オネェのユニコーン③
「お姉さん、まずい人って?」
お姉さんの背中に乗り、リーフの元へと急いでもらっている。
カナデ、人生初の『本格的な』乗馬!
「性格…… なんて言えばいいんだろう。 とにかく近寄っちゃ駄目なのよ」
近寄ったら駄目?
何だろう、港町でリーフ達エルフを売っていたような商人なのかな?
「人身売買の商人よりも厄介ね」
--!?
分かりません!
「まぁ、会ってみたらヤバさが分かると思うわ。 楽しみにしていなさい?」
いやいや、ヤバいって言われてる人を楽しみに出来るわけないじゃん!
「よし、もう少しで着くわよ!」
お姉さんの走りは程よい速さで、彼女が走ったことで生じる風が心地よかった。
--多分今日のこれで普通の馬には乗れなくなったわ!
「あら、他の馬になんて乗られたら嫉妬しちゃう!」
嫉妬ネタは止めて……
もう嫉妬キャラいるから! キャラ被りするから!
「さ、この辺はイタズラ好きのインプ達が多いから気をつけてね?」
インプって、確かちっちゃいヤツだよね?
いやいやいや。 そんなのに何かされても、だいじょ--
「きゃあっ!!」
ええええええ!!
たった今、貴方が気をつけてって貴方が言ったばっかじゃん!
「どうしましょう、落ちるわ!」
お姉さんが走っていたら落とし穴を踏んでしまったようで、私達は今--
「いや、深すぎませんかこれ!?」
落下している。
「あらあら、インプ達もよくこんなに深い穴を掘ったわね……」
穴に落ちたというのに、お姉さんは人間の姿に戻ってインプ達のイタズラに感心していた。
「これ、どうやって上がりますか?」
ざっと十五メートルくらいだろうか、落ちてきた穴がとても小さく見える。
--人間だってこんなに深く掘るのは難しいはず。
「助けが来るまで待つっていうのもアリよ?」
ここ、一応森の中ですよ?
だだっ広い森の中の、こんな小さくて深い穴にピンポイントで来る人なんていますかね!?
「じゃあ登る?」
のぼ…… れる訳ないじゃないですか。
でもどうにかして出ないと死んじゃうし……
「カナデちゃんと死ねるなら、良いかもしれないわね」
「なっ、なんて事言うんですか! 死ぬとかそう易々と言わないで下さい!」
多分今のは私の心を読んでの発言だろう。
--そんな事を考えてしまった私も悪かったな。
「とりあえず、登れそうもないから奇跡を信じて一晩待ってみましょう?」
確かに十五メートルの土のまっさらな壁なんて登れる訳もない。
こればかりは運頼みか……
「カナデちゃん、大丈夫?」
夜も更け、穴に落ちてから三、四時間が経過しただろう。
--頭がフラフラしてきた。
「だ、大丈夫…… です……」
今日は暖かかったから、脱水症状か何かになってしまったのかもしれない。
でもお姉さんに迷惑はかけられない……!
「こうすることしか出来なくて、ゴメンなさいね」
お姉さんはそう呟くと、私の横に来て正座をし--
「お、お姉さん……?」
私の頭を彼女の膝の上に乗せ、膝枕を始めた。
初めての経験で恥ずかしさが出てくると思ったけれど、脱水症状だからか何とも思わなかった。
--むしろ感謝しかない。
「とりあえず寝なさい。 カナデちゃんの目が覚めるまで、こうしててあげる」
一回、二回と右手で頭を撫でられる。
「でも、そしたらお姉さんは…:…?」
彼女は一晩起きたままになってしまうかもしれない。
私の体調が悪いというだけで、そんな事までさせられない。
「いいのよ。 ユニコーンは寝なくても大丈夫な生き物なんだから」
--そうなの?
いや、そう言われても……
「はい。 目を閉じて…… 自分の体調だけを考えて?」
左手で目を優しく抑えられる。
それに合わせて目を閉じると、すぐに意識が無くなった--
「やっぱり、本物の女の子って可愛いわね」
ニンフィは言った通り、カナデが眠った後も起き続けていた。
そして人間の女の子:カナデを見て心の内を一人で述べていた。
「でも、なんだか不思議ね……」
ニンフィは依然、膝に乗っている頭を撫で続けていた。
「アタシ、自分の事を男の人にしか興味が無い、周りとは違う変な男だと思っていたのに……」
カナデの息が段々と上がってきている。
なるべく速く誰かが来てくれないと危険な状態かもしれない。
「アタシ、カナデちゃんを見てるとね……?」
「……」
ニンフィの言葉が詰まる。
落とし穴の中に数分ぶりの沈黙が訪れた。
「何だか、すごく変なんだけど……」
そっとカナデのおでこにキスをした。
本当は口にしたかったけれど、まだ確信が持てていないし、こういう事をよくする人がいたらと考えると申し訳なかった。
--彼女なりの妥協だ。
「いい事なのか、悪い事なのかアタシには分からないけれど……」
ニンフィの唇が震える。
当然だ。 今まで無かった事を、偶然出会っまた彼女が起こさせたのだから。
「アタ…… お、俺は……」
カナデを撫でるニンフィの手が止まった。
と同時に、ニンフィの左目から涙が一粒落ち、膝枕をしている子の頬に落ちた。
「本来あるべき姿に、『男』に戻っちまいそうなんだ……」




