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微妙な空気の作り方

 



 定期テストの範囲が配布された。あと一週間ほどでテストがあるらしい。初耳ですね。


 先生の話お構いなしに、教室がざわつき始めた。その一方、隣の優等生は変わらない調子で先生の話をメモしている。

 今回も余裕なんだろうな、と思っていたら他の生徒が夢に対し今回も余裕なんだろうな、と言ったのを聞いて妙に気に障った。


 他人の心配よりも自分の心配をどうなんだ、と思うかもしれないが、今回も大きく結果が変わることはないだろう。やることがないせいで何だかんだでしたくもない勉強をしているため、大きく点数が下がることもない。ただ、やる気満々で授業も眠らずに集中出来ているわけではないので、多少は気にしないといけない。


 まあ、赤点取らなければいいか。なんてフラグを立てつつも、心意気は普段と変わらずに授業が終わった。

 帰る準備をしていると、隣から声がかかった。


「柊くんは今回テスト大丈夫そう?」

「なんとも言えない」

「そっか…」


 夢から何か言いたそうな雰囲気で会話が止まった。沈黙が流れる。

 よく考えなくても、なんとも言えないとは答えになっているのだろうか。

 なっているのかなっていないのかよくわからなく、何か言葉を続けたらいいのかもわからなくなってきた。


「あー、じゃっ…じゃあ―――」


 と空気に耐えられなくなり荷物を持って帰ることを伝え…普段帰ろうと言われている側なためなんて言えばいいかわからず言葉がつかえていると、持ち上げようとした荷物の力の方向が変わり、机に落ちた。


「これから暇?」

「あ、はい」

「じゃあ一緒に勉強しない?」


 何の変哲もない会話。別に特段いつもと様子は変わらないのだが、

 止め方といい、行動といい、ちょっと強引な彼女は、表情はいつもと変わらないように見えるのだがなんだか必死そうで…


(ちょ、力強っ)


 荷物の上に置かれた手からの圧力で、持ち上げようとしても物体がピクリとも動かない。

 本人も表情から必死さが抜けない。


「そうさせていただきます」


「やった」と小さく呟いた彼女は無邪気で…素直に可愛いと思えないのはなぜだろうか。

 これって逆らったら殺されたりしないよね


「あの、そろそろ離して…」

「あー、忘れてたごめん」


 む、無意識でっ




「わからないところとかある?」

「いや、そこまで」

「そっか」


 だから、そこまでって答えになっているのだろうか。

 ふと目の前で勉強をする彼女を見ると、少し寂しそうに肩をすぼめた。


「雨間さんってさ」

「ん?なになに?」


 勉強する手を止めさせる気はなかったが、止めてしまった。少し申し訳ない。

 彼女は話しかけたとたん、声が明るくなった。


「勉強するんだね」

「ん?」

「なんか頭いい人ってあんまり勉強してるイメージがないから」

「―――?」


 引き続き勉強を進める。ただ、何も起こらずに時が過ぎていく。やがて、集中力が切れ始め手を止めた。

 ふと目に入った彼女は、真剣な表情をしている。ノートに落ちた髪を耳にかけなおした。

 そんな彼女をただただ、何も言わずに見ていた。何故だか、日常にありふれているその動作に見惚れてしまっていた。


「…」

「私の顔に何かついてる?」

「え?いや、別に」

「手、止まってるけどどうかしたの?」


 流石に見惚れていたなんてこと本人には言えない。誰であろうとも言わないけど。

 自分で言ってて恥ずかしくなってきた。首から顔にかけて熱が上がってきている感覚が来て、頭が回らない。言い訳が何も思いつかない。

 彼女は自分を見ている。


「…」

「何かわからないところあった?」

「あ、ああ、そんなところ」


 言い訳の一番簡単な解すら見失っていた。どもるのも、頭が回らなくなるのも、少しは改善されたと思っていたんだけど、そんなことはないらしい。


「どこのところ?」


 そう言って彼女は身を乗りだす。

 自然と顔同士が近くなり、呼吸の音がより近くに聞こえる。彼女の髪がふわりと揺れると、不思議な甘い香りが横を流れ、視界には重力により強調された胸のラインが―――


「ねえ、さっきのあれ」


 声を掛けられ、斜め上を見た。真正面には彼女の顔が視界を占領し、周りの何もかもが白くなる。まるでこの場に二人でいるかのように。僕はただ、次の言葉を待った。


「…私に見惚れちゃってた?」


 目の前の少女は、片方の口角を上げ、にやっと小悪魔的な笑いを見せ…しかし、その表情はどうにも不格好で、ぎこちない。そして、本人は小さく震え、今にも泣きそうで…赤みが限界に達した。


「「―――っ」」


 熱が溜まり、頭の上で蒸気が爆発した音が二つ分聞こえた。椅子の背もたれにもたれかかって頭を冷やした。

 天井の光の中心を見つめて、全てが白く染まり、先程の光景がフラッシュバックされる。これの繰り返し。

 なんだか、とてもからかわれた気がするのに、自分で言っていて恥ずかしくなったのか、死んでいる彼女を見ているとそんなこともないのかなと思ってきて冷静になってきた。


 この後は、教えやすいからと隣に来てもらった。さっきみたいな事故(故意)はもう起こらなかったが、もう色々とキャパオーバーなため、彼女と勉強して集中が途切れない日は二度とこないだろうと思う。




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