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理不尽な距離

 



 学校へ向かっていつもの道を通っていると、いつものように突然、隣に自分と並んで歩く人が現れた。

 スクールバックを手で後ろ側に持っている様は、大人びた印象を与える。


 横を見ると、歩いている彼女と目が合った。

 まるで何かを待っているかのような彼女は、少し怒った表情で、ん、と身を乗り出して上目遣いでこちらを見た。

 その表情に思わずドキッとした。胸の高鳴りを抑えるために目を彼女から逸らした。


「…おは、よう」

「おはよう」


 横目で見た彼女は、満足げに目を閉じて前を向いた。

 勝手に隣を歩き始めて、こちらから声を掛けないと不機嫌になるのは理不尽だとも思ったが、本人はその状況を楽しんでいそうなのでそれが正しいと感じられた。

 ただ、学校ではちょっとした有名人な彼女はただでさえ目立ってしまう上、ヒエラルキー最下層…そもそも集団に属しているかどうかすら怪しい人間と隣を歩いている。こうなると周りから目立ってしまうのは必然で、それゆえ居心地が悪い。


 一緒に登校するのは出来れば避けたいのだが、こんな調子で近づかれたんじゃあ避けられそうにもない。なにしろ、本人に理由を言ったところで「それがなに」と一蹴されそうだ。それに、目立ってしまったり、自分のせいで彼女の価値が下がってしまうのが嫌なだけで、彼女といることは自体は嫌ではない…むしろいたい。


 …が、自分から寄って来ていつも無言になるのはなぜなのだろうか。

 こちらから勝手に寄って行っているなら避けて黙るかもしれないが、勝手に近づいてきて挨拶だけして黙って歩くのはどういう目的があるのだろうか。なんか用があるから近づいてきてるんじゃないのか?


 もしかしたら、ああ見えて本当は僕のことを嫌っているのかもしれない。わざわざ近づいて勝手に決まずい空気を作る、高度な嫌がらせなのか?こういう陰キャを弄んで楽しんでいるのか?

 もちろん、そんなことをしていると本気で邪推するほど自分は愚かではないし、相手のことも愚かな人間には思えない。

 出来ることなら、気まずいから何か話題を持ってきてほしいものだなとは思うが…


 ならいっそこちら側から思い切って何か話題を…と思ったが、っとこれを何万回検討したかは触れないでおこう。自分のためにも、自分に厭きられないためにも…考えがここから動いていない時点でもう手遅れか。


 それにしても、お隣はこちらの気も知らず、今にもスキップしそうなほど上機嫌に見える。表情などからは気まずいなどの感情を微塵も感じさせない。気にし過ぎているこっちが馬鹿なのか、それとも気にしてないあっちが強メンタルなのか。どちらにしても、自分が弱者であることに変わりはないようだ。

 それにしても、横から見る楽しそうな彼女から目が―――


「せいっ!」


 ボーっと彼女を見ていたら、不意に頬を押された。つま先立ちで、腕を必死に伸ばし指をピンと立てて届かせたようだった。

 何故だかわからずに混乱していると、


「しっかり前を向いて歩いて」


 と、頬を少し膨らまして注意された。しかし、彼女も彼女で不安定な姿勢が今にも崩れてしまいそうで危なっかしい。そのこともあり、本人としては怒っているつもりなのだろうが、大変可愛らしい構図になっている。


「…あ、はい」


 とはいえ、怒られてしまった。確かに歩いている最中に隣を見るのは良くないので素直に返事をする。

 しかし、そんなに気にすることか?と思い、他にも何か不機嫌にしてしまった原因を尋ねようとした瞬間、


「それに、そんなに見つめられると…」

「…と?」


 よく見ると、そう言った彼女の顔は少し赤みがかっていた。続きの言葉を促すと、彼女は目を逸らしてしまった。


「は、恥ずか、しい、し」…とボソッと聞こえた声は、全てを言い終わる前にだんだん小さくなっていって消えた。

 思わず彼女同様に目を逸らし、言われた通りにまっすぐ前を向いた。

 今彼女の方を向いてしまったら、自分の醜笑な顔を見られてしまいそうなので、聞かなければよかったと後悔しながら彼女への感情を押し殺すように会話を続けた。


「ああ、凄いご機嫌だったけどいつも何も話さないから気まずくないのかなと気になって」

「え?え、いや別に…」

「別に?」

「私はこうしているだけでも楽しいよ?」


 心なしか、さっきよりも距離が近づいているような気がした。

 それでも、その答えは曖昧で何一つ核心に触れていない気がしてたまらない。


「それはどういう―――」


 何かが胸の奥に引っかかり、また彼女の方を向こうとしたが、今度は向く前に指で止められてしまった。


「いちいちこっち向かないで!」

「はあ」


 止められる一瞬に見えた彼女の顔は、放った台詞とは裏腹にほんのりと笑っているように見えた。

 その表情含め、また彼女の謎が深まったのと同時に、距離が縮まったと思ったのは勘違いだと確信した。


「そろそろ離して」

「やだ」


 その日から数日、とあるつきまとう男子生徒を指で退ける夢が登校中に目撃されたという噂が流れた。




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