13話 魔女さんと街でおかいもの
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それから二日後。
俺と魔女さんは都市にいた。
「……オリウルさんとここで待ち合わせなんですか?」
俺は居心地悪く肩を縮こませて魔女さんに尋ねた。
彼女はうなずく。
平気な顔だ。
いや、まあ……。カラスのかぶりものをしているから、その内側は平気かどうかなんてわからないわけだけど。
少なくとも、緑のガラス目はつるんとしているし、カラスの頭皮も毛羽立ってはいない。
ただ、ちょっとだけ「オリウル、いつくるんだろ」といら立っているぐらい。
「そろそろ約束の時間ですが……」
俺は紙袋や布袋を抱えなおす。
これらはすべて食材。
あれから機嫌のいいときを見計らって声をかけてみたのだけど、魔女さんから折れるつもりは全くないみたいだ。
ただ、『あっちが謝ってくるかもしれないから』と、とんでもないかすかな希望を抱いているようで……。
それで買い出しは2日、待つことになった。
……もちろんだけど。
市場のひとたちが謝るはずもなく。
ブチ切れた魔女さんのところに、オリウルさんがやってきた。
用件は先日、手渡した魔法陣のこと。
『いつもどおり銀行に振り込んでおいたよー』と軽やかにやってきて、違和感なく魔女さんに抱き着き、電光石火で張り倒された。
『どうしたんだい、小鳥ちゃん。ご機嫌斜めだね♡』
オリウルさんはにこにこ笑って話しかける。
もうこの人のメンタル、鋼だ。
魔女さんも魔女さんで、さっき張り倒したのに、なにごともなかったように話し始める。
語ったのは、先日の市場での一件。
『あんな奴らから商品は買わないし。明日、当座必要なものを街に買いに行く』
そう断言すると、オリウルさんが指を鳴らして提案してくれたのだ。
『ぼくも昼からなら時間が空くよ! 同行する!』
『は⁉ いらんし!』
『水臭いな。遠慮するなよ』
『遠慮じゃない。固辞!』
『行きは乗合馬車でもさ。帰りは荷物たくさんなら大変じゃない? 帰りはぼくの馬車に乗るといいよ。それと、食料品の購入ならそりゃ、ぼくより君たちの方が適任かもしれないけど……。家政夫くんの服も買うんだろう? だったらぼくがいるほうがよくない?』
そう提案され、魔女さんと顔を見合わせた。
確かに、乗合馬車はぎゅうぎゅう。
行きはよくても帰りはそこに荷物も増えるとなると……。すみません、すみませんの連呼かもしれない。
魔女さんは魔女さんで、『服……。そうか、男物だよね』と何度もつぶやいていた。
『……じゃあ、今回だけ、よろしく』
魔女さんが、とても『よろしく』というような態度ではないけれど、お願いをした。
オリウルさんは『もちろんだよ!』と喜び、店舗の名前と集合時間を告げたのだ。
「あの……魔女さん」
「なに?」
「まさかと思いますが、この店で服を購入ってわけじゃないですよね? ここはあくまで待ち合わせスポットですよね?」
おそるおそる尋ね、荷物で顔を隠しながらショーウインドーをチラ見する。
どこからどう見ても高級店だ。
メインストリートのど真ん中に建てられた3階建て。
ショーウインドーに服は飾られているものの、既製品なんてない店。テーラーがさっきから布切ったり、巻き尺で客を採寸したりしてる。絶対オーダーメイドだ。
「ん? さあ、どうだろう」
「ここは……無理です。軍人恩給が出ても無理です!」
買えない!
買えてもハンカチサイズの布!
「そう? え、本当に?」
魔女さんは、顔をショーウインドーに向けて、パカッとくちばしを開いた。
やめて! そこから何かを見ているんだとしても、やめて!
テーラーも、不審げにこっち見るから! なんなら街ゆく人も結構、こっち見てるから!
「ま、魔女さん。とりあえず、ここから離れませんか?」
人目が多いし、と周囲を見回す。
薄々気づいていたけど、俺達はかなりの注目を集めている。
なにしろ、カラス頭の黒衣女と、ギャルソン姿で大量の荷物を抱えた男だ。
主と従者だとしても変だし。
なによりカラス頭が異常に目立つ。村なんか、まだ放置気味だったんだと改めて気づいた。あの子どもたちなんて大好きすぎるだろ、魔女さんを。
「もうすぐ来ると思うんだよなぁ、オリウル」
きょろきょろと見回す魔女さん。
だとしても、もうここから離れたい……。
そう思っていた時。
「え? ちょっとやだ」
聞き覚えのある声に、背筋が凍り付いた。
「セイファ?」
名を呼ばれ、反射的に顔を向ける。
そこにいたのは、ノアリアだ。
外出着のためなのか。
帰郷直後に彼女の家で見たときよりも、やけに着飾っていた。
指には石のはまった指輪。首にはきらきらと光るネックレス。
服も村ではみたこともないデザインのものだ。きっとこの街で特別に仕立てたものなのだろう。
顔もそう。
化粧をしている。
村の人間で化粧をしている女性などほぼいない。結婚式ぐらいだろうか。
だが、彼女はまるで「普段からそうですよ」とでもいいたげにおしろいをし、口紅を塗っている。
一見、貴族の令嬢にさえ見えた。
「誰?」
魔女さんが尋ねる。
「彼女はノアリア・ダントンです」
荷物を抱えなおすふりをして、魔女さんに耳打ちした。
「なんであなたがここにいるのよ」
尖った声が鼓膜を刺す。
ふたたび視線をむけると、剣呑な顔つきでにらみつけてきた。
「まさかとおもうけど、待ち伏せ? 怖いわ、ヨナーン」
ノアリアが男の腕にしがみつく。
男に見覚えはなかったが、ヨナーンという名前には聞き覚えがあった。
『私、婚約をしたの。ヨナーン・マルベル。あのマルベル商会の会長よ』
彼女はそう言った。
『だから迷惑なの。帰って、セイファ』と。
「聞き捨てならないな、君」
男はノアリアの手に自分の手を添え、俺を見る。
中折れ帽をかぶり、三つ揃いのスーツを着た大柄な男だ。
上に、というより横に。
身長はさほどないだろう。実際、ヒールをはいたノアリアとそれほど差がない。
だけど横幅がある。筋肉質というのだろうか。がっしりとした、そう、まるで軍人のような男だ。
彼のような大富豪は徴兵になどとられないだろうに。
それなのに、彼は戦地返りの俺よりも数十倍軍人めいていた。
その皮肉さに、つい頬が動いた。
「失礼だな、君!」
いきり立つ彼に対峙したのは、魔女さんだ。
ずずぃと俺の前に出てくるから驚いた。
「失礼と言うのなら、そちらの淑女でしょ」
魔女さんは緑のガラス目を光らせてヨナーン・マルベルを見た。




