26話 魔女さんをエスコートする……らしい
「……えっと、なんて?」
なので失礼とは思いながら、聞きなおしてみた。
「ハイルが王女とお話しする場所までエスコートしてほしい」
説明文は短くなったけど……。なんかまだ、ちょっと……。
「え……っと。そういうのは、オリウルさんがなさればどうでしょう?」
王女⁉ は⁉ 知ってますがそれ、架空の人じゃないですよね⁉ という素直な気持ちを押し隠し、とりあえずそれだけ伝えてみる。
だいたい、そうだよ。
あれだけ「ぼくの小鳥ちゃん」とか言ってるんだから、オリウルさんがエスコートとやらをすれば……。
ってか、カラスが会うの⁉ 王女に⁉
王女、鳥好き⁉
「もちろんぼくがしたいよ? だけどぼくは、未来の結婚相手のエスコートをしなくてはいけなくてね……」
オリウルさんは、しょぼぼぼぼぼーんと肩を落として言うのだけど。
ものっすごい衝撃発言を聞いた……。
「は⁉ オリウルさん! 結婚相手いるんですか!?!?!?」
あれだけ魔女さんに言い寄ってて⁉
なんか猛烈に腹が立ってきて、どん、とテーブルを叩いた。
「魔女さんのことは遊びだったんですか!」
「聞き捨てならないね! ぼくはいつだってハイルが本命さ!」
オリウルさんも立ち上がり、俺達は鼻先がくっつくほどの距離でにらみ合う。
「……だけどね、貴族ともなると、恋愛と結婚は別なんだよ」
だけど、すぐにまた、しょぼぼぼぼぼーんとオリウルさんは椅子に座り込んだ。
「これは持つものの宿命さ……。そのあたりはわかっている。だからぼくの初恋は実らない。わかりきったことだ。だからこそ、この恋はハイルに捧げるよ……」
「いや、いらない」
きっぱりと魔女さんは断った。
いっそすがすがしい……。
「父上がね、そろそろ身を固めろ、と。今度の夜会でその未来の妻に会うんだ」
「気の毒に。未来の妻が」
魔女さんが、ボリボリとクッキーをかじりながら言う。
「ハイル、わかるよ……。君への恋心を抱いて出会うべきじゃない。未来の妻が傷つくよね……」
「こんなあんぽんたんを婿にするんだからな」
魔女さんは容赦ないけど、オリウルさんには都合のよいところしか聞こえていないらしい。……うん、それでいいと思う。精神衛生上。
「だからこの恋は生涯隠して見せる! それが未来の妻と、ハイルへの誠意だよ!」
「えー……っと。で、その? 夜会……でしったっけ? それに、俺が……?」
なんか不毛な会話が続きそうだったので、本筋にそっと戻した。
「そうなんだ。実は王女様はハイルにこっそりとご相談なさりたいことがあるらしい。だけどまあ……あくまでこっそりご相談、ということで。建前は『夜会』だ。プライベートな夜会。そこに王女様お気に入りの友人たちをお招きする、という形をとる。ぼくの父も、ぼくの未来の妻も王女のお気に入りなんだ。ついでに言うなら、ハイルの家門も王女のお気に入りだよ」
「魔女さんの家門⁉ ってか、お貴族様だったんですか⁉」
声が裏返った。
この人、そんなにすごい人なの⁉
俺にはカラス頭の黒衣女だけど!
「エスコートなしで行こうと思ったんだけど、一応正式な場、だし……。兄がうるさいの。オリウルはこの状態だし。そうなると、私がお願いできる男性というのがいなくてね……」
魔女さんはちょっとだけ上目遣いに俺を見た。
「無理かな、家政夫さん」
「いやあの! ご期待に添えたいのはやまやまですが……! エスコートとかしたことないですよ⁉」
「大丈夫だ。ハイルに肘を差し出し、歩けばいい」
なんでもないことのようにオリウルさんは言うけど!
「だけど挨拶とか! なんか宮廷作法とかあるんじゃないですか⁉」
魔女さんは「はて」と小首をかしげているし、オリウルさんはカップにレモンスライスを浮かべて「あるかなぁ?」とつぶやいている。
あるだろ!!!!!
「まあ、とにかく。衣装はこちらで用意するし、馬車も迎えに来させるからさ。ハイルとは王城内の白鳥宮前で待ち合わせる、ということで」
オリウルさんがにこにこ笑いながらお茶を飲んだ。
「え! オリウルさんや魔女さんと別行動⁉ 現地集合ですか⁉」
市場で待ち合わせるのとはわけが違うぞ⁉
「ぼくは未来の妻をエスコートするために、彼女の屋敷に行かなきゃだし。ハイルは実家で準備してから白鳥宮に向かうんだよね?」
「そうなるな……。実家からの方が白鳥宮に近いし」
そもそも白鳥宮ってなに⁉
「君もこの前会っただろう? あの馭者に頼んでおくから。大丈夫、大丈夫」
「絶対、大丈夫じゃない!」
俺は断言したのだけど。
結局、エスコートとやらがいないと王女様に拝謁するのもややこしいのだということを昏々と説明され……。
俺は了承せざるを得なかった……。




