第20話「体系」
拠点の朝は、静かだった。
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戦場とは違う。
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だが――
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「……ここも、戦いの一部だな」
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俺はそう呟いた。
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「いい視点だねぇ」
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ドミールが笑う。
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「前線だけが戦場じゃない」
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「準備も、同じくらい重要ってことさ」
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フウカが隣で頷く。
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「……うん」
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少しだけ、表情が引き締まっていた。
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「じゃあ、始めようか」
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ドミールが手を叩く。
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「まずは基礎から」
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空気が変わる。
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「魔法っていうのはね」
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「“魔律量”を使って、“現象”を作る技術だよ」
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「魔律量……」
フウカが小さく繰り返す。
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「魔力とは違うんですか?」
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「似てるけど、別物だねぇ」
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ドミールが指を立てる。
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「魔力は“エネルギー”」
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「魔律量は“制御単位”」
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「設計図みたいなものさ」
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沈黙。
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「……なるほどな」
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俺は小さく頷いた。
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「今まで俺がやってたのは」
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「魔力の操作じゃない」
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「“条件設定”の最適化だ」
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ドミールが笑う。
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「そういうこと」
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「君は最初から“構造”で魔法を見てる」
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「普通は逆なんだけどねぇ」
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(やっぱりか)
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今までの違和感が、繋がる。
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「魔法はイメージじゃない」
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「設計だ」
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言葉にすると、しっくりきた。
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「じゃあ次」
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ドミールの視線がフウカへ向く。
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「出してみて」
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「……うん」
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フウカが目を閉じる。
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魔力が揺れる。
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「っ……!」
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火が生まれる。
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だが――
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不安定。
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揺らぐ。
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「止めて」
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ドミールが即座に言う。
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火が消える。
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「今の、何がダメか分かる?」
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フウカは首を振る。
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「全部」
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ドミールはあっさり言った。
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「えぇ……」
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「いい?順番が違う」
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指を立てる。
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「①量を決める」
「②形を決める」
「③維持する」
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「今のは全部同時にやろうとした」
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フウカが真剣な顔で頷く。
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「……やり直します」
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一方。
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「よし、次」
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俺は構えた。
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フウカが向かいに立つ。
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「ジュードーだ」
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「う、うん……!」
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少し緊張している。
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「力はいらない」
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「流れを使え」
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踏み込む。
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軽く腕を取る。
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崩す。
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「わっ――!」
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フウカが転がる。
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「今のが基本だ」
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「……早い」
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「遅いと意味がない」
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手を差し出す。
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フウカがそれを掴む。
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「もう一回!」
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その目に、迷いはなかった。
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別の場所では。
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「剣は“振る”んじゃない」
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「“通す”んだ」
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解放軍の男が言う。
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フウカが剣を構える。
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ぎこちない。
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だが――
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「……やる」
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振る。
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空気を切る音。
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「いいじゃねぇか」
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少しずつ。
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確実に。
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変わっていく。
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夕方。
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全員が集まる。
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「……どう?」
ドミールが聞く。
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「理解は進んだ」
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俺は答える。
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「バラバラだったものが繋がった」
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「それは大収穫だねぇ」
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フウカも頷く。
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「難しいけど……」
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「できる気がする」
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その言葉に。
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ドミールは、少しだけ目を細めた。
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「いいね」
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「その感覚は大事だ」
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そのとき。
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俺は、ふと違和感を覚えた。
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(……妙だな)
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魔法の構造。
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魔律量の流れ。
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理解すればするほど――
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「不自然な部分がある」
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「ん?」
ドミールが反応する。
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「何がだい?」
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俺は少し考えてから言った。
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「効率が悪すぎる」
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「この世界の魔法」
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沈黙。
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ほんの一瞬。
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ドミールの表情が、わずかに止まった。
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だが――
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すぐに笑う。
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「……さあねぇ」
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「それを考えるのは、もう少し先でもいいんじゃない?」
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軽い口調。
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だが――
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(誤魔化したな)
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確信する。
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風が吹く。
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静かな拠点。
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だがその裏で――
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“何か”が歪んでいる。
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(面白くなってきたな)
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俺は小さく息を吐いた。
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成長と同時に。
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真実にも、近づいている。
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(続く)




