ。手入れしたほうがいいんだろうか。
「お客様のようですよ、魔女さんに」
そう言って、俺は数歩下がった。
「お茶の用意をします」
「というか誰」
魔女さんは代わりに前に身を乗り出し、青年の入室を拒否する構えだ。
「初めまして、ハイル嬢。わたしはルークス・マリンドールと申します。父は伯爵位を賜っており、わたしは軍で大尉を」
大尉⁉ この若さで! ということはもう「佐」まで数年か……。わー……。確かにいたわ。幕のむこうに指揮官……。こういう人たちなのか……。
「そのマリンドール大尉が私になんのようか」
いや、魔女さん。
この大尉さんを中に入れよう。まずはお茶を……。
「お兄様からなにも聞いておられませんか?」
くすりと笑う。
「兄? いや、なにも。2週間前に王城では会ったけど」
そう。結局、迎えを放って帰ってきちゃって……。そのあと、何度か『お兄さんに手紙を書いたらどうですか』と言ってみたけど、ぜんぜん書いている素振りがなかったんだよなぁ……。
「わたしとハイル嬢とのあいだに、現在見合い話が持ち上がっておりましてね。今日は顔合わせも兼ねて訪問させていただきました」
見合い……。
俺は愕然として魔女さんと大尉を見比べる。
……年齢的には釣り合っているように見える。
ミラ様とオリウルさんよりは妥当だ。
見た目だってそうだ。
現在、美青年とカラスだけど、魔女さんの中身はかなりの美女だし……。
身分だってそう。
伯爵令嬢と、伯爵家の子息。
なぜだろう。
平民と伯爵令嬢じゃあ無理だよな、と考えてしまうのは。
見合いと聞いて、心がざわざわするのは。




