第21話「矯正」
荒野に煙が立ち上っていた。
まだ終わっていない。
「……減ってねぇな」
リドウが舌打ちする。
「はい……むしろ、増えています」
リリーニャが周囲を見渡しながら答える。
倒しても、終わらない。暴徒は散発的に現れ続けている。
フィートスが空から降りてきた。
「ダメだ」
低く、短い言葉。
「奥に“流れ”がある」
「流れ?」
リドウが眉をひそめる。
「誰かが“動かしてる”」
その一言で、全員が理解した。
自然発生ではない。
誰かが、この状況を作っている。
沈黙が落ちる。
――同時刻。
別の場所。
反乱軍の一団が荒野を駆けていた。
「見つけたぞ……!」
先頭の男が叫ぶ。
その先にいたのは、黒いローブを纏った集団。
「アナグラムだ……!」
怒号が上がる。
「ここで潰せば終わる!」
焦りと希望が入り混じった判断だった。
だが――
その前に、一人の男が立ちはだかる。
黒髪の七三分け。黒縁メガネ。
整った服装。
そして、冷静すぎる目。
辻松。
「……理解できていないな」
静かな声が響く。
「何がだ!」
反乱軍の男が叫ぶ。
辻松は一歩、踏み出した。
「貴様らは“結果”だけを見ている」
淡々とした口調。
「原因を理解せずに排除しようとする」
さらに一歩。
「それは――非合理である」
その瞬間、空気が歪んだ。
「……なっ!?」
反乱軍の一人が魔法を放つ。
炎が走る。
だが――
曲がる。
捻じれる。
「俺の魔法が……!?」
辻松は小さく呟いた。
「“歪んだ構造”は、矯正されなければならない」
一瞬、世界が“ズレる”。
ドンッ――
一人が崩れ落ちた。
次の瞬間、また一人。
抵抗にならない。
「そんな……」
「なぜ当たらない!?」
辻松は淡々と答える。
「当たっている」
「ただし、“正しい位置に修正されている”だけだ」
圧倒的な差。
数秒で戦闘は終わった。
静寂。
辻松は軽くこめかみを押さえる。
「……偏頭痛か」
それでも表情は変わらない。
「問題ない範囲である」
倒れた反乱軍を一瞥する。
「……無意味な抵抗であった」
そして、ゆっくりと視線を上げる。
「世界は常に歪む」
静かに、独白する。
「感情、欲望、恐怖」
「それらは全て、構造を乱す要因である」
わずかに目を細める。
「だからこそ――“正す者”が必要だ」
風が吹いた。
――再び前線。
「……来るぞ」
フィートスが言う。
空気が変わった。
「なんだ、この感じ……」
リドウが眉をひそめる。
「……嫌な予感がします」
リリーニャが小さく呟く。
遠くに、一つの影が見える。
ゆっくりと、こちらに向かってくる。
「……あれか」
フィートスが睨む。
自然じゃない。
風の流れも、空気も、すべてが“整いすぎている”。
「……あれが、“流れ”の正体か」
リドウが拳を握る。
その影が、わずかに顔を上げた。
遠くからでも分かる。
こちらを、見ている。
辻松。
「……次は、お前たちである」
その言葉と同時に――
風が止まった。
戦場が、静かになる。
まるで、すべてが“調整”されたかのように。
そして。
本当の戦いが、始まろうとしていた。
(続く)




