第23話「断絶」
地面が砕ける。
空気が裂ける。
戦場は、すでに限界を超えていた。
「っ……!」
リドウの身体が大きく弾かれる。
ドンッ――!!
地面に叩きつけられ、砂が舞う。
「ぐっ……!」
立ち上がろうとする。
だが、足が言うことを聞かない。
(重い……どころじゃねぇな)
骨に響く衝撃。
確実に、深い。
その直後。
「リドウ!!」
リリーニャの叫び。
振り向いた瞬間――
ドンッ!!
彼女の身体も吹き飛んだ。
「っ……ぁ……!」
地面を転がり、動きが止まる。
「……くそが」
リドウが歯を食いしばる。
視界の先。
亡魔トリコワは、ただ立っている。
無傷。
まるで、何もなかったかのように。
その周囲では、無数の暴徒が蠢いている。
終わらない。
減らない。
「……ふざけんなよ」
リドウが立ち上がる。
だが、膝が笑う。
(まだ……動ける)
そう言い聞かせるように、一歩。
踏み出す。
「もうやめてください……!」
リリーニャの声。
震えている。
それでも、彼女は立ち上がろうとしていた。
「これ以上は……持ちません……!」
その顔は、明らかに限界だった。
魔力も、体力も。
すでに削り切られている。
「チッ……」
その時。
上空から影が落ちた。
「もういい」
フィートスだ。
翼を広げ、二人の前に降り立つ。
「ここは俺がやる」
「……何言ってんだ」
リドウが睨む。
「まだ――」
「終わってる」
フィートスが遮る。
その目は、冷静だった。
「これは、勝てる戦いじゃねぇ」
沈黙。
悔しさが、空気に滲む。
「逃げるぞ」
短い言葉。
だが、それが現実だった。
「ふざけんな……」
リドウの声が低くなる。
「アイツは……」
拳が震える。
「……あれはもう、トリコワじゃねぇ」
フィートスが言う。
「分かってるだろ」
言葉が、刺さる。
リドウは何も言えなかった。
「だからこそだ」
フィートスが続ける。
「ここで終わるわけにはいかねぇ」
その瞬間。
亡魔トリコワが、手を上げる。
「排除、継続」
暴徒が動く。
一斉に。
「……時間切れだな」
フィートスが小さく息を吐く。
そして――
槍を構えた。
「見てろよ」
静かな声。
だが、その奥には燃えるような意志があった。
「これが、俺の最大だ」
魔力が、収束する。
空気が震える。
熱が、集まる。
「――自由への一槍」
次の瞬間。
空が燃えた。
無数の火の槍が、空間を埋め尽くす。
ドドドドドドドドッッッ!!
雨のように降り注ぐ。
いや、違う。
“意思を持って突き刺さる”
亡魔トリコワへ。
そして、その兵たちへ。
貫く。
焼く。
砕く。
一瞬だけ。
戦場が、制圧された。
「今だ!!」
フィートスが叫ぶ。
リドウとリリーニャを抱え上げる。
翼を広げる。
「行くぞ!」
ドンッ!!
一気に加速。
空へ。
瓦礫を越え、暴徒を振り切り、出口へ向かう。
「っ……!」
リリーニャが息を呑む。
「逃げ切れる……!」
だが――
その瞬間。
「――捕捉」
声。
背後から。
地面が、裂ける。
バキッッ!!
そこから現れた。
亡魔トリコワ。
無傷。
「なっ……!?」
フィートスの目が見開く。
「もう再生してやがるのか……!」
速い。
異常なまでに。
「逃がさない」
亡魔トリコワが手を伸ばす。
空間が歪む。
「チッ……!」
フィートスが歯を食いしばる。
間に合わない。
「行け!!」
叫び。
その瞬間。
上から、瓦礫が崩れ落ちる。
ドゴォォォン!!
「っ――!」
視界が遮られる。
道が、断たれる。
リドウとリリーニャは、向こう側へ。
フィートスは、こちら側へ。
「フィートス!!」
リリーニャの悲鳴。
だが。
「来るな!!」
フィートスが叫ぶ。
その顔に、迷いはなかった。
「俺に構うな!!」
翼を広げる。
亡魔トリコワの前に立つ。
「逃げろ!!」
その声が、響く。
「未来の希望たち!!」
一瞬の静寂。
そして。
瓦礫が、完全に道を塞いだ。
「……っ……」
リリーニャが崩れ落ちる。
目に涙が浮かぶ。
「そんな……」
震える声。
だが。
リドウは、何も言わない。
ただ。
歯を食いしばり、彼女を抱き上げる。
「行くぞ」
低い声。
「でも……!」
「行くしかねぇ」
短く、切り捨てる。
その表情は――
怒り。
悔しさ。
そして。
理解。
全てが混ざっていた。
「……クソが」
一言、吐き捨てる。
そして。
背を向けた。
「絶対に……無駄にはしねぇ」
そのまま走る。
アジトへ。
未来へ。
後ろは、見ない。
見れば、止まるからだ。
戦場は、まだ終わっていない。
だが――
ここで、一つの道が断たれた。
(続く)




