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戦地帰りの俺。訳あって、魔女の家で家政夫をしています。  作者: 武州青嵐(さくら青嵐)


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12話 魔女の庭

 その日の夕方。


「……まだちょっとあれですよね」

「問題ないし」


 俺と魔女さんは中庭の畑にいた。

 魔女さんが盛大に啖呵を切り、俺もなんとなくそれに従ってしまったので。


 結局食材が購入できなかったのだ。

 家に帰っても、しばらくぷんすか魔女さんは怒っていて。


 その怒りをおさめるたに、ワインを飲むかどうか長時間悩んだ後、結局飲まないと判断したらしい。

 代わりに淹れた紅茶をガブガブと飲んだ。


『あの……で、食材はどうします? 買えなかったんですが……』


 おずおずと尋ねると、


『無駄な出費が減っただけ!』


 魔女さんは強気にそう言って俺を連れて中庭に出たのだ。


「こんだけあればなんとかなるでしょ?」


 えっへんとばかりに魔女さんは畝を前に胸を張るのだけど……。

 俺の手には、まだまだ生育途中の春玉ねぎと、まだまだまだまだ小さな……。芽キャベツよりは大きな春キャベツが。


 畝自体は2つ。

 1つが春キャベツで、もう1つが春たまねぎ。


 キャベツはともかく、たまねぎは抜いてみないとわからないのでさっき引っこ抜いたら……。まだ小さい。そういえば、たまねぎの緑の葉っぱ……というのか? あれが倒れたら収穫の合図と聞いたような……。

 だとしたら、まだだいぶんトゲトゲしている。すくすくしている。


「たまねぎときゃべつを収穫したら、さつまいもを植える予定なの」

「あー……。そうですか」


 いまから植えて……収穫は秋か。俺ももういないんじゃないかな……。


「心配しないで。明日、都市部に行こうよ」

「都市部?」


 おうむ返しした俺に、魔女さんは頷く。


「乗合馬車に乗って、鶏と保存用の肉を買おうね。そのときに野菜や果物も買おう」

「馬車代がもったいないじゃないですか」


 それよりも、市場に頭を下げて配達を頼めばいいのに。


「家政夫さんの服も買おうと思っていたからちょうどいいよ」

「俺の⁉ いや、いいですよ!」

「いつまでもオリウルのパンツではしのびない……」

「いやそれは……オリウルさんに申し訳なくはありますが」

「ということで、決定」


 きっぱり言うと、魔女さんはくるりと俺に背を向け、井戸のある一角から塀に沿ってを指さした。


「あのあたりの植物にはさわらないで」

「園芸植物、ですか?」


 葉だけのものもあるので詳しくはわからないが……。


 水仙はいま、黄色い花をつけていた。

 葉だけだが、塀のところに植えられているのは夾竹桃かな。

 井戸の周囲には、すずらんとあじさいの葉らしきものが群生している。

 ほかにも、緑の葉を広げているものがいくつかある。

 これからの季節、色とりどりの花を咲かせることだろう。


「そう。ぱっと見、わかる?」

「あのあたりは夾竹桃ですか?」

「そう」

「井戸の周囲はすずらんとあじさい? 花が咲いているのは水仙ですよね」

「そう」

「あのあたりの葉っぱはわかりませんが……」

「あれはね、トリカブトとジキタリス。ベラドンナもある」


 あっさり言われて、びっくりした。


「毒草じゃないですか!!!!」

 俺でも知っている!


「毒草というのなら、全部毒草だよ」

 魔女さんは一つずつ指さしていく。


「あじさいには有毒アルカロイドが含まれているし、あの辺に咲くサクラソウにもアルカロイドを含む。すずらんには、コンバロトキシンという心臓毒を含むし、夾竹桃にも心臓毒が含まれている。水仙だってそうだよ。水仙はゆりっぽいけど、あれはヒガンバナ科。だからヒガンバナ科アルカロイドが含まれているの」


 俺はあっけにとられて園芸植物を見やる。

 魔女さんは続けた。


「水仙は、葉だけみるとニラに似ているから毎年誤食が多くて有名だよね。食べると大変だよ? 下痢嘔吐で死ぬ目に遭っちゃう。すずらんも危ない。すずらんを花瓶にさして飾っていたところ、その水を間違って幼児が飲み、死にかかった事例があるから。夾竹桃と知らずに、その枝を肉に差し、焼いて食べたら枝から毒成分がにじみ出て死にかけた事例もあるの。だから」


 魔女さんは肩をすくめた。


「当初、庭には入らないでほしかったんだよね。種や葉の混雑があると困るから」


 なるほど、と俺は納得した。


「だから、基本的に収穫は私がするつもり。家政夫さんは料理だけお願いしたいの」

「もちろんです。……だけど、なんで毒草を?」


 そこまで尋ねて、ハッとする。


「ま、まさか毒殺を請け負っている……とか」


 オリウルさんに魔法陣を売っているんだから、毒殺も……⁉


「安心して。わたしは爆殺専門」


 ホッとしていいんだろうか、これ。


「毒だけど、薬にもなるものも多いから。ときどき、医者に頼まれるのよね」

「へえ」


 ちょっと意外だ。


「薬になるか毒になるかは、調合と分量。以前、『心臓にいいらしい』と心臓毒を含む薬草を口にして死にかけた者もいたけど……ね。量を間違えたり、成分抽出をしていないとそうなる」


 ……ようは専門家にご相談、というところか。


「パッと見はわからないけど、ウコンやゲンノショウコなんかも植えているから。ここは毒草畑というわけではないので安心して」


 安心……できるかどうかは……。ちょっとわからないけれど。


「わかりました」


 とりあえず、俺はまだ成長期の春キャベツと春たまねぎをつかんでうなずいた。

 今日もポトフにするか……。


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