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第9話 理想は相思相愛

 リョリルとルットは話し合うことに――。

「付き合いから、始めてくれないか」

「ごめんなさい」

 机を挟んで右側に座っている。ルットに対して、左側のリョリルが謝った。

 リョリルの左側にレシアクスが座って2人を見ていた。

 ディレットとサンデスは2人共、自分の部屋にいる。

「君を幸せにする。自信はあるのだが……」

 フェトルは、離れた場所から見ていた。

 部屋の中に高価な調度品は無いが強いて言うなら、全て堅牢な作りに見える。

「好き、なんだよ」

 ルットは小声で呟いた。

(本当にわたしのこと、好きなのかな……)

 心の中でリョリルは、溜め息をつく。

 考える。

「ルットさんは、わたしの優れているところを褒めれますか?」

 ルットは椅子から立つ。

「可愛い、美しい、瞳が大きい、綺麗な髪色。手足が綺麗」

「内面の性格は、見ていないんですか?」

「それは」

「外面しか、見ていないんですね。ルットさん」

 ルットは立ったまま、言葉を詰まらせた。

「ルットさんは、女性のことをただのアイテムとしか。見ていないんじゃないですか?」

 ルットの表情が強張る。

 椅子の上に体が落ちた。

「それは……」

 俯く。

「他の子にも、付き合ってと言っているみたいですね。保険のつもりですか」

「本当にわたしのこと、好きなの?」

(ちょっと、言い過ぎたかな)

「結婚は相思相愛で、するべきでしょ」

 涙ぐむルット。

 リョリルは、察して自分の部屋へ向かった。

 咽せ込んで大泣き。

 ルットに優しく接する、レシアクスの思いやりに対してフェトルは思うことがあったようだ。


    §  §  §


 2日もロガールセン家でお世話になっていた。

 目の前でディレットは、捻った右腕を突き出す。

 軽く空気が振動する。

 左腕を前に出す。

 ディレットは、何時も裏庭で格闘技の練習をしていた。

 試しに見学させて貰ったら、まったく駄目だった。

 ――体を使えていない!

 お父上の影がちらつく。

 その通りで、ディレットは体を有効に使えていなかった。

 技にキレが無いにも関わらず、空気は振動する。

 眼に魔力を流して、観ると魔力を腕に流すのは巧い。

 だが、技に技術を感じなかった。

 これでは、本末転倒だ。

「ディレットさん。こうすれば、いいんじゃないか」

 体ごと振り向いた、ディレットに見詰められる。

 構える。右腕の力を抜き、力を込めながら打つ。

「ドォッン!」

 前方に衝撃波が発生し、砂埃。

 緑樹の葉っぱが数枚、舞い落ちる。

ちょうえつ!」

「え?」

 駆け寄ってきた、ディレットは開口一番。

「教えてくれませんか、フェトルくん」

 運動した後のほんのり火照った顔が近づいてくる。

 直ぐに承諾する筈だったのだが、何故か声を出せなかった。

「お姉ちゃん。お父さんが、呼んでいましたよ」

 リョリルの声が聞こえた瞬間。ディレットは、地面を蹴って後退する。

「あのこと、話したんですか?」

「いいえ、違います」

 ディレットはリョリルの元へ走って向かう。

 思いついたように振り返る。

「また後で、フェトルくん」

「教えます!」

 お父上、あなたから学んだこと全て使わせて貰います。

 緑樹を見ながら、思いを馳せた。


 

 ディレットは、ロガールセン家の前で直立していた。

 修行1日目。

 ディレットから、2日で全て教えて欲しいと言われたので無理な注文とは思いながらも。

 本人の修行と実演を、同時並行で行っていた。

「ただ、足を出すのでは無く。軽く上げて蹴る」

 空気を蹴る。

「関節を利用し、捻りながら蹴る」

 右に少し持ち上げた、足を薙ぎ払うように蹴って、空気を切り裂く。

「一番威力があるのは、力を抜いてから一気に力を伝えながら蹴る、打つ」

 少しだけ、砂埃が発生した。

 ディレットを見ると目蓋を閉じていた。

「目蓋を閉じない! りつぜんで、魔力を感じること」

「少し、地味過ぎません?」

「立ち方を極めることは、重要。後で、真価を発揮するんだ」

(2日間で、最終日に技の直接指導。2日の意味が、よく解からないけどな)

「指先に神経を通す!」

 これ、レヒツ中尉の言葉だった。

「集中、集中」

 構え直し、空気を殴り。

 技が見えるように、手抜きで蹴る。

 アリステラド人のテノル。

 精神構造は大人のようで、子供混じり。

 人とは言えない、身体能力。1秒の先にいる存在。

 もしあのとき、戦いになっていたら勝てなかったと思う。

 雑念を振り払って、右腕を前に出す。

 右掌を広げ、体の力を抜く。

 体の全てに神経を張り巡らす。

 魔力と体の力を一気に下から上に流し、数センチロスだけ掌を前に出した。

 空間が魔力で振動した瞬間。地面に亀裂が走りながら砂埃、轟音と共に衝撃波。緑樹が吹き飛び、砂は舞い落ちる。景色が一瞬で見えなくなった。

「っ……、嘘……」

 立禅のおかげで、吹き飛ばされずに済んでいたディレットの髪に砂と葉っぱが載る。

「嘘だろ……」

 砂と葉っぱが地面へと収まった後に残された光景は、裏庭が数10ロスに亘って陥没していた。

 特に俺の近くの、地面は陥没と隆起が同時に起きていて……。

「どうした!」

 サンデスは、大声で話しながらやってきた。

 リョリルとレシアクスも一緒だった。

「シャベル、貸して貰えませんか……」

 この時は、最適な答えをこれだと思っていた。


    §  §  §


 ショベルを地面に刺し、平らにしていく。

 徹夜したら、その日の内に裏庭が大体平らになった。

 2万グートの損失。

 植林する為に苗を購入したからだ。

 苗を朝、購入し植林していた。

 結構、農作業は腰にくるんだな。

「1日半で、全て終わらせるなんて。凄過ぎる」

 灰色作業着を貸してくれたので、服を汚さずに済んだ。

「昼ご飯を食べたら、修行の続きをしよう」

「はい!」

 いい返事だなと思いながら。作業着に付着した泥を指で摘まみ、取り除いた。

 そんなこんなで修行後。ディレットの寝室兼部屋に呼ばれた訳だが、どうしたものか。

「……。あの」

「何だ?」

 無言。

「一緒に行きませんか?」

(はい?)

 何だこれ。

 一緒に行きませんかと言われても。

 どこに一緒に行きたいんだ?

 ハーブ系の香りが部屋を漂っていた。

「わたしたち、この村から出て行きたんです。自由になりたいの」

 若しかしてあの時、見た……。

 作戦のことか!

「この村には、わたしたちがしたい仕事は無いんです。4年前ぐらいに突然、首領のお父さんが村の規則を変えて村から出ることを禁止されて迷惑してます」

 怒りを、言葉に込めた気がした。

 だからお父さんがいる時は、余り喋らなかったのか。

「きつい言い方ですまないが、外でどうやって生活する?」

「……冒険者で生計を立てます」

「わたしたちと言うことは、リョリルも連れて行くんだな。王国に行くにはリヤブラム密林を抜けないといけないが、そこはどうする?」

「リョリルは、魔法が使えます」

 一体、誰に教わったのだろうか。

 白いシーツが敷かれ、その上に布団。

 ベッドにディレットは座り、溜め息をついた。

「リョリルは、天才なんですよ。羨ましいほどにね」

 魔力の流れが見えても、現象魔法を俺は使えない。理由があるんだろうけど、普通の魔法は難しい。

 普通の魔法。魔力で、火、水、風、土、他にもあるようだが。

 これら現象を魔法として発動する現象魔法は、人体強化系魔法の自己強化魔法とは発動の難しさが段違いだ。

 例えば、円形のコップに上から魔力を注いだとしよう。

 自己強化魔法は、コップ一杯に注ぎさえすれば発動する。

 だが、現象魔法はコップが存在しないのに円形コップを寸分たがわず魔力で形成。

 そこへ魔力で形成したコップにコップ一杯丁度、魔力を注げと命令されている。

 見えるのにこれだ、魔力が見えない一般人になぜ魔法を発動できるのか聞いてみたい。

 意識をディレットに向けると、ベッドに背中を倒していた。

「はぁー……。強くなりたいな」

 決意する。

「まだ、弟子を独り立ちさせる訳には行きませんよ。邪魔じゃないなら、付いて行ってもいいか」

 強さを求める者に、世話を焼き過ぎだな。

 人故の甘さか。

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