第27話「静寂を裂く影」
夜は、静かだった。
だが――
「……来たな」
透が呟く。
その瞬間。
――バキッ
遠くで、何かが破壊される音が響いた。
「きゃああああっ!?」
宿の外から、悲鳴。
フウカの表情が一変する。
「暴徒……!」
リリーニャが即座に立ち上がる。
「数、多いです……!」
透はすでに動いていた。
「フウカ、前衛」
「リリーニャ、後方支援」
「了解です!」
二人の声が重なる。
---
外へ飛び出す三人。
月明かりの下――
そこには、異様な光景が広がっていた。
無数の人影。
だが、その目に理性はない。
「……疑似人体操作」
透が低く呟く。
「間違いないな」
フウカが一歩前に出る。
その目に、迷いはなかった。
「……やります」
手をかざす。
魔力が、収束する。
「重魔法――」
地面が、震える。
「“重圧波”!!」
――ドンッ
空間が歪む。
不可視の圧力が、暴徒を一斉に叩き潰す。
「……っ!?」
複数の暴徒が、その場に沈む。
「すごい……」
リリーニャが思わず息を呑む。
「フウカ……成長してる」
だが――
「まだ、来ます!」
フウカが叫ぶ。
倒れたはずの暴徒が、再び立ち上がる。
「魔律が補充されてる……!」
透が一歩踏み出す。
「なら――止め続けるだけだ」
次の瞬間。
その姿が消える。
「……っ!?」
フウカが目を見開く。
透は、すでに敵の懐にいた。
――ドンッ
鋭い踏み込み。
――バキッ
拳一つで、暴徒を沈める。
だが終わらない。
次の敵。
さらに次。
「……遅い」
静かに言う。
迫る腕を、掴む。
――クルッ
そのまま体を捌き――
「はぁッ!」
――ズドン
背負い投げ。
地面に叩きつける。
「ジュードー……」
フウカが呟く。
だが、透は止まらない。
「無駄な力を使う必要はない」
最小限の動き。
最適解の連続。
「構造通りに崩す」
次々と暴徒が倒れていく。
---
「リリーニャさん!」
フウカが叫ぶ。
「はい!」
リリーニャが両手をかざす。
「支援魔法――展開!」
淡い光が、二人を包む。
「魔力循環、安定化……!」
「これなら、長く戦えます!」
透がわずかに頷く。
「助かる」
短い言葉。
だが、信頼は伝わっていた。
---
数分後。
暴徒の動きが鈍る。
やがて――
全てが、沈黙した。
「……終わり、ですか」
フウカが息を整えながら言う。
透は周囲を見渡す。
「……ああ」
短く答えた。
「小規模な斥候だろう」
リリーニャが少しだけ顔を曇らせる。
「……様子見、ということですね」
透は頷く。
「本隊ではない」
「だが」
視線が鋭くなる。
「確実に、近づいている」
---
しばらくして。
宿の人々が、恐る恐る顔を出す。
「助かった……」
「ありがとうございます……!」
感謝の声が広がる。
フウカは少し照れながら頭を下げる。
「いえ……!」
リリーニャも、優しく微笑んだ。
透は何も言わなかった。
ただ、静かに立っていた。
---
再び、静寂。
だが――
先ほどとは違う。
三人の中には、確かな手応えがあった。
---
「……戻りましょう」
リリーニャが言う。
「まだ、休めます」
フウカも頷く。
「はい……!」
透は空を見上げる。
月は、変わらずそこにあった。
「……短時間でも、回復はできる」
そう言って、歩き出す。
---
再び、湯へ。
温かさが、身体を包む。
「……さっきより、落ち着きますね」
フウカが小さく笑う。
「戦った後だから、なおさらだな」
透が答える。
リリーニャが目を細める。
「いい流れです」
「この状態で、次に挑めます」
---
静かな時間が、戻る。
だがそれは――
“嵐の前の静けさ”ではない。
---
“備えた者の、静けさ”だった。
---
翌朝。
三人は、宿を後にする。
「ありがとうございました!」
フウカが元気よく頭を下げる。
リリーニャも軽く礼をする。
透は一度だけ振り返る。
「……問題ない」
小さく呟く。
そして――
歩き出す。
目的地は、アジト。
準備は整った。
次は――
終わらせる番だ。




