表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦地帰りの俺。訳あって、魔女の家で家政夫をしています。  作者: 武州青嵐(さくら青嵐)


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
30/45

30話 王女と魔女さん

「今日はね、相談したいことがあって来てもらったの」


 ぱっと身を離した王女様は、魔女さんの顔を両手で挟み、小声で言う。


「さようですか。というか、お久しぶりです、王女」


「あら、挨拶がまだだったわね。ところで、この殿方は? あなたが従者を連れているんなんて珍しいわね」


「従者ではございません。セイファ・アルバルド氏です。戦で徴兵され、ダウジングを使って敵の魔法陣を発見し、自軍を救いました」


 両手から逃れ出た魔女さんは、王女をにらみ上げるからハラハラする。

 そんな挨拶いいです!

 というか、俺は従者でもなんでもいいので!


「あら、そう」


 王女は俺を一瞥し、にこりと笑った。

 目がぱっちりした美女だ。

 肌は透き通るように白いし、髪は凝った結い方で、いくつも髪飾りを挿している。

 絞り上げられた腰は細く、大きく開いた胸元から見えるのは豊かな谷間。

 かなり派手目の美人。

 王女というより舞台俳優のようだ。


「お、王女様におかれましては、ごきげんうるわしく」

「こんばんは」


 俺はオリウルさんから習った礼をするが……。ちゃんとできたのか心配だ。

 それよりも。

 あれ、と思った。


 顔に施されたおしろい。それから、口に塗られた口紅。

 ……それは、マルベル商会のものじゃないのだろうか。

 そういえば、王女様のお気に入りとかなんとか……。


「みんな、どうぞ楽しんでらして」


 王女様は片手をあげ、ホールに向かって手を振る。 

 参加者たちは一様にあたまを下げて、足を引いた。

 俺もそうしたのだけど。


「かせいふ……じゃない。セイファさん!」


 魔女さんの声に顔を上げる。

 王女様に手を引かれ、ズルズルと階の奥に連れて行かれている最中だ。


 もう、ガンガンに引きずられている。なんなら両足で踏ん張ろうとしているけど、はきなれないヒールのせいでそれもままならないようだ。


「魔女さん!」

 慌てて後を追うと、王女様はちらりと俺を見た。


「この男も一緒?」

「一緒じゃないと話を聞きません!」 


 魔女さんが断言し、王女様の手を振り払って俺にしがみついた。


「まあ、じゃあ仕方ないわね。じゃあ、仕切りを」


 王女様が言うと、侍従たちは素早く動いて布製のパーテーションで取り囲んだ。 

 なるほど、目隠し……なのかな。夜会参加者たちからの。

 侍従はひとつだけ椅子を置くと、俺達を残して立ち去った。


「実はね、このところ体調不良が続くのよ」


 王女様は椅子に座ると、ひじ掛けに頬杖をついた。


 ……確かに。

 さっきまでは貴族たちの前だったというのもあるのだろう。


 溌溂とした感じでしゃべっていたが……。

 声のトーンまでだるそうで、吐く息も重い。


「父上や母上に、医師の相談を受けたいと伝えたのだけど」


 眉根を寄せる声には、確かに倦怠感がにじむ。


「実はとある国から求婚の申し出があってね。『いまは大事な時期だからうかつなことをするな』と。『王城内でじっとしていればいいから』って言われて……。腹が立つったらありゃしない」


 王女様は椅子にもたれた気だるげな姿勢のまま、魔女さんを見上げる。


「だから、あんたを呼んだってわけ。ちょっとわたくしを診察してくれない?」


 傲慢な態度でそう命じる。

 その姿には、『ご学友』などという言葉はかけ離れていた。


「診察しても構わないし、なんなら原因も見当がついている。だけど、無報酬でするつもりはないの」


 魔女さんも負けてはいない。

 腕を組み、椅子に座る王女を睥睨している。

 あわわわわ、魔女さん……。こ、言葉遣い……!


「珍しい。あなたがなにか要求してくるなんてね」

「王族だからという理由で搾取されるのはもうやめた」


 ふぅん、と王女は足を組む。

 ぎらり、と。どこか肉食獣めいた光を宿した瞳を魔女さんに向けた。


「別にいいのよ? あなたを反逆罪で捕縛させても。それでも報酬とやらにこだわるの?」

「こだわるね。それに、私以外の医者に診せてみな。十中八九、正しい回答にはたどりつけない。さっきの話なら、王宮侍医団には診てもらえないんでしょ? ならばなおのことね」


 しばらくふたりは無言でにらみ合い、俺はそれを固唾を飲んで見守る。


「セイファさん」

 口を開いたのは魔女さんだ。


「帰ろう。王女は私の力が不要らしい」

「え? あ、でも……」


 戸惑う俺の腕をつかみ、歩き出そうとしたのだけど。


「わかったわ、あんたの要求を呑むわ」


 気だるそうな声が背後から聞こえてくる。

 俺と魔女さんは同時に振り返った。


 そこには、根負けしたというより。

 本当に具合の悪そうな王女が椅子に座っている。


「少し、肌に触っても?」

 魔女さんは俺から離れ、王女さんの前でひざまずいた。


「ええ。構わないわ」


 王女の許可を得、魔女さんは伸ばした手で王女の頬に触れる。

 顎の下を触り、親指で目の下をこすっているように見えた。


「あ、あの……。俺、出ていましょうか?」

 ひょっとしたら服を脱いだりするんじゃないのか?


「いや、平気。むしろ、いてほしい。証人として」

 魔女さんはきっぱりと言い、王女様は鼻で嗤った。


「別に下々に肌を見られたとて」

 ……そういうものらしい。


「ずっと頭痛に悩まされておいでではないですか?」


 魔女さんが言う。

 王女様は少し目を見開いた。


「え……え、まあ」

 なんとなく毒気を抜かれた顔で返事をした。


「頭痛は本当に毎日なの。ほかにも……」

「イライラも、気持ちの浮き沈みも、頭痛や体調不良によるものでしょう」


 魔女さんは結構無遠慮に王女様の顔に触れたり、立ち上がって頭皮の状態を上から見たりしていた。


「最近、髪の毛も抜けるのでは?」

「……侍女に、ちゃんと隠すように言ったのに」


 ちっと王女様が舌打ちする。


「じっくり見ないとわからない程度です。侍女の腕をほめてあげてほしいぐらい」

 魔女さんは言うと、また手袋をはめた。


「いったいこれ、原因は何なの。知っているのなら、オリウル卿に伝えて彼に薬を調合させて」


 王女はいらだった様子で言う。

 魔女さんはそんな彼女を一瞥し、立ち上がった。


「それ、毒のせいかもしれません」


 しん、と。

 場が静まる。


 水を打ったような、とはこんな感じかも。

 そんなことを考えたが、すぐに我に返る。


「ま、ままままままま魔女さん⁉」

 それとんでもないことですけど⁉ 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ