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戦地帰りの俺。訳あって、魔女の家で家政夫をしています。  作者: 武州青嵐(さくら青嵐)


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13話 魔女さんと街でおかいもの

■■■■


 それから二日後。

 俺と魔女さんは都市にいた。


「……オリウルさんとここで待ち合わせなんですか?」


 俺は居心地悪く肩を縮こませて魔女さんに尋ねた。


 彼女はうなずく。

 平気な顔だ。


 いや、まあ……。カラスのかぶりものをしているから、その内側は平気かどうかなんてわからないわけだけど。


 少なくとも、緑のガラス目はつるんとしているし、カラスの頭皮も毛羽立ってはいない。


 ただ、ちょっとだけ「オリウル、いつくるんだろ」といら立っているぐらい。


「そろそろ約束の時間ですが……」


 俺は紙袋や布袋を抱えなおす。

 これらはすべて食材。


 あれから機嫌のいいときを見計らって声をかけてみたのだけど、魔女さんから折れるつもりは全くないみたいだ。


 ただ、『あっちが謝ってくるかもしれないから』と、とんでもないかすかな希望を抱いているようで……。


 それで買い出しは2日、待つことになった。


 ……もちろんだけど。

 市場のひとたちが謝るはずもなく。

 ブチ切れた魔女さんのところに、オリウルさんがやってきた。


 用件は先日、手渡した魔法陣のこと。


『いつもどおり銀行に振り込んでおいたよー』と軽やかにやってきて、違和感なく魔女さんに抱き着き、電光石火で張り倒された。


『どうしたんだい、小鳥ちゃん。ご機嫌斜めだね♡』


 オリウルさんはにこにこ笑って話しかける。

 もうこの人のメンタル、鋼だ。


 魔女さんも魔女さんで、さっき張り倒したのに、なにごともなかったように話し始める。


 語ったのは、先日の市場での一件。


『あんな奴らから商品は買わないし。明日、当座必要なものを街に買いに行く』

 そう断言すると、オリウルさんが指を鳴らして提案してくれたのだ。


『ぼくも昼からなら時間が空くよ! 同行する!』

『は⁉ いらんし!』

『水臭いな。遠慮するなよ』

『遠慮じゃない。固辞!』

『行きは乗合馬車でもさ。帰りは荷物たくさんなら大変じゃない? 帰りはぼくの馬車に乗るといいよ。それと、食料品の購入ならそりゃ、ぼくより君たちの方が適任かもしれないけど……。家政夫くんの服も買うんだろう? だったらぼくがいるほうがよくない?』


 そう提案され、魔女さんと顔を見合わせた。

 確かに、乗合馬車はぎゅうぎゅう。


 行きはよくても帰りはそこに荷物も増えるとなると……。すみません、すみませんの連呼かもしれない。


 魔女さんは魔女さんで、『服……。そうか、男物だよね』と何度もつぶやいていた。


『……じゃあ、今回だけ、よろしく』


 魔女さんが、とても『よろしく』というような態度ではないけれど、お願いをした。

 オリウルさんは『もちろんだよ!』と喜び、店舗の名前と集合時間を告げたのだ。


「あの……魔女さん」

「なに?」

「まさかと思いますが、この店で服を購入ってわけじゃないですよね? ここはあくまで待ち合わせスポットですよね?」


 おそるおそる尋ね、荷物で顔を隠しながらショーウインドーをチラ見する。

 どこからどう見ても高級店だ。


 メインストリートのど真ん中に建てられた3階建て。

 ショーウインドーに服は飾られているものの、既製品なんてない店。テーラーがさっきから布切ったり、巻き尺で客を採寸したりしてる。絶対オーダーメイドだ。


「ん? さあ、どうだろう」

「ここは……無理です。軍人恩給が出ても無理です!」


 買えない! 

 買えてもハンカチサイズの布!


「そう? え、本当に?」


 魔女さんは、顔をショーウインドーに向けて、パカッとくちばしを開いた。

 やめて! そこから何かを見ているんだとしても、やめて!

 テーラーも、不審げにこっち見るから! なんなら街ゆく人も結構、こっち見てるから!


「ま、魔女さん。とりあえず、ここから離れませんか?」


 人目が多いし、と周囲を見回す。

 薄々気づいていたけど、俺達はかなりの注目を集めている。


 なにしろ、カラス頭の黒衣女と、ギャルソン姿で大量の荷物を抱えた男だ。


 主と従者だとしても変だし。

 なによりカラス頭が異常に目立つ。村なんか、まだ放置気味だったんだと改めて気づいた。あの子どもたちなんて大好きすぎるだろ、魔女さんを。


「もうすぐ来ると思うんだよなぁ、オリウル」


 きょろきょろと見回す魔女さん。

 だとしても、もうここから離れたい……。

 そう思っていた時。


「え? ちょっとやだ」

 聞き覚えのある声に、背筋が凍り付いた。


「セイファ?」


 名を呼ばれ、反射的に顔を向ける。

 そこにいたのは、ノアリアだ。


 外出着のためなのか。

 帰郷直後に彼女の家で見たときよりも、やけに着飾っていた。


 指には石のはまった指輪。首にはきらきらと光るネックレス。

 服も村ではみたこともないデザインのものだ。きっとこの街で特別に仕立てたものなのだろう。


 顔もそう。

 化粧をしている。


 村の人間で化粧をしている女性などほぼいない。結婚式ぐらいだろうか。

 だが、彼女はまるで「普段からそうですよ」とでもいいたげにおしろいをし、口紅を塗っている。


 一見、貴族の令嬢にさえ見えた。


「誰?」

 魔女さんが尋ねる。


「彼女はノアリア・ダントンです」

 荷物を抱えなおすふりをして、魔女さんに耳打ちした。


「なんであなたがここにいるのよ」


 尖った声が鼓膜を刺す。

 ふたたび視線をむけると、剣呑な顔つきでにらみつけてきた。


「まさかとおもうけど、待ち伏せ? 怖いわ、ヨナーン」


 ノアリアが男の腕にしがみつく。

 男に見覚えはなかったが、ヨナーンという名前には聞き覚えがあった。


『私、婚約をしたの。ヨナーン・マルベル。あのマルベル商会の会長よ』

 彼女はそう言った。


『だから迷惑なの。帰って、セイファ』と。


「聞き捨てならないな、君」


 男はノアリアの手に自分の手を添え、俺を見る。

 中折れ帽をかぶり、三つ揃いのスーツを着た大柄な男だ。


 上に、というより横に。

 身長はさほどないだろう。実際、ヒールをはいたノアリアとそれほど差がない。

 だけど横幅がある。筋肉質というのだろうか。がっしりとした、そう、まるで軍人のような男だ。


 彼のような大富豪は徴兵になどとられないだろうに。


 それなのに、彼は戦地返りの俺よりも数十倍軍人めいていた。

 その皮肉さに、つい頬が動いた。


「失礼だな、君!」


 いきり立つ彼に対峙したのは、魔女さんだ。

 ずずぃと俺の前に出てくるから驚いた。


「失礼と言うのなら、そちらの淑女でしょ」

 魔女さんは緑のガラス目を光らせてヨナーン・マルベルを見た。




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