表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦地帰りの俺。訳あって、魔女の家で家政夫をしています。  作者: 武州青嵐(さくら青嵐)


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
22/45

22話 タイラー、発見

「やっぱり山か」


 魔女さんが言う。

 そう。

 水晶は迷うことなく、山を示している。 


 やはりまだ本人タイラーは流されずに、山にいる。


 ……いや、ダウジングは100%ではない。もちろん外れる場合もあるし、本人がいたとしても、生きているとは限らない。


 俺は無言で足を動かす。

 魔女さんもそうだ。


 ぱたぱたぱた、と。

 長衣の裾がはためく音だけが聞こえる。


 まるでカラスの羽音。

 そんな風に感じながら、俺達は山道に入った。


「匂いが……」


 入ってすぐはなんとも思わなかったが、木々が茂り、細い山道を川に沿って昇っていくにつれ、土の匂いと葉の腐ったようなにおいが充満していた。


 顔をしかめ、まとわりつきそうで顔を振る。


「たぶん、それ、ダウザーだけにしかわからない。私は特になにも」


 魔女さんが言うからちょっと驚いた。

 そうか……。そういえば水脈を探るときも、甘い水の香りを嗅ぐのは俺だけだった。


「あ、家政夫さん」


 魔女さんが水晶を指さした。

 かなり激しく反応している。

 タイラーは近いのかもしれない。


「あそこ、小枝が折れているよ」


 魔女さんが目ざとくみつめる。

 川へ降りる道はまだ先にあるのだが……。


 確かに、彼女が言う通りに低木の枝が折れ、下草が踏み固められているところがある。


 子どもたちだけが使っている近道なのかもしれない。

 俺と魔女さんは無言でうなずきあい、近づいた。


 下を覗き込む。 

 割と急な坂道を下ると、川がすぐそこだ。


 いつもよりかなり早い濁流。

 その中州に……。


「タイラー!」


 見つけた!

 普段は中州ではないのかもしれない。


 浅瀬になっていて、多少濡れるが、川岸から川岸が歩いて渡れるのかも。

 いまはそこに大岩が転がり落ちて、中州のようになっている。


 大岩の周囲にはせき止められた木っ端や草、泥といっしょに流れて行った植物が固まっている。


 そしてなにより。

 タイラーがしがみついていた。


「まじょー! かせいふー!」

 タイラーは全身ずぶぬれになりながらも、叫ぶ。


「まずいね、低体温……」


 見つかって安堵したのもつかの間。

 魔女さんの言葉にひやりとする。


 そうだ。

 遠目でもタイラーの顔が蒼白なのがわかる。震えてもいた。


 春とはいえ、山はまだ寒い。木々のせいで光が遮られている。それなのにタイラーはずぶぬれで、かつ、ずっと水に濡れ続けている。


「家政夫さん⁉」


 魔女さんの素っ頓狂な声が耳に届いたころには、俺は小道を駆け下りて川岸まで走っていた。


 小石とコケで滑りかけ、何度か態勢を崩したが、ざぶり、と川に足を突っ込んだ。

 深さは……大丈夫だろう。


 もともと浅瀬だった。いきなり陥没しているところなど……ないと思いたい。


 むしろ問題は濁流の勢いだ。

 かなり早い。

 俺はタイラーの靴を放り出し、水晶を首にかけた。


「じっとしてろ!」

「うん!」


 ゆっくりと彼のほうに歩く。

 慎重に足を動かしているのに、それでも流れに足を持っていかれそうだ。


 時折、急に水量が増えてひやりとする。そこだけ深いのかと思ったが、違う。シャツの中で水晶がバタつく。腐葉土の匂いが濃い。


 ひょっとしたら、また鉄砲水が来るのかも……。


 川の飛沫だけではなく、じっとりと背中が汗で湿る。早くタイラーを救出してここを出なければ……!


「ここだよー! タイラーはここにいる!」


 魔女さんの声。

 顔を向けると、彼女も川岸にいて。


 上にある山道にむかって、黒衣をバタバタさせていた。

 なんとなく巣から落ちたカラスのヒナのようだが。


「本当だ! おい、子どもは無事だぞ!」「こっちだ!」「セイファ! 無理するな!」


 念のため、俺たちを追ってきたのだろう。

 村人たちの声が複数聞こえて来た。


 ホッとする。

 これでなんとかなるだろう。

 俺は慎重に岩に近づく。


「かせいふ!」


 タイラーが岩から手を放して抱き着いてきた。よかった。

 俺はしっかりと抱きしめる。タイラーはよほど安心したのか、途端に泣き出した。


「釣りに来てたのか?」


 ぎゅっと抱きしめて、できるだけ普段の声音で尋ねてやる。タイラーは、顔をくしゃくしゃにして泣き、そして首を縦に振った。


「ここ、いつもなら浅瀬で……。晴れてるし、大丈夫だと思ったのに……。急に水が濁って岩が流れてきて……!」


 運よくタイラーの近くで止まったらしいのだが、そのあと鉄砲水が来たのだそうだ。


 たぶん、あの岩がせき止めていた水流だったのだろう。

 タイラーは岩にしがみついて難を逃れたが、その折に靴を片方と釣り竿が流れて行ったという。


「そうか。よく頑張ったな。一緒に帰ろう」


 そう言うと、タイラーは何度も首を縦に振って、さらに強く抱き着いてきた。

 俺はそのまま川に足を踏み出そうとしたのだが。


 ぱくん、と。

 心臓がひとつ跳ねた。


 ついで、むせ返るような腐葉土の匂い。


「家政夫さん!」

 魔女さんが叫ぶ。


 とっさに俺はタイラーを抱えて岩に身を寄せた。


 どう、と。

 轟音に近い振動が来て、岩が揺れる。地震?


 違う。

 鉄砲水だ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ