第17話 純粋な愛は冬休みから
開絵、勾乃、心山の3人は直久が処置室に向かった後。
談笑をしながら、時間を潰していた。
「本当?」
「ほんと、ほんと出会って4日で告白だよ。ほんと信じらんないって思ったけど、最後にまさかの展開があったんだよね~」
小説の話だと思っていた開絵は、開口一番。
「どんな、題名?」
勾乃は、右手で口を押さえる。
「心山琴咲」
「ええ?」
「もう駄目だっ」
勾乃が笑い始めた。
「これは、両親の恋愛秘話だったのです」
「本当なの!」
扉がスライドし、直久は右手首に包帯を巻かれた姿で彼女らの元へ歩いて向かった。
「弓菜ちゃん。本当の思いを、早く。伝えた方がいいよ」
開絵は、口元を軽く結び口を開く。
「それは、そうかもしれないですね」
独り。椅子から立ち上がり、直久に向かって走り出した。
直久の目先に立ち、目を合わせる。
「部屋の外で、話しませんか?」
直久は開絵の言葉に同意し、通路へと向かう。
誰もいない通路を並んで、歩き始めた。
「先に話しても、いいか」
静かに開絵は頷く。
一面。白塗りの通路は、最適な室温と湿度に保たれていた。
「右手首は、軽い魔力流痛障害。魔力を流すと痛みがあるけど、数日で完治するらしい」
「あの時、やっぱり。無理をしたんですね」
苦笑いをした直久は、話を続ける。
「ところで、どこに向かっているんだ。開絵さん」
「魔法練習場」
(魔法練習場? どんな話なんだろう)
立ち止まって考えていた直久に対して開絵は、命令する。
「いいから、来て下さい」
そう言い残し、足早に目的の場所へと開絵は向かった。
彼は、開絵の後姿を走って追いかけた。
魔法練習場は縦35メートル、横21メートル。吸音性タイルが2人の足音を完全に消す。
現在、2人は魔法練習場にいた。
無音の空間、壁は薄いホワイト。照明が灯った室内で開絵は、先に話し始める。
「先ずは、見てください」
直久の耳に開絵の息遣いが、聞こえてきた。
左手を前に出す。
「わたしの魔力を変換形成し」
常人では、見ることすらできないが、直久は視界に捉えた。
「綺麗な正四面体を、形成できている」
そうですか、と言いながら魔力を拡散させ発動を止める。
「やっぱり、魔力が見えるんですね」
直久は、ゆっくり頷いた。
(チートなのか。特別な体質のどちらかは、解かっていないんだよな)
「ここからが、本当の本題です。あの時、その……。告白をしてくれましたが、やっぱり。早いです」
(そうだよな。謝った方が、いいか)
口を開きかけた、直久に対して待ってくださいと言い止める。
「もう少し、観たいです。直久さんのこと、わたしに見せてくれませんか」
数秒の間が空く。
「ありがとう」
心の中で、直久は飛び跳ねて喜んでいた。
開絵は両手を背中に回して組み。肩を軽く揺らしながら、もじもじする。
行動の全てが、直久の鼓動を高めていることに開絵は、気づいていなかった。
「今度の冬休み、12月22日からですね」
(今年の冬休みは、12月22から1月5日までだったな)
「冬休み、一緒に動物園。行きませんか?」
(行き成り、しかも直球で!)
「い、いいんじゃないか」
開絵の顔が、ほんのり赤らむ。
「動物園は、独りより2人の方が絶対。楽しいですしその、あれです。まだ、デートではありませんから……」
まだ、その部分に少し何かを感じた直久は話題を変えようと口を開く。
「開絵さんはどんな、動物が好き? 俺は、ペンギンとカワウソだけど」
「そうですねー。カピバラ、アメリカンビーバー、セグロジャッカル、オグレプレーリードッグ。
アカギツネ、シマリス。他にもいるけど、そろそろ戻りません?」
(開絵さんって、動物に詳しいんだな)
頷いて同意した、直久は扉へと向かう。
開絵は、その後ろ姿を追いかけた。
§ § §
明日、12月24日。開絵さんと動物園にいく日だ。
浮かれずには、いられなかった。
4日前に異世界往来監視局にいった時。新しいライトノベルを柿谷から、渡された。
性能が上がったらしい。確か、倒した敵の魔力をより自分のものにできる。
このライトノベルは、開くことができないようになっている。
椅子から立ち上がり、扉の方を見ながら思う。
魔力を込め詠唱することで、武器化するライトノベル。
どのように考えても、変な話だ。
今の日常が、開絵さんとの出会いをくれた。
人生。何が起こるか解からないから面白い。
扉に掛けたカレンダーの23日に、赤色ペンで線を入れる。
右側にある本棚へと向かい。『ラノベ・マンガ・ラノベ 9巻』を掴み、椅子に座った。
どこにでもあるコンビニ。そこで、直久は約束をした相手がくるのを待っていた。
中年男性が、直久の近くにあるゴミ箱へコンビニのビニール袋、一杯に詰め込んだゴミを捨て。
店の中に入っていった。
1人の女性が、直久に近づいてくる。
「お待たせしました」
「時間丁度ですよ。開絵さん」
直久とコンビニの近くにある。バスの停留所へ2人で向かい始めた。
開絵はエクルべイジュのトレンチコートから、覗かせる。
スカイブルーとホワイトのボーダー柄シャツ。丈の長いパンツの色は、テラコッタを穿いていた。
全体的にクリーム色の小さな鞄を、右肩に掛けている。
直久は、ネービーブルーのジャケットと普通の長袖シャツ。アンバーのパンツと言う出で立ちだった。
珍しく、大気が綺麗なのか上空は霞んでいない。
2人は停留所で、目的のバスを待つ。数分後に停車したバスに、2人で乗り込む。
バスの中では、2人共ほとんど話をしなかった。




