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理不尽を論破したら異世界のルールが壊れた件  作者: 万丈トオル


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3/12

第3話「その魔法、成立条件が甘すぎます」


奴隷としての作業が続く中で、俺は一つの確信を持ち始めていた。




(この現場……無駄が多すぎる)




荷物運びのルート。人員配置。休憩の取り方。




どれもこれも、少し考えれば改善できるものばかりだ。




だが――誰もやらない。




(いや、やれないのか)




リリーニャが小声で話しかけてきた。




「トオルさん……さっきのこと、本当に大丈夫だったんですか?」




「さっきの?」




「監督に意見したことです……。普通、あんなこと言ったら……」




尻尾が不安そうに揺れている。




「まあ、殴られるくらいなら想定内だな」




「想定内って……」




呆れたような、でも少し安心したような顔だった。


そのときだった。




「おい、137番! ちょっと来い!」


監督の声が響く。




(来たな)




俺は軽く息を吐いて、歩き出した。




連れてこられたのは、作業場の奥。




他の奴隷たちから少し離れた場所だった。




「さっきは随分と偉そうだったなぁ?」




監督はニヤニヤと笑っている。




「効率がどうとか、ほざいてたな?」




「事実を言っただけですよ」




「……ほぉ?」




空気が一気に冷える。




監督は腰に手をやった。




そこには、見慣れない装飾の杖があった。




(あれが……この世界の“力”か)




監督はゆっくりと杖を構える。




「奴隷に分からせるには、これが一番なんだよ」




次の瞬間。




「炎よ――」




空気が歪む。


熱が集まる。




(……来る)




「我が敵を焼き尽くせ!」




詠唱が終わる。


火の塊が、俺に向かって放たれた。




だが――




(遅い)




一歩、横にずれる。


火球は俺の横をかすめ、地面に当たって弾けた。




「なっ!?」




監督の顔が歪む。




俺は静かに口を開いた。


「その魔法、成立条件が甘すぎます」




「……は?」




「“敵を焼き尽くせ”って……対象の定義が曖昧すぎる」




監督は一瞬、言葉を失った。




俺は続ける。


「どこからどこまでが敵なんです?」




「どの範囲に、どの程度の熱量で、どう伝達させるのか」




「全部、曖昧だ」




監督の額に汗が滲む。




「魔法っていうのは、“イメージ”じゃない」




俺はゆっくりと言った。




「“条件設定”だろ?」




沈黙。





その空気を破ったのは、監督だった。




「……ふざけんな!!」




再び杖を振り上げる。


「炎よ――!」




(同じだな)




俺は小さく息を吐いた。




そして、初めてこの世界の“それ”を試す。




「対象:一点」


「距離:三」


「範囲:最小」


「出力:限定」




短い。




だが明確な詠唱。




次の瞬間。




小さな火が、一直線に走った。




「ぐっ!?」




監督の肩に直撃する。


よろめく。




その隙を、俺は見逃さない。




(詠唱中は無防備になる)




距離を詰める。




腕を取る。


重心を崩す。




そして――


投げる。




「がっ……!?」




地面に叩きつけられ、監督は動かなくなった。




静寂。




「……え?」




振り向くと、リリーニャが立っていた。


いつの間にか、こちらを見ていたらしい。




尻尾が固まっている。


「い、今の……」




「見ての通りだよ」




俺は自分の肩を回す。




「効率のいいやり方をしただけだ」




「効率って……あれが……?」




信じられない、という顔だった。




まあ、無理もない。




(この世界の魔法を……)




俺は倒れた監督を見る。




(誰も“正しく理解していない”)




だからこそ、あんな非効率な使い方になる。




だからこそ――




「理屈が通る」




そう呟くと、リリーニャが小さく息を呑んだ。




「トオルさん……」




「ん?」




「やっぱり……変な人です」




その言葉に、俺は少しだけ笑った。




(悪くないな)




理不尽だらけの世界。


だが――




(壊しがいはある)




そう思えたのは、初めてだった。

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