第19話「分岐」
戦いは、長くは続かなかった。
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「……終わりだな」
リドウが拳を下ろす。
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地面には、倒れた暴徒たち。
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だが――
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「まだ生きてる」
リリーニャが確認する。
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「大丈夫です。命に別状はありません」
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光が淡く広がる。
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負傷者の手当てが進む。
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「……助かった」
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住民の一人が、震えながら頭を下げた。
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フィートスはそれを見て、ゆっくりと息を吐く。
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「……すまねぇ」
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小さく、呟く。
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誰にも聞こえないような声だった。
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だが――
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俺には聞こえた。
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「……行くぞ」
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フィートスが顔を上げる。
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「ここは一旦落ち着いた」
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「次に行く前に、拠点を押さえる」
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「拠点?」
フウカが聞く。
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「俺たちのアジトだ」
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翼がわずかに揺れる。
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「情報も、人も集まってる」
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「状況を整理するにはそこが一番だ」
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俺は頷いた。
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「合理的だな」
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数時間後。
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フィートスのアジト。
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岩山の中腹。
隠れるように作られた拠点。
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中には――
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負傷者。
戦闘員。
そして、怯えた人々。
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「……多いな」
リドウが呟く。
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「これでも一部だ」
フィートスが答える。
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「各地で同じことが起きてる」
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沈黙。
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(やはり、一箇所じゃない)
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俺は状況を整理する。
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そのとき。
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「……私はここまでだ」
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クローが口を開いた。
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全員の視線が向く。
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「報告がある」
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「アナグラムに戻る」
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短い。
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だが、それだけで十分だった。
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「……そうか」
リドウが言う。
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クローは軽く頷く。
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「次に会うときは――」
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一瞬、間を置く。
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「状況が変わっている可能性が高い」
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それだけ言って。
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背を向ける。
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「……行ったか」
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誰も止めなかった。
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その夜。
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簡易的な会議が開かれた。
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「現状は三つに分けられる」
俺が言う。
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「暴徒」
「避難民」
「アナグラム」
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「全部が混ざってる」
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フィートスが頷く。
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「だから厄介なんだ」
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「なら分けるしかないな」
リドウが言う。
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俺は頷いた。
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「役割を分ける」
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視線を全員に向ける。
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「リドウ」
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「ああ」
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「前線だ」
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「暴徒の鎮圧、現場の確認、保護」
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「分かりやすいな」
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フィートスが笑う。
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「俺もそっちだ」
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「空から全体を見る」
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リリーニャが一歩前に出る。
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「私も行きます」
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「回復と支援が必要です」
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「決まりだな」
リドウが言う。
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「残りは――」
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俺はフウカを見る。
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「こっちだ」
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フウカが少し驚く。
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「え、私?」
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「戦力が足りない」
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「鍛える」
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ドミールがくすりと笑う。
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「いいねぇ」
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「ちょうど観察したかったところだ」
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「……観察って」
フウカが不安そうに言う。
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「安心しなよ」
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ドミールが軽く手を振る。
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「ちゃんと面倒は見る」
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「たぶんね」
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「たぶん!?」
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小さな騒ぎ。
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だが――
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空気は悪くない。
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「俺たちは後方だ」
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俺は言う。
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「情報収集」
「支援」
「そして――」
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「強化」
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フウカが小さく頷く。
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「……うん」
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その目に、迷いはなかった。
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翌朝。
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二つの隊が分かれる。
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「じゃあな」
リドウが手を上げる。
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「死ぬなよ」
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「そっちこそな」
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フィートスが笑う。
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「安心しな!」
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「俺がいる限り、そう簡単には崩れねぇ!」
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リリーニャが深く頭を下げる。
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「また、必ず」
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フウカも手を振る。
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「気をつけて!」
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分かれる。
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道が、二つに分かれる。
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前線と、裏方。
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戦いと、準備。
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だが――
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どちらも同じ。
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「……始まるな」
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俺は小さく呟いた。
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本当の戦いが。
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(続く)




