第15話 フクオカ・シティ・モンスター
時が経てば経つほど、状況は悪化の一途をたどった。
『次のニュースです。福岡市内にて、魔物が出現すると言う。怪奇現象が頻発し、更に1部の市民が襲われる事件も発生しています』
マウスを操作し、ノートPCの音量を少し上げる。
『解説者に月刊ドウ編集者。皮谷敏夫とライトノベル作家で西洋怪物研究家の晴影京志郎氏にお越し頂きました』
ネットニュースの方が、朝から観たいものを扱っていた。
2人が呟きながら頭を下げる。
『えー、先ず。正確には、魔物では無く。モンスターと呼ぶべきで』
月刊ドウの編集者。年は40代ぐらいと思うが、嗄れ声だった。
『その通りであって。出現しているモンスターは、緑色の元妖精ゴブリン。これが多数を占めています。次に少数ではありますが、コボルト。オーガ、パックの湧き報告があります』
ラフな格好のライトノベル作家が、書類に目を通しながら言った。
よく考えたらこの作家、【まさか、俺がオタクになるとは……】の作者じゃねえか!
普通に出ているから、逆に気づかなかった。
ライトノベルって、以外に作者の名前はどうでもいいんだよな。
『湧きですか?』
女性アナウンサーが訊ねる。
『そうです。モンスターが出現することを、湧きと言います』
『ちょっと、いいか』
どうぞと女性アナウンサーが、皮谷に右手を向けた。
『モンスターに、半径4メートル以内には近づかない。スマートフォンを向けない、撮影しない。これを守れば、動くことは無い』
ライトノベル作家が口を開く。
『ネットでは、これを待機や硬直と呼んでいます』
『ドラゴンが出てきたら、陸自か空自の防衛出動しか。残されていない』
『そう言えば。この現象を予言したライトノベル作家が、居たことを知っていますか皮谷さん』
『ラノベ・マンガ・ラノベの六本松峰だろ。こんど特集を組もうかと思っている』
俺はノートPCを閉じた。
朝ご飯を食べたら、学校にいくとするか。
通学路は数ヶ月前の光景には、もう戻らないかもしれない。
先ほどから、数人の警察官が目に付いていた。
「何これ」
「うわっ!」
遠くから、女子の声が聞こえてくる。
歩き続けたら、誘導棒を振り声をかけ続ける。数人の警察官がいた。
「迂回してください!」
「立ち止まらない、進んで」
別の警察官が、トランシーバーを口に近づけ声を出す。
警笛が鳴り響く。
「近づかないで!」
白塗りの国産セダンが停車しなかった為、警笛が鳴る。
他の警察官は、誘導棒を振り続けた。
「立ち止まらないで、進んでください!」
ロードコーンに四方を囲まれ、コーンバーで立ち入れないようにされている。
その中にゴブリンが待機していた。
「進んでください。学校に遅刻しますよ」
ご苦労様です。
こんなにも人が多いと、魔法の発動は不可能だ。
「SMSに載せよーっと」
直ぐに警察官が、気づく。
「そこ、スマホを対象に向けない! 取り出さない!」
警察官の叫びは、魂の叫びのようだった。
物理の授業。先生が黒板にチャークで音の伝わり方に関する記号を書いていく。
「距離に波長――」
ドップラー効果。魔法に応用できそうな気がする。
早い話、授業どころではなかった。
魔力の性質と波長を組み合わせることは……。
授業が頭に入らない。
スマートフォンが、振動する。気をとられた瞬間に、黒板が埋まった。
こっそりスマートフォンを右ポケットから、取り出し確認する。
画面には、学校から800メートルの地点。他にコボルト6体と表示されていた。
少し考え、決断する。
挙手をしようと思ったら、チャイムが鳴った。
机の中から、ライトノベルを取り出す。
先生の言葉が耳に届く。
生徒全員が立ち上がり、同時に声を発した。
頭の中で剣術の確認。授業が終わり、教室の中が騒がしくなる。
「行こうぜ、直」
川一と同時に、心山がやってきた。
「直久くん。今まで言いそびれてたんだけど、ありがとう」
川一に説教したあれについてか。
椅子の背もたれに、ブレザーを掛け長袖Tシャツの袖を肘までまくり動き易くする。
開絵さんと合流してからだな。
1年1組へ3人で向かう。
1週間ほど学校を休んでいたのに、他の生徒から特別な反応はなかった。
親も含めてだ。
魔法を使用したのだろうと思うが、便利すぎるのも考えものだな。
3人で1組の教室を覗き込む。
開絵と目が合う。
「弓菜ちゃん。こっち、こっち!」
心山は開絵を手招きしつつ、呼んだ。
小走りでやってくる。
4人で下駄箱へと向かった。
街路樹の楠木を一瞥して走る。
100メートルを世界記録並みの速さで、駆け続けた。
「チャリ通学してくれば、よかった!」
3人の先頭を走る、右側に開絵さん。街路樹で日陰になっている歩道を駆ける。
「少し、ペースダウン……」
川一は、何とかついてきていると言った状況だった。
「がんば、川一くん」
川一と並んで心山は、俺たちについてくる。
4体のコボルトらしき、モンスターが観えてきた。
6体の筈では?
残りの2体はどこにいるのかは解からないが先ず、目先の4体を倒そう。
周りに人はいない。
体毛は薄汚れた銀鼠。犬顔で短剣を帯剣し、静止していた。
ライトノベルを構える。
「「魔力供給《事実》!」」
偶然にも、開絵と詠唱が重なってしまった。
ライトノベルにいつもより、大量の魔力が供給され武器へと変化。
驚く。
いつものフォルカタでは無く、ショートソードだったからだ。
右を見ると、少し困惑した表情で開絵はショートソードを見詰めていた。
声を出そうとしたら、
「同時詠唱。それだ、若しかするとそれで武器の種類が変化するとか?」
川一に先を越された。
「見てよ、あの4人。文庫持って、なんかゆってるー」
撰振理高校の生徒か、あきらかに遅刻だ。
「モンスターじゃん、めっちゃレアだよ。これ」
スマートフォンを、2人の女子が取り出す。
コボルトに向けられた、スマートフォンからシャッター音。
コボルトが顔を持ち上げる。
「魔力供給《突撃》!」
先手を取るまで。
体の力を抜いた状態から、縮地で滑るようにコボルトとの距離を詰め。左足を地面につけ体を一旦安定させ、左から薙ぎ払い2体同時に砂化さえた。
奇襲成功。
右足を地面に強く押し付け、体勢を安定させる。
持ち上げたショートソードを振り下ろし、コボルトを砂化。
刀身を寝かせ、右から水平斬り。
砂が宙に飛び散り、砂の粒子が太陽光を反射し煌めいた。
「モンスター、行き成り消えたし。どうなってんの?」
数メートル先にいる。女子生徒に「これ以上。関わるなら、オタクになるぞ」と投げ掛けたら。
訳解かんないし。と言われるが、女子生徒を追い払うことに成功した。
背後から、冷ややかな視線を感じる。
振り返りずらい。
行き成り、強風が吹き。街路樹の枝についていた枯れ葉が宙を舞う。
合わせるように、重圧が飛んできた。
体ごと振り返る。
2体のコボルト。右のボスらしきコボルトは体毛がオオカミみたいだった。
心山と川一は重圧に負け、膝を地面についてしまう。
その先にいるコボルトとボスコボルト。
薄い砂色に重なるように銀鼠と勝色の体毛は、強さの象徴みたいだ。
「開絵さん。2人を守らないと」
「ですね」
ボスコボルトに近づく。俺たちの接近を嫌ってか、体中から魔力を放出し始めた。
歩道に落下していた落ち葉が舞い上がる。
コンビニのビニール袋が飛んできたので左手を使い、右から払い落とした。
足を進め、川一たちの前に出る。
「心山さんと川一、後ろに下がってくれ」
ボスコボルトが消えた。目では確かに見えたのだが、体の反応が遅れる。
両手で短い握りを持ち、下から振り上げると衝撃。
右掌に痺れが走り、危うく剣を落としそうになった。
ボスコボルトのバスタードソードが、ショートソードに重ねられていた。
無言で力を加えてくる。
両足に力を入れ対抗。時間が経つほど手の痺れが増していく。
体の力を抜いて、一息で薙ぎ払う。剣の軌道にボスコボルトいなかった。
ボスコボルトにふわりと跳ばれ、躱される。
気づいたら、アスファルトの地面にひびが入っていた。左から火花が飛んできて更に、気づく。
開絵さんの保持しているショートソードとバスタードソードが交差していたことに。
金属音と共に魔力と火花が飛び散り、空気を振動させる。
観ているだけでは駄目だと思い。右からボスコボルトに迫り剣を振り下ろす。
空を斬ったが、距離を取らせることはできた。
ボスコボルトはコボルトに近づき、何かを呟く。
直ぐさま、コボルトが迫ってくる。剣を俺が振って砂化させた。
ボスコボルトは、独り言のようなもの呟きをながら。ゆっくりと後退した。
「直久さん。剣術指導の時、防御系魔法を教わってないですか?」
「習っていない」
少し離れた場所にいるボスコボルトは、剣に魔力を浸透させ始める。
「我が魔力を変換形成し発動せよ《火燐》」
左掌の上に火属性魔法を発動し、ボスコボルトに向け放つが、魔法は数10秒で掻き消えた。
観えてしまったものは、取り消さない。
これはもう、芸術だ。
ボスコボルトは数秒で俺の魔力に近い魔力質に変化させ。
それによって魔法を乗っ取られ、消された。
ラノベ・マンガ・ラノベで、こう言うシーンがあったな。確か、魔法掌握。
魔法をこれ以上、発動しても魔力の無駄だ。
そんなことを悠長に考えていたら、ボスコボルトが剣を持ち上げる。
ほぼ同時に、心山は俺たちの間に入ってきた。
「魔力供給《壁》!」
ライトノベルを右手で持ち、前に出す。半透明な壁が目先に出現。
「火炎連戟」
切断能力を持った、魔力浸透剣術魔法が壁に激突した。
数度の火炎連戟を防いだ壁は、役目を終え消える。
右へ顔を向けると街路樹が、数本切断されていた。
電柱が埋没化されていたことは、せめてもの救いだ。
魔力の影響なのか、先ほどより多数の亀裂がアスファルトの歩道に走っていた。
敵が魔法を発動する可能性は、考えていたがいくらなんでも、早過ぎだろ。
あのボガートはただの間抜けだったからよかったが、こいつはかなり強く。更に戦略を立て、挑んできている。
最近、冷や汗がよく湧く。
左腕で額の汗を拭う。風が吹き、汗を拭った場所に涼しさを感じた。




