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戦地帰りの俺。訳あって、魔女の家で家政夫をしています。  作者: 武州青嵐(さくら青嵐)


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27話 魔女さんが……カラスじゃない

■■■■


 当日。


「ありがとうございます。助かりました」

「とんでもない。こちらこそ、差し入れをありがとうございます」


 礼を言って馬車から降りると、馭者さんが帽子をとって挨拶をしてくれる。

 あの日、オリウルさんが言った通り、夜会当日の時間通りにド派手な馬車が魔女さんの家に到着した。


 もう、村中大騒ぎで、子どもたちなんてサーカスが来たぐらいの勢いだ。


 オリウルさんが事前に用意してくれていた服を着て、こっそり乗り込もうとしたのに、馬車の周りは野次馬だらけ。


『馬子にも衣装とはこのことだね!』『あんた、そうやってみたら、いい男じゃないか!』


 近所のおばさん連中には、がははは、と笑われ、娘たちからは黄色い歓声を上げられた。


 ……なんで俺だけこんな目に……。


 そう思いながらも、迷惑かけ料として、馭者さんに『これ、よかったら召し上がってください』と手作りマフィンを渡す。しょぼいものだろうに、馭者さんは喜んでくれて……。ほんと、良い人だ……。


「自信をお持ちくださいね。どっからどうみても、良家のぼっちゃんですから!」

 馭者さんがサムズアップして励ましてくれる。俺は苦笑いして頭を下げた。


「では。また迎えにあがります」

 馭者さんは片手をあげて、馬車に鞭を入れた。


 ああ、そんなに早くいかなくても……と思ったのだけど。

 屋敷前の馬車回しに次の馬車が入ってきた。


 詰まらせたら悪いもんな……。


 俺はぽつん、と立つ。

 馬車回しから白鳥宮とやらの入り口まではアプローチが続いている。


 そのアプローチにもガス灯が入れられ、夜だというのにかなり明度があった。

 屋敷の入口あたりではにぎやかな声や、耳を澄ませば音楽なんかも聞こえてくる。


 警備員らしい剣を持った人が俺をチラチラ見るが……。

 魔女さんとはここで待ち合わせをしているので、ひとりで移動するわけにはいかない。


 ……王城内なんてはじめて入ったよ。


 ここは王女さんがお住まいの屋敷? 宮? らしく……。王城から4度もチェックを受けて馬車が到着した。


 ひとことで王城、なんていうけど……。相当広いな、ここ。


「……え?」

「ちょっと……」


 物珍し気に周囲をきょろきょろ見ていたら、馬車から降りて来た二人組に気づく。 

 てっきり「邪魔だよ」とか「誰?」とか言われるのかと警戒したら……。


「あれ?」


 俺もつい目を丸くする。 

 というのも目の前に立っている二人組。

 それはノアリアとヨナーン・マルベルだったからだ。


「家政夫から王城の……なにかに職業を鞍替えしたのかい?」


 ヨナーンからは真顔で尋ねられる。

 ……だよな。普通に考えたらそうだよな。


「そういえば村で元の職業に戻るとかなんとか噂されてたっけ?」


 ノアリアが胡散臭そうに言う。

 今日もばっちりと化粧をしていた。赤い口紅が水を含んだように潤んでいる。


 彼女の長いまつ毛に縁どられた目。

 それが俺の着ている服を値踏みしているのはわかった。


 なんとなく居心地が悪い。アクセサリーから服、靴まですべてオリウルさんのものだからなぁ……。


 それはヨナーンも同じだ。

 ふたりしてジロジロと俺を見る。『なんでこんな高級なものをこいつが?』という顔だ。


「ゆくゆくは、さっくつ士に戻るつもりだけど……。今日は、魔女さんの付き添い」


 遠慮のない視線に耐えられず、とりあえず口を開いた。


「魔女⁉」

「あのカラスの付き添い⁉」


 ふたりは同時に言い、それから顔を見合わせて。

 笑い出した。


 最高の冗談を聞いた。

 そんな笑い方。


 ……ムッときた。


「なにがそんなにおかしい」

 こぶしを握り、一歩前に出る。


「だって、あのカラスにエスコート⁉ いる?」

 ノアリアが目じりに浮かんだ涙を指でぬぐいながら言う。


「魔女さんは王女様に招かれたれっきとしたお客だ。魔女さんをバカにするのは王女様をバカにするのと同じじゃないのか」


 王女様の名を出すと、ノアリアは途端にひるんだ。


「……まあ、珍しもの好きな王女様だからな。さもありなん」

 ヨナーンは言うと、ぽんぽんとノアリアの背中を撫でた。


「さ。王女様にご挨拶に行こう。お先に」


 ヨナーンは言うと、ノアリアをエスコートしてアプローチに歩き出す。


 ちらりと。

 ノアリアは行きざまにこちらを見る。


 なにか言いたげに口を開いたが。

 俺と目が合うと、すいとそらして顔を前に向けた。


 ……なんなんだよ。捨て台詞でも言うつもりだったんだろうか。


 むかむかしながらも、ジャケットの裾をつかんで引っ張ったり、手袋をはめ直したりしていると、さらに一台の馬車が止まる。


「家政夫さん……じゃない、セイファさん」


 馬車の扉が開くや否や、聞き覚えのある魔女さんの声。

 安堵して顔を上げ。


 ……そして。

 あんぐりとした。


「待たせた? 急いだんだけど、少し手間取ってしまった……」


 声は……確かに魔女さんが。

 なんというのか。


 身長感というのか、まあ、これぐらいの背だったよな、というのも間違っていない。


 なにより雰囲気が魔女さんだ。

 だけど。


「どうかした?」


 小首をかしげるのは。

 金髪の美女だ。


 長い髪をふたつに分け、くるりと巻いて髪飾りで留めている。

 瞳はペリドットにも似た黄緑色。


 大きく襟の開いたドレスからのぞく肌は月光のよう。

 胸がしっかりとありつつ、全体的に華奢な姿。


 これは……。


「ま、魔女……さん?」

 尋ねる声が震えた。


「そうだよ」


 きょとんとした顔。

 年は……俺と同じぐらい。いや、ちょっと下なんだろうか。大きめの瞳が幼くさせる。


「この無礼な男は?」


 まじまじと見ていたら、ぴしゃりとした声に鞭うたれた。

 慌てて背筋を伸ばす。


 馬車からゆったりと降りてきたのは、俺より少し年上の男性だ。

 金色の髪に黄緑色の瞳。


 どこか魔女さんによく似たその青年は、腰に剣を佩き、腕には軍所属を表す腕章をつけていた。


「お前がエスコートを頼んだとか言う男か?」

「ええ、そうです。こちらはセイファ・アルバルドさん。ダウザーでもあります」


 魔女さんに言われ、俺はさらに背を伸ばし、ぺこりと頭を下げた。


「初めまして。セイファ・アルバルドです」

 魔女さんは男性を紹介してくれた。


「私の兄で、エクセレーナ伯爵でもあるモジュル・エクセレーナだ」


 は く しゃ く !?!?

 頭を下げたまま硬直した。


 伯爵⁉


 魔女さん、貴族とは昨日ちらっと聞いたけど……。

在野の魔女とか言ってたじゃん! てっきり、俺と同じ民間人だと……!


「魔女さん……、伯爵……令嬢?」


 こっそり尋ねる。その額にもじわりと汗がにじんだ。ってかそしたらなんでカラスのかぶりものなんてかぶってるんだ⁉


「実家がそうなだけ」


 ぷい、とそっぽを向いてしまう。

 ……こんなところはほんと、いつもの魔女さんなんだけどなぁ。


「軍会議が開かれなければ、こんなわけのわからん男に、妹のエスコートなどさせないのだが……」


 忌々し気に吐き捨てられる。

 顔を向けた。


 伯爵だ。

 表情は変わらない。ただ、見下すように俺を見つめている。


「家門の恥だ」

「兄上」


 魔女さんが同じくらい冷えた声を出した。だが顔は伯爵ではなく、余所をむいている。絶対に兄の顔をみない。そんな意志が感じられた。


「お前もお前だ。王女からのお召しの理由が、体調不良の相談? せめて恋愛相談ぐらいにならんのか」

「どっちにしてもくだらん内容で呼び出されるのに変わりはないのですね」

「ハイル。いい加減、屋敷に戻ってこい」

「兄上、そろそろ軍会議に向かわれてはどうですか。遅刻なさいますぞ」

「なんだその口の利き方は!」


 がちゃり、と佩刀の音を立てて伯爵が魔女さんに詰め寄ろうとする。

 慌てて俺はその間に割って入った。


「伯爵、それでは大切なご令嬢をお預かりします」


 深々と頭を下げると、多少溜飲が下がったのか。

 それとも兄妹のケンカが見苦しいを思ったのか。

 伯爵はそれ以上ことを荒げることはなかった。


「また迎えに来る」

 そう言って、馬車に乗り込んだ。


「いやな気分にさせたよね、家政夫さん」


 ガラガラと車輪の音が遠くなるまで見送っていると、ポツリと魔女さんが言う。

 見やると、しょぼんと肩を落とした彼女がいた。


「そんなことありません。妹思いのお兄さんだな、とは思いました」

「兄も父も家門と体裁がなにより大事なんだよ」


 苦々し気に言う彼女に、俺は肘を差し出した。

 彼女はそっと腕を添える。

 ゆっくりと歩き出すと、彼女はぽつりと言った。


「幼いころからずっと、兄や父が嫌いだった。私は家に居場所が無くて……。それであの村に家を構えたんだ」


 彼女も。

 俺と同じ。

 ずっと「自分の家」を探していたんだとようやく俺は気づいた。




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