第10話「包囲と歪んだ理(後編)」
「――遅れて悪いな」
リドウの拳が、魔法を粉砕した。
炸裂した衝撃が、空気を震わせる。
「リドウ……!」
リリーニャが息を呑む。
「一人でやるな」
短い一言。
だが、その背中は圧倒的だった。
「今は二対一だ」
リリーニャは小さく頷く。
(いける……!)
だが――
「甘いわね」
女の声が低く響く。
次の瞬間。
空気が“裂けた”。
見えない刃。
風。
それが無数に走る。
「っ……!?」
リリーニャが反応するより早く、頬が切れる。
遅れて血が滲む。
「見えない……!?」
「見せてないだけよ」
女が笑う。
その体が、ふっと消えた。
(速い……!?)
気配が消える。
位置が掴めない。
次の瞬間――
背後。
「ぐっ……!」
リドウの背中に風刃が叩き込まれる。
衝撃で体が前に揺れる。
「リドウ!」
「問題ねぇ」
即座に立て直す。
だが、次が来る。
横。
上。
斜め。
“予測不能”。
「風は形を持たない」
女の声が響く。
「だから――捉えられない」
連撃。
切り裂く音。
空気が悲鳴を上げる。
(このままじゃ……!)
リリーニャは歯を食いしばる。
(見えないなら――)
目を閉じる。
耳を澄ます。
音。
風の流れ。
わずかな歪み。
(そこ……!)
「右です!」
叫ぶ。
リドウが即座に反応する。
拳。
風と衝突。
爆ぜる。
「チッ……!」
女が舌打ちする。
(いける……!)
「続けます!」
音魔法を広げる。
空間全体に“感知”を張る。
風の軌道が浮かび上がる。
「見えた……!」
リドウが笑う。
「いい支援だ」
踏み込む。
今度は速い。
風の刃を掻い潜る。
距離を詰める。
「なっ……!?」
女が驚く。
「捉えられるはずが……!」
「一人じゃ無理でもな」
リドウが言う。
「二人なら届く」
拳が振るわれる。
だが女も避ける。
速い。
まだ足りない。
「リリーニャ!」
「はい!」
音が変わる。
今度は“加速”。
リドウの身体能力が跳ね上がる。
「――行くぞ」
一瞬で間合いを詰める。
「っ……!」
女が防御する。
だが――
遅い。
「終わりだ」
リドウの拳。
「終わりです!」
リリーニャの音が重なる。
衝撃が爆発する。
女の体が宙を舞い――
地面に叩きつけられた。
動かない。
決着。
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■フウカ&カタリーニャ vs モーデ
「でも、まだ終わってないよ」
背後から、ぞっとする声。
振り返る。
モーデ。
笑っている。
だがその目は、笑っていない。
「一つ一つは弱い」
指を鳴らす。
魔法陣が展開される。
「でも――数はどうかな?」
次の瞬間。
無数の魔法が放たれる。
火球。
氷槍。
雷撃。
石弾。
小規模。
だが――
途切れない。
連続。
連射。
「フウカ、下がって!」
カタリーニャが前に出る。
爪が赤く染まる。
「ホットスパロウ!!」
高温の軌跡が走る。
魔法を弾く。
だが――
多すぎる。
一発、二発、三発。
被弾。
「ぐっ……!」
血が飛ぶ。
それでも止まらない。
「いいね、その顔」
モーデが笑う。
「でも、まだ足りない」
さらに魔法が増える。
重なる。
軌道が複雑になる。
(まずい……!)
カタリーニャの動きが鈍る。
傷の影響。
反応が遅れる。
一発が直撃。
「がっ……!」
膝をつく。
「お母さん!!」
フウカが叫ぶ。
だが攻撃は止まらない。
「守れるかな?」
モーデが囁く。
「全部を」
魔法が降り注ぐ。
逃げ場はない。
「フウカ……逃げて……」
カタリーニャが絞り出す。
だがフウカは動かない。
震えている。
拳を握る。
(なんで……)
(なんで……!)
目の前で。
大切な人が傷つく。
守れない。
何もできない。
(嫌だ……)
その瞬間。
何かが、弾けた。
「やめて」
小さな声。
「やめてよ……」
空気が震える。
魔力が暴走する。
「もう……やめてぇぇぇ!!」
光が爆発した。
「――双猫化」
二つの影が現れる。
フウカが――二人に分かれる。
一人は紫の耳。
一人は黄色の耳。
「なっ……!?」
モーデが目を見開く。
次の瞬間。
消えた。
(速い……!?)
視認できない。
爪が走る。
高温。
「がっ……!」
一撃。
二撃。
三撃。
すべてが急所。
回避不能。
「でも――」
言い終わる前に斬撃。
「がはっ……!」
体が崩れる。
「そんな……馬鹿な……」
最後の一撃。
沈黙。
モーデが倒れた。
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■戦闘終了
静寂が戻る。
フウカが元に戻る。
そのまま崩れ落ちた。
「フウカ!」
カタリーニャが抱きしめる。
リリーニャが駆け寄る。
回復魔法をかける。
「大丈夫……生きてる」
ほっと息が漏れる。
俺は空を見上げた。
(……終わったな)
だが――
(これは始まりだ)
アナグラム。
転生者排除。
そして、この世界の構造。
全部、繋がっている。
「行くぞ」
俺は言った。
「次は――こっちから仕掛ける」
理不尽があるなら、
壊すだけだ。




