第24話「接続」
静かな朝だった。
拠点の中は、穏やかな空気に包まれている。
戦場とは、まるで別世界だ。
「……ここも、戦いの一部か」
透が小さく呟く。
「いい視点だねぇ」
ドミールが笑う。
「前線だけが戦場じゃない。準備も同じくらい重要ってことさ」
フウカがその言葉に頷く。
「……うん」
その表情は、以前よりも引き締まっていた。
確実に、変わっている。
「じゃあ、確認といこうか」
ドミールが軽く手を叩く。
「透、やってみな」
「ああ」
透は一歩前に出る。
呼吸を整える。
魔力を流す。
「対象、一点。出力、調整」
小さく呟く。
その瞬間。
空気が揺れた。
放たれた魔法は、無駄がない。
最小限で、最大効率。
ドミールが口元を緩める。
「いいねぇ。完全に“構造”で使ってる」
透は小さく息を吐いた。
「感覚じゃない。設計だ」
そのまま剣を取る。
軽く振る。
無駄のない軌道。
さらに一歩。
踏み込む。
流れるように体を崩し――
「っ……!」
フウカの身体が、軽く宙に浮く。
そのまま地面へ。
「わっ……!」
「今のがジュードーの基本だ」
透が手を差し出す。
フウカがそれを掴む。
「……早い」
「遅いと意味がない」
淡々とした返答。
だが、その動きには確かな積み重ねがあった。
ドミールが小さく笑う。
「短期間でそこまで仕上げるとはねぇ。やっぱり異質だよ、君は」
透は答えない。
ただ、視線をフウカへ向ける。
「次はお前だ」
「……うん」
フウカが一歩前に出る。
短剣を構える。
そして――
魔力を重ねる。
一つじゃない。
二つ、三つ。
異なる性質を組み合わせる。
「重魔法……!」
ドミールが目を細める。
フウカの手元に、小さな火が灯る。
だが、それだけじゃない。
風が絡む。
圧縮される。
揺らぎながらも、形を保つ。
「いける……!」
フウカが踏み込む。
短剣と魔法が連動する。
振る。
空気を裂く。
「……いいじゃないか」
ドミールが静かに呟く。
「ちゃんと“繋がってる”」
フウカが息を整える。
「まだ……不安定だけど」
「それでいい」
透が言う。
「完成なんてものはない」
その言葉に、フウカは小さく頷いた。
――昼。
拠点の中では、簡単な食事の準備が進んでいた。
「遅いねぇ」
ドミールが椅子に座りながら言う。
「そろそろ帰ってきてもいい頃だろうに」
「……そうですね」
フウカが少し不安そうに答える。
透は何も言わない。
ただ、外を見ている。
(妙だな)
胸の奥に、引っかかるものがあった。
言葉にはならない違和感。
「……まあいいさ」
ドミールが立ち上がる。
「帰ってきたら、また次の段階だ」
その表情。
どこか――
“分かっている”ような気配。
だが、それを口にすることはなかった。
そして。
時間は、進む。
――数時間後。
扉が、開いた。
ドンッ――
重い音。
三人の視線が、一斉に向く。
そこにいたのは――
リドウだった。
「……っ」
フウカが息を呑む。
全身が、血で濡れている。
立っているのが不思議なほどの傷。
そして――
その腕の中。
リリーニャ。
ぐったりとした身体。
呼吸はある。
だが、浅い。
「リリーニャさん……!」
フウカが駆け寄る。
その目は、涙で滲んでいた。
「どうして……こんな……」
声が震える。
だが。
リドウは、答えない。
ただ、ゆっくりと彼女を下ろす。
その顔には――
いつもの余裕も、冷静さもなかった。
ただ、歪んだ感情だけが残っている。
怒り。
後悔。
そして――
諦めきれない何か。
「……透」
低い声。
それだけで、空気が変わる。
透が一歩前に出る。
リドウの目を見る。
「皆」
リドウが言った。
短く。
だが、重く。
「大事な話がある」
その言葉で、すべてが伝わる。
何かが、起きた。
取り返しのつかないことが。
静寂が落ちる。
そして――
物語は、“次の段階”へ進む。
(続く)




