11話 謝罪を要求するから!
「私は客を選ばない。対価をもらえればこなしてきた」
魔女さんの声だけが市場に響く。
「だけど、この市場は客を選ぶのか。ふぅん」
魔女さんはそういうと、すたすたと歩き始めた。
「え、あの……。魔女さん?」
慌ててそのあとをついて小走りになる。
「帰ろう、家政夫さん」
ざっざっと彼女の足は地面を蹴る。ローブの裾がまとわりつく隙も与えずに小走りに行く。
「いやでも……。あの、俺がいないと、きっと売ってくれますから」
ちらりと背後を見やる。
市場自体も、こちらをうかがっているようだ。
甲高い声が聞こえた。おばさんが皆に何か言われているのが遠目に見える。
「俺が悪いんです。捕虜になったのに、のこのこ戻ってきたから……」
「捕虜のなにが悪いの。過酷な体験をしたんだよ?」
魔女さんがじろりとにらみつける。
「安全なところで吠えているあいつらはなんなの」
「息子さんが亡くなったんです」
「だからあなたも死ねって?」
「いやあの……軍人恩給が出たら、俺はこの村を出ます。だから……」
残る魔女さんが心配だ。
そう続けようとしたら。
「セイファ!」
声がした。
魔女さんと共に振り返ると、見知った顔のおじさんがふたり、こちらに近づいてくる。
「すまんな、いろいろと」
「たまねぎとじゃがいもでいいのか?」
青果店と八百屋のおじさんだ。
手に持ったかごにはたまねぎとじゃがいもだけではなく、青菜やりんごなんかも入っていた。
「おばさんとこのほら、上の息子が……」
「ええ、わかってます」
戦死した。
俺が出征する直前だったと思う。
『あんたも立派にこの国を守るんだよ』と、おばさんに背中を叩かれたのを覚えている。
「その、セイファ。こんなこと言いたくないんだが……」
青果店のおじさんが頭を掻いた。
「軍人恩給が出るんだろう? ノアリアとの婚約もダメになったんだし。この村を出てもらえないかな」
「軍人恩給は3か月後からなんです。手続きはしていますが……。すぐにどこかにというのが難しくて」
俺が言うと、おじさんたちは顔を見合わせてため息をついた。
「そうか……。だったら当座必要な野菜や果物は配達するよ」
それは助かる。
そう思ったのに。
「いらないね!」
くわ、と吠えたのは魔女さんだった。
俺だけではなく、おじさんたちもびっくりしたように魔女さんを見た。
「なんだそれ! それ、解決だと思っているんならびっくりだよ!」
魔女さんは、緑色のガラス目に怒りを宿らせておじさんたちをにらみつけた。
「うちの家政夫に石を投げたやつを連れてきて、ここに!」
「いや、あの……。お嬢さん、あのね?」
なんとかなだめようと八百屋のおじさんが、こわばらせた笑みを浮かべたけど、カッとくちばしを広げて威嚇する。
「全員か⁉ あんたら全員が投げたの⁉」
「ちょっと落ち着いて」
「落ち着いていられないし! 石を投げられたんだよ⁉」
「あんたに、じゃないだろうよ」
「うちの家政夫に、よ!」
続けて魔女さんは声を張り上げた。
「謝罪を要求するわ!」
そして、市場にも顔を向けて同じことを言った。
「謝罪を要求するから!!!」
魔女さんは言うだけ言うと、さっさと家に向かって歩き出した。
俺は迷った末に、おじさんたちに頭を下げ、魔女さんの後を追って走った。
なにも受け取らずに。




