死因:尊死、共倒れ
補修の帰り、二人でファミレスによることにした。
目の前に座る彼女は、楽しそうにメニュー表を見ている。
と思うと今度は険しそうな表情でメニュー表を睨みつけている。一人でブツブツ何か言っている。
「パスタ…いや、オムライス…やっぱり――」
「夕飯に差し支え…ってもうこの時間だと夕飯だな」
「誰かと…食事…か」
聞こえた言葉は聞かなかったことにして、メニュー表を彼女から取り上げる。
「あ…」
「流石に遅い」
大人しく決まるのを待っていたのだが、実はかれこれ店に入ってから10分くらい経過している。
店員さんに一回声を掛けられ、それでもまだ決まらないらしい。
待っている間にちびちび啜っていた水も尽きた。
「むむむむ」
頬を膨らまして睨みつけてくる。
そんなに譲れないものだったのか?別にそこまで悩むものでもないだろ、と思ったがここまで迷うんなら譲れないんだろうと結論を出した。
「すぐ決めるから」
ついでに、僕の方はまだ決まっていない。もう少し遠慮というのをしてほしいものだ。
「あ、そうだ」
彼女は何かを思いついたように声を上げた。
なんか碌な事じゃない気がしてならない。
「何?」
「オムライス頼んで私にも分けてよ、パスタあげるから」
え?こいつもしかしてこの二択であんなに迷ってたの?
…じゃなくて結局選べないのかよ…でもなくて
「ごめん、嫌だった?」
「いや、自由だなって」
そう言って、ベルを鳴らした。
「じゃあそれで頼んどいて」
そして、注文はさり気なく夢に任せた。目の前でうまく話せない自分はちょっと見せたくない。
料理が届いた。
「小皿取ってくる」
「え?いいよめんどくさいし」
そう言った彼女はパスタをフォークに巻き付け、こちらに向かって差し出してきた。
「ん」
「…」
「ん!」
フォークを勢いよく突き出され、身がたじろいだ。
「あ、もしかして恥ずかしい?」
彼女は挑発的な視線を向けてくる。そう言った本人も少し動揺している気がしなくもない。
直視できなくなり、思わず視線を逸らした。
ついでに、距離を置こうと思っていた自分の心にも逸らした。
「ふふっ、可愛い」
その言葉を聞いた瞬間、頭の中で何かがぷつんっと切れた音がした。
目の前に吊るされているフォークに嚙みついた。食べたパスタはあまり味がしなかった。
煽ってきた張本人の方が目を逸らした。
「あ…えっと、もう止めよっか」
「は?何言ってんだお前」
オムライスをスプーンで切り分けて、先程やられたまんまやり返す。
「いや、その…」
「はい、あーん」
構わず続ける。終わるまで終わらせない。
「…」
彼女もまた、動揺して目を逸らした。眼球が慌ただしく左右上下に動いている。
しかし、そんな彼女には目もくれず、何故か食べさせることに使命感を覚えた。やられたらやり返すの精神で。
「早く食べろ」
「はぅ―っ」
一瞬、彼女の体がビクッと跳ね、羞恥にまみれた表情で顔を近づける。さっきの態度とは裏腹に、命令した途端に素直になり始めた。
涙目になり、蕩けるような顔を赤く染めた彼女は、少しだけ身を乗り出して距離を縮める。
体を震わせながら、段々とスプーンに口を近づけ、垂れる髪を手で耳に掛けながらはむっとスプーン半分くらいを残して食べた。
―――を正面から見ていた。ゆっくりとスプーンを皿に置き、思考を巡らせる。
(な、なんかとても不味いことをしている気がする…)
悶絶する彼女には、目の前だからこそわかる色気を感じた。やらしいことはしていないのにやらしいことをしている気がして―――即座に煩悩を振り切り、全速力で思考を放棄する。
「さ、冷めるから、雨間さんも早く食べよう」
「…うん」
そう返事する彼女はまだ下を向いて赤くしている。
そんな彼女は放っておいて、さっさと食事を済ませようとオムライスに焦点を当て…当てるとそこには、先程彼女が中途半端に口に含んだオムライスがスプーンの上に乗っかっていた。
そして、無言で正面を向く。そこには、目が渦巻き状にでもなっていそうな彼女がゆらゆらと酔ったように揺れていた。
彼女は、僕が正面を向いて顔を見られていることに気が付くと、またそっぽを向いてしまった。
(落ち着け、冷静になれ)
そう自分に言い聞かせて、火照った体を冷やすためにコップに手を伸ばして、震える手で傾ける。
飲み終わったタイミングでそういえばコップに水が入っていないことに気が付いた。
(あ、もう無理、限界)
勢いよく立ち上がり、彼女を見下ろす形になった。驚いた彼女は手を止めてこちらを見た。
今の自分はどんな表情をしているのか…なんてことを考える余裕はない。
「水…取ってくる」
「お気をつけて…?」
そして、テーブルから勢いよく飛び出してこの空間を離れた。




