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第18話 始まりの場所

 バスの中では、会話らしい会話をしていない。

 話し出したら、周りに迷惑を掛けそうな気がしたからだ。

 目的地近くの停留所で、バスから降りる。

 横断歩道を渡り、動物園に向かう。

 今日はデートをするには、丁度いい日和(ひより)だ。デートではないけど。

 あと、少し風が冷たいけどな。開絵さんは左前髪を、空色のヘアピンでまとめていた。

 新鮮だな。



 動物園の中で、立ち止まって考えていたら。

「早く行こ」と少し離れた場所にいる開絵さんから、声を掛けられた。

 駆け寄り答える。

「解かった」

 左側にいる開絵さんと並んで話しながら、動物を見つつ、歩いていた。

 4、5歳の男児がベビーカーを押していた母親を追い越し、俺たちの方へと走ってくる。

「開絵さん。目の前」

「解かってる」

 周りを見渡すと逃げ場が、ないことに気づく。

「待ちなさい、(みなと)!」

 開絵さんは、ぶつかりそうになった男児の両肩に優しく両手を当て動きを止めた。

「大丈夫?」

「うん」

 簡単に頷いた男児に開絵さんは、しゃがんで目を合わせ口を開いた。

「走る時は、前を向いて走ろうね」

 両親が、やってくる。 

 どちらも、30代ぐらいだろうか。

「ごめんなさいね」

 母親の言葉に「いいえ」と開絵さんは答えた。

 気を取り直し、他の動物を見にいくことに――。

 ガラスの枠越しに、茶色体毛のシロテテナガザルと煤竹色体毛のシロテテナガザルがじゃれていた。

 見渡すまでもなく、人が多数集まっていることに気づく。

「行きましょう。直久さん」


 カワウソが展示されている室内は、ひんやりとしていて薄暗かった。

「あのとき、助けに入ろうかとも考えていました」

 ゴブリンのことか。

 あれが、徒手の限界だな。表面は本当に硬かった。

「えっと、何か格闘技をしてた?」

「格闘技では、なくて。護身術かな」

 護身術、柔術を元に世界各国で発展継承され。それが、日本に入ってくるという和洋折衷。

 早い話。一言では語れないと言うことだ。

「そうだ。こんど、見せてくれ」

「直久さん。ここでいつまでも、立ち話をしていると周りに迷惑かも。そこのベンチに座ろ」

 開絵の指を差した場所にある。ベンチへと2人で向かう。

 ベンチに2人で腰掛けた後に気づく。

 ベンチが思っていたより狭く。数センチメートルしか、2人の間は離れていなかった。

「さっきの話、ですけど。明日以降、時間が出来たらメールします」

 近くにいるせいで、顔を向け辛い。

「解かった」

 クリーム色の小さい鞄から、煉瓦色の手帳を取り出し、パラッとめくった。

「行き成りと思うけど、名前の呼び方。決めません?」

 本当に直球で聞いてくるな。

 聞こえてくる声だけで、子供たちがはしゃいでいるのと両親が、それに手を焼いている光景が浮かんできた。

「俺は、さん付けで呼んで貰えれば。それでいいな」

「じゃあ、直さんで宜しいかね?」

 聞き間違いでは、ないよな……。

 若しかして、ネタで言ったのか?

「そこは、笑うところだよな?」

「もう……(琴ちゃんのバカ!)」

 あ、心山さんの悪口が聞こえた。

「大魔導師みたいだな」

 川一なら、こう言うと思ったから。

「うん。そう言われるって、琴ちゃんから言われた」

「弓菜さんって呼んでもいいか?」

「来年からなら……」


 そんなこんなで、動物園を出た俺たちはバスに乗って移動。

 喫茶店へいくことにし、現在。喫茶店の店中。

 お金なら、異世界往来監視局から8万円程度。受け取っていたので余裕があった。

 俺の家から数キロメートルの場所にある。近頃出店された喫茶店は、珍しいことに完全禁煙だ。

 テーブルを挟んで、向かい合って座り。

 店員から勧められたブドウジュースを2杯頼んで話しつつ飲む。

「失礼します」と開絵さんは席を立って、離れる。

 ここで口を挟むほど、野暮ではない。

 左手首につけた腕時計を見る。

 昼の12時丁度に待ち合わせをして今は、4時15分。

 店の中を見渡してみたら、20代から70代ぐらいの客層。

 明らかに俺たちが、最年少の客だな。

 店内に流れるBGMは、クラシック。ピアノとヴァイオリンの協演。

 頭の中で思いを巡らせる。

 今まで、8度の戦いをしてきた。倒した敵はゴブリン、コボルト、ボスコボルト、ボガート、オーガ。

 メイスを振り回していた、ゴブリンの戦いから比べる。

 じょじょに、人を超え始めているかもしれない。

 背後に開絵の魔力を感じた。

 いつか、人の殻を破りそうだなとつくづく思う。

「お待たせ」

 それから数10分間、談笑した。

 そろそろ、帰りましょうと先にきりだされた。

 荷物をまとめ、会計に2人で向かった。


「お会計は1400円になります」

 ブドウジュースは1杯700円。割り勘で支払い、喫茶店の外に出る。

 外では雪がぱらぱら、降っていた。

 先ほどより、冷え込みが厳しく。

「今日は、とっても楽しかったです」

「俺も同じく」

 並んで、話しながら歩いていたら。開絵を途中まで、送別することに――。

「あっ! もう5時半過ぎだ。ここまで、ありがとう。

 あと、時間が出来ても出来なくてもメールします。では、またね」

 開絵の背中へ向け。

「気を付けて!」

 小走りの状態で、頷かれる。

 家へと向かって走り出した開絵の後ろ姿を俺はただ、見守り続けるのだった。

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