第16話 片思いだけど
こんな状況なのに、開絵さんのことが気になる。
ブレザーとスカート越しに見える体のラインに目を奪われ、敵に集中できない。
出ていけ、煩悩。
顔を左右に振る。行き成り、右腕に痺れが走り剣を地面に落としてしまった。
しゃがんみ右手で剣を掴もうとするが、激痛が走り。掴むことができない。
「いたっ!」
腕を戻した動作で、痛みがくる。
「大丈夫ですか?」
開絵さんに心配されるが、大丈夫と答えておいた。
左手で剣の握りを掴み、立ち上がる。
よくない状況だ。
右手首のことを悠長に考えていたら、ボスコボルトが迫ってきた。
予想到達地点に、剣を振る下ろすと軽い金属音。腕ごと弾かれる。
魔力が放電したように、飛び散った。
「直久さん!」
開絵からの呼び声で気づく。景色が前に飛んでいく、痛みの場所から考えるに蹴り飛ばされたのか。
地面に両足をつくが、数メートル後退させられた。
左足首が少し痛む。
目の前で開絵さんとボスコボルトが、剣を打ち合っていた。
流れてくる金属音。飛び散る魔力、人が戦いの時にのみ発生させる。熱い魔力。
それら全てが、体に訴え掛けてくる。あの頃に戻れと。
じょじょに開絵さんは、押され始めていく。
心山の悲鳴と同時に開絵さんは、右へ薙ぎ払われた。
俺は走り始める。開絵さん空中で体勢を立て直し、転倒を自らの力で防いだ。
ボスコボルトの前に立ち塞がる。
背後に開絵さんと言った、状況。
剣を中段に持っていき、刀身を横に向け構えた。
体の限界を超えた動きは、体に負担が掛かり過ぎるから行いたくはなかった。
振り返り、開絵さんの顔を垣間見る。
今だけ、一番大切な人に格上げさせてください。
心の中で最後に謝る。
「(でも。一目惚れで、片思いだけど……)」
「何か、言いました?」
「開絵さんは、俺が守ります」
迫ってきていた敵に対して剣を薙ぎ払い。間髪入れず、突く。
恥ずかしい台詞を、声に出してしまった気がする。
冷たく強い風が、体を通り抜けた。剣が触れ合い、金属音を奏でる。
飛び散った魔力が頬に当たり、痺れが走った。
それでも、剣を振ることは止めない。振りにバリエーションをつけ、好機を待つ。
魔力を剣に浸透させ続ける。剣に浸透した魔力が、空色から臙脂色へと変化。
脱力後、直ぐに力を込め剣を振り下ろす。
ボスコボルトに地面を蹴って後退され、躱された。
一旦、体の動きを止める。昔の感覚に少しずつ、近づいてきた。
右掌を握ると痛みが、引いていたことに気づく。
右手に剣を持ち替え、振る。
問題はないようだ。
「自己強化魔法《直感》」
嘘だろ。
攻撃を防がないと。
ボスコボルトが、地面を蹴って迫ってくる。
剣を振り下ろすして防ごうとするが、胴体に衝撃を感じた瞬間。地面に背中を打ちつけた。
肺から空気が、一瞬で失われたような感覚に襲われる。
「直久さん!」開絵さんの声。「直!」川一の声。「直久くん!」心山さんの声。
地面に倒れたまま、何度も呼吸を繰り返した。
視界が魔力の影響で歪む。心の中で文句を繰り返す。
特殊な制服のおかげで、威力を低減させていると言うのにここまでとは。
左手を地面つき、立ち上がる。
開絵さんは、俺の前に立ってボスコボルトと戦うが直ぐに追い詰められ、蹴り飛ばされた。
俺の方に飛ばされてきたので、両手を広げて受け止める。
それだけで、体力を消耗してしまう。
地面を少しすべり、後退した。
ほとんど、開絵さんと体が密着した状態。両腕で抱きしめたい衝動に駆られるが抑える。
「勝ちたいな」
開絵さんから離れ、体に力を入れ気合を込めた。
「勝ちましょう! 直久さん」
人生は不思議だ。今日が助かったとしても明日どうなるかなんて、誰にも解からない。
「開絵さんは、理想的な女性です。初めて会ってから、1ヶ月とちょっとだけど」
剣を水平に構え。開絵さんの前に出し、ボスコボルトの振り下ろしを受け止める。
重い一撃だが、無理をすれば対抗できる筈だ。
「よく察してくれて、思いやりを感じる」
右足をと肘を少し前に出しつつ、力を抜き。一息に力を込め、右に薙ぎ払う。
「直久さん?」
薙ぎ払いを躱したボスコボルトは、剣を構え直す。
「一生、一緒にいたいと思える。1人の女性として、守りたい!」
敵に迫り、剣を打ち合う。隙ができたので前蹴りで、蹴り飛ばした。
「開絵さんのことを、もっと知りたい」
脱力し、縮地で迫る。
右から袈裟切りを行うが、剣を合わせられた。
力を加え続ける。
「一目惚れで、片思いだけど。俺は開絵さんのことが、好きだぁ!」
力を全身から抜く。
「魔力流下《急流突撃》!」
目先のボスコボルトに斬撃を浴びせ、砂を舞わせた。
右手首に痛みが走るが、動きは止めない。剣を振る度に思い出してくる、肘の角度。
腕、手首の使い方。
足、腰、体の動きの記憶が甦る。
1秒に3撃、途中から目で追うことができなくなった。
ボスコボルトの砂化と同時に、剣を振ることを止める。
体から力が抜け、地面に両膝を突いてしまった。
砂はいつもと同じく、綺麗に片付いた。
遠くから、サイレン音と共に赤色灯の光を感じる。
左手で右ポケットに入っているスマートフォンを取り出そうとするが、その前に空色の魔力リングに体を包まれ。瞬時に光景が変わった。
「あれ?」
ライトノベルが無い。
顔を持ち上げたら、柿谷が目の前にいた。その背後に、アタッシェケースを右手に持った研究員風の男性。白衣を身に着けていた男が、成功だと柿谷に対して耳元で呟き、アタッシェケースを手渡す。
「ここって、異世界往来局の建物内だよね。川一くん」
「たぶんそうだな。それにしても、あれは久しぶりに俺もドキドキしたわ」
「でも、ちょっとね――」
背後から聞こえてくるカップルの話で、今頃になって思い出し、少しだけ後悔する。
「ライトノベルは数日、預かって改修を行う。で、この4冊で間違いはないな?」
銀鼠のアタッシェケースを右腕で固定し、止め具を左手で外して開く。
「いつの間に」
開絵さんの驚きに同意した。
アタッシェケースの中には、
【ラノベ・マンガ・ラノベ 1巻】
【直球のアウトライン 1巻】
【直球のアウトライン 2巻】
【まさか、俺がオタクになるとは…… 1巻】
その4冊だった。
「最後に、直久。処置室に行くぞ、ついて来い」
俺は、3人に背中を向けたまま柿谷の後に続いた。




