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第14話 過去の栄光

 魔法を発動するには、空間把握力、想像力、認識力。

 魔力制御力が必要だった。

 昔の話だ。今は、詠唱文を詠唱と同時に魔力を込めれば魔法が発動すると言われていた。

 だが、5回も詠唱を行ったのに1度も発動できていない。

『直久さん。魔力を込める時、三角形の図形をイメージしていませんか?』

「態態、開絵さんの声で言わなくてもいいだろ」

『脈拍と脳波が、上昇しているよー。直久くん』

 どのように脳波を観測しているんだ?

 質問のような思いを、頭から追い出す。

 右腕を前に出し、魔力を込める。

 空色の正四面体が完成した。

『そうそう、詠唱も同時にね』

 右目だけで、ウインクされた。

 前に出していた右腕を右へ持っていき、肩の高さで水平にする。

 深く息を吐きながら、右腕を前に出す。

「我が魔力を変換(コンヴァージョン)形成し発動せよ《火燐(かりん)》」

 青白い火炎が出現した。

「簡単過ぎだろ」

『おめでとー、お兄ちゃん』

 確か、ラノベ・マンガ・ラノベの主人公は無了(むりょう)才矢さいや

 宮名留深とは、本当の妹では無い。

 異母でも、親戚でも無く。

 幼馴染みの宮名留深が、妹キャラを演じているだけだ。

 数分の休憩後、11回。

 火属性魔法を発動し、1度だけ成功した左手での魔法発動をもう1度行おうとしたら。

『この辺で、終わり。朝ご飯、準備出来ているよ』

 お腹も空いていたので、部屋の外へ出た。



 火属性魔法。火燐(かりん)を発動した後に、遅過ぎる朝食兼昼ご飯を食べ終わった後。

 1人ずつ呼ばれ。柿谷と話し、出された誓約書に署名をした。

 魔法練習場で、ライトノベルの扱いに、慣れてから晩御飯を食べた。

 その後に、4人で話し合っていた。

「魔法が使えるとか、夢みたいだ。あっ、そうだ。せっかくだし得意な魔法属性を把握しておかないか」

「誓約書の全てを読んだか。川一」

「読んだ、読んだ。大事なところは、三つ。誓約書に署名した甲は、以後。1度も出席せずとも、卒業出来るものとする」

 柿谷から、撰振理(せんぶり)高校は異世界往来局の私立校。

 ここで、もう投げ遣りだ。

「あとふたつが、出現したモンスターを倒して欲しい。敵を倒した日には日給が発生し、翌月支払われるんだって」

「琴咲さんは、その……意外でした」

 開絵さんから、心の中に言葉を押し込めたような気がした。

「そうかな? 理由はちょっと、恥ずかしいから。秘密にさせて貰っていい」

 少し、はにかんで心山さんが独特の雰囲気を作る。

「あのホログラム、リアル嫁じゃねーの。あれが実用化された日には、少子化問題が更に不味くなりそうだよな」

 川一、お前は壊し屋か。

 クラッシャー川一だ。今日からお前は、クラッシャー川一さんだよ。

 何故か失笑しそうになるが、堪える。

 ふと、心山さんの顔をみたら。涙を零しそうな表情だった。

 脳内の知識から何故、心山さんが涙を零しそうなのかが解かる。

 寂しい。

 川一……。

 これは本来、制裁対象だが今回は最適な対処法を教えてやるか。

 席を立つ。

 机を挟んで俺の前に座っている心山さんに対し、ボディータッチ。

 ここで、それは不味いだろ。

 右肩を触られた心山は席を立ち、走って扉の向こうへと消えた。

「……反省してください、川一さん!」

 ステンレス製の机に両手を叩きつけ、立ち上がり。心山を追いかけた。

「どうしたんだよ、2人共」

「川一。今取るべき行動は、と言うより話しがある」

「何だよ、改めって」

 川一について来てくれと言い、魔法練習場で話すことにした。

 

    §  §  §


 2人は、離れて向き合っていたがまだ一言も発していなかった。

「……心山さんに対して誤った。対応をしていないか、川一」

「いつも通り、だって」

(何が、いつも通りだ。本当に)

「本当に、気づいていないのか」

「一体なんだよ、(なお)

 直久が左腕を前に出し、口を開く。

「我が魔力を変換(コンヴァージョン)形成し発動せよ《火燐(かりん)》」

 青白い火炎が、左掌の上に出現した。

「力を、持ってしまったからこそ。話さないといけない」

 火炎に怖じ気づいた川一は、黙る。

 直久が魔力の供給を止め、魔法を消される。

「心山さんのこと、本当に愛しているのか。川一」

「……好きだよ。ライトノベルと同じぐらい、愛してる」

(即答は出来ないのか)

「お前の中では、ライトノベルが一番であって。心山さんはその次だ」

「そんなことは、そんなことは……。何で、解かんねぇ」

「ライトノベルが大好きなお前は、心山さんでは無く。ラノベとアニメを嗜む心山さんの趣味性が好きなだけだ」

 川一が地面に両膝を突く。

「一体、いつ無くしちまったんだ。昔のラノベが食わず嫌いだった時には、あったんだよ」

「それは、ラノベと言う娯楽を節度を持って楽しめていないからだ」

「節度を持って、楽しめていない? 教えてくれよ、直」

「心山さんの内面を見ていたか? 心山さんから、オタク要素を抜いた状態の内面を思い出せるか」

「……、何で。思い出せる筈なのに、何で!」

(お前も、人の外面しか見ていなかったのかよ)

「何が足りない。俺には何が足りなんだよ」

 川一は頭を両手で抱えて、俯いた。

「相手の気持ちを考えて。生きているか、川一。新山さんを思いやったか?

 さっしてあげたか? この世界では、俺たちは子供かもしれないが異世界では、大人だぞ!」

 2人の魔力が膨張していく。

「あぁぁ、くそ!」

 魔力をまとった川一の両拳が、地面に叩きつけられ小さな亀裂が走った。

(魔力流下だと……)

「最悪だよ、自分が憎いわ……。だが、ぜんぜん俺は未熟だ。もう1度、やり直させてくれ」

「心山さん次第だろ」

「ありがとう。最後にオタク的なことを言わせてくれ」

(懲りんな)

「勝手にしろ」

「俺は……。こんな感じで、回想シーンが入るよな。だけど、人生ってのは後悔を(かて)にしなきゃならね」

(気づくのが遅い、川一)

「琴咲をいちから、愛し直す。たく、こんなセリフ。少女マンガでしか使わねえよ」

 川一は右手を地面につけ、立ち上がる。

「強くなっちまったな」

 亀裂を見ながら、川一は扉の方へと歩いて向かう。

(自分で言っといて、思いやりを実践していたか。怪しいもんだ)

「ありがとな、直」

 走って部屋を飛び出した川一の背中を直久は、自らの言葉と共に部屋から消えた。

「後悔しても、意味ないか」

 深呼吸に合わせるように、直久の背後にモンスターが出現した。

 気配に気づいた直久は、右膝を曲げ。地面を蹴り、大きく跳躍して距離を取った。

『直久さん。柿谷特殊執行官は、福岡市内において戦闘中の為。開絵さんと敵を倒してください』

「2人で、倒せる敵にはどうやっても。見えないぞ!」

『開絵さんにのみ、通達します。他2名は戦力外の為、了承してください』


    §  §  §


 何だこいつ。

 それが、第1印象だった。体毛はベージュで毛が逆立っている。

 瞳はカーマイン。ゴブリンのような顔つきだが、怖さが違う。

「大き過ぎだろ!」

 思わず叫んでしまった。

 例えるなら、ギガントゴブリンと同程度の250センチロス以上。

 違った、250センチメートル以上ある。

 柿谷が言うには、モンスターはどこにでも現れるらしい。

『個体認識。モンスター名、ボガート。ゴブリンの発展進化種です』

 ボガートと言えば。上級冒険者にしか倒せない存在。

 右手に保持している剣の名称は、ツヴァイハンダー。

 ドイツ語読みだ。ドイツ語と言えば、ガリグラトム語。

 発音も表記も全て同じと言うことは、同じ言語なのだろう。

 扉がスライドし、誰か入ってきた。

「直久さん、受け取ってください」

 右に並んだ、開絵からライトノベルを渡される。

「ありがと。敵はボガート、武器はツーハンドソード。開絵さんは魔法を発動してください」

「解かりました、危なくなったら。交代します」

「了解」

 ――魔力を持ちは、モンスターに倒されても死ぬことは無い。

 続けて柿谷はこう言った。

 ――モンスターに倒されると、特定の場所に下着姿で復活する。

 それは、ダンジョンだろ!

 若しかしたら、俺は戦いという環に掴まっているのかもな。

 ライトノベルを構える。

 誓約書に署名した後。柿谷から、ライトノベルの使い方を教えて貰った。

「魔力供給《事実(フェクト)》!」

 ライトノベルから、空色の魔力が棒状に形成されていく。

 魔力が可視化される。

 ライトノベルを覆っていた魔力が、消え失せ。湾曲刀が出現した。

 質量が増加したのか、数キロの重さを感じる。

 湾曲刀の名称は、フォルカタ。

 鉈みたいな刀だ。

 数度、湾曲刀を振る。意外にも扱い易い。

 フォルカタを正眼に構える。

 モンスターに倒されても、命は失わないからと言って軽い気持ちでは戦わない。

 ボガードの瞳を見る。先には攻撃をしてこないようだ。

 俺から行かせて貰う!

 ボガートまで駆ける。俺がボガートの間合いに入った瞬間、ツヴァイハンダーが振り下ろされた。

 右に軽く跳んで躱す、背後を取ったのも束の間。

 振り下ろされたツヴァイハンダーが、薙ぎ払われる。無音の空間に風圧が発生し音を立てた。

 速過ぎだろ!

 フォルカタで、防ぐことができるか解からない。

 刃の無い方の刀身を右手で掴み、左に側に構える。

「わたしの魔力を変換(コンヴァージョン)形成し発動せよ《火燐(かりん)》」

 薙ぎ払いが、途中で止まった。

「ガッガード、とでも言うと思ったか」

 ボガートが、日本語を話したことに驚く。

「魔法だって使えるが、手を抜いてやる。こいよ」

 どうしたものか……。

「モンスターは、人の言葉を話せないと思っていたようだな。それは、勉強不足だぜ」

 開絵の左掌上にある、青白い火炎は放たれるのを待っていた。

「行って」

 火炎がボガートへ向かって、飛翔する。

「残念」

 左腕を、火炎に叩きつけるのと同時に魔法が砕けた。

 魔力を左腕にまとったように、俺には観える。

「嘘……」

「そんな下級魔法では、傷すらつかんよ」

 魔法が効かないのかよ、不味過ぎだろ。

 巨大さと、ボス的風格によって感じる恐怖が増す。

 今の俺はどの程度、戦えるのか試してみるか。

 ボガートへ向かって駆け出す。

 右から袈裟気味に振り下ろすが、体を右に入れられ躱された。

 背後にいるボガートの位置すら確認せず。無理にフォルカタを薙ぎ払う。

 右肘が痛みの悲鳴を発する。

「当たらんよ」

 心の中で舌打ちしながら、突き。

 突きが空を斬る。すでに目の前には、ボガートの姿はなかった。

 足音を立てながら、開絵にゆっくりと近づく。

「本気を見せてみろよ」

 その言葉を開絵に対して言ったことで、余計に腹立たしく感じる。

「話しにならねぇってか。何でだ……」

 右手にライトノベルを構えながら、開絵は口を開く。

「魔力供給《事実(フェクト)》」

 開絵の右手に長い棒状の魔力。勿忘草色に可視化され、武器が現れた。

 パルチザン。幅が広い両刀で、左右に突起がある。

 柄を両手で掴み、構えた。

「槍か……」

 気合の声を発しつつ、ボガートに向かって地面を蹴る。

 槍と剣が交差し、押さえ込まれたのは開絵の方だ。

「一旦。槍を引いて、開絵さん!」

 指示通りに、槍を引き。構えなおす。

「上から下に、途中で切り替えて」

 剣で全ての突きや振り下ろしを流し、弾く。

「お前、弱いくせに。技術は知っているんだな」

 剣で防ぎながら、無駄口を叩きやがって。

 体の性能が昔みたいに良くないから、1部の技術を再現できない。

 腹立たしいな。

「自分に嫌気が差しそうだ」

 魔力を落ち着かせる。

 パルチザンを、右から薙ぎ払うように突く。

「魔力流下《突撃(チャージ)》」

 地面をすべるように駆ける。

「慣れてきたか、それなら!」

 ボガートの右横腹から、砂が飛び散った。

「いつの間に」

 まだいける。

「魔力流下《突撃(チャージ)》!」

 右足指に一気に力を込め、斬り込む。

 右から薙ぎ払い、左太腿に突き刺して抜くと砂が宙を舞う。

 できるだけ、斬り続ける。

 声に出さなくていい、全てを体で表現するだけだ。

 砂色の砂が舞い、砂埃が発生した。

 ツヴァイハンダーが、上から迫ってきたので後退する。

「やるじゃねえの。だがよ、何!」

 ボガートの左腹に、パルチザンが突き刺さっていた。

 パルチザンが抜かれた場所から、砂が流れ出てくる。

「少し、本気出してみるか」

 空間に浮遊していた魔力が、ボガートに吸収された。

 魔力の波長によって、逃げ出したい衝動に駆られる。

 悪夢でしかない。魔力のみで、地面が砕け亀裂が走る光景はあの時を思い出す。

 異世界往来監視局。思い出した、そう言えば異乃だ。

 福岡本部の特殊執行官とか言っていたな。

 若しかして、この現象は俺のせいなのでは……。

「前、来ます!」

 ボガートは、迫ってくる。フォルカタを振り下ろしツヴァイハンダーに叩きつけた。

 金属音を聴く間も無く、左から薙ぎ払われてくる。

 この場合、前進あるのみ。

 ボガートとの間合いを詰め、左腕にフォルカタを突き刺す。

 砂が飛び散り、体にも突き刺した。

「攻撃を読まれたのか」

 それは、違う。

 魔力を増大させても、活かせないなら無意味だ。

 攻撃方法が単純だ。前から迫ってくるだけ、それなら俺も前に出る。

 リーチが長いのが仇になったな、ボガート。

 俺は親切に教えては、やらない。

 ボガートが、じりじりと後退を始めた。

 左手を前に出し、ボガートに向ける。

「我が魔力を変換(コンヴァージョン)形成し発動せよ《火燐(かりん)》」

 青白い火炎をボガートに向け、放つ。

 魔法を剣で斬ろうとするが、火炎を操り。振り下ろしを躱し、ボガートに青白い火炎をぶつける。

「結局。お前は、自分で首を絞めただけだ」

 火炎に体中を包まれたボガートは、数秒後に砂色の砂に変化し消失した。

「えっ嘘、魔法は効果が無い筈」

 駆け寄ってきた開絵に、詰め寄られる。

 体と顔が近い!

 少しだけ、ハーブの香りを感じた。

「ボガートの本体自体は、魔法に対して無敵ではなかった」

「でも。確か魔法を、無効化していましたよね」

 魔法の無効化と言えば聞こえはいいが、ボガートはただ、開絵の魔法を上回る魔力を左腕に当たる瞬間に魔力をぶつけて砕いただけ。

「正確には、無力化では無く。乱暴に魔力をぶつけて魔法を、破壊したと言うべきかと」

「それは、魔力が直接見えれば。簡単ですよね、あれ? 若しかして、直久さん。えっっ!」

 槍が行き成り、ライトノベルに戻った。

 槍の石突を地面に当てて体重を乗せていた為か、開絵さんが倒れ掛かってくる。

 左足を素早く、後ろに下げ。体のどこを掴めば、大丈夫か思考する。

 こういう時は、肩だ。

 開絵の両肩を掴んで支える。

「大丈夫?」

 息を呑む、腕が届く距離と言う状況で余計に心が落ち着かなくなった。

「ありがと……」

 開絵は、顔を右に少し背ける。

 掴んでいた肩から、両手を離す。

 扉の方を振り返って見る、誰にも見れてはいないようだ。

「そうだ、魔力。ゴブリンと初めて戦った日から、魔力が見えるようになったみたいで」

「そうなんだ」

「ところで、心山さんは大丈夫だった」

「え?」

 首を右に傾げられる。

「いや、その。川一についてだったんだろうなー、と思って」

「それは」

 黙り込まれた。

「個人的な話でしたか、そうだよな」

「柿谷さんに、報告をしないと」

 頷く。今日の報酬を貰わないと、草臥(くたび)れ儲けになるからな。



 そんなこんなで1週間後。

 食事は4人一緒にしていたので、どんな魔法が使えるかは把握している。

 開絵は、火属性の火燐(かりん)。水属性の水輪(すいりん)

 川一は、火属性の火燐だけ。

 琴咲は、風属性の風操(ふうそう)。土属性の土石操(どせきそう)

 俺は火属性と水属性で得意なのは何故か、水属性だ。

 練習をすれば、更に発動できる魔法を増やせる。

 柿谷が現れたら、家に帰ってもいいと言われた。

 柿谷がきたら、普通の高校生活に戻る訳が無いよな。

 そう言えば、親には聞いたことも無い感染症に罹ったと言っているらしい。

「アタッシェケースにライトノベルを入れたか?」

「柿谷さん、おはよ」

 琴咲が親しそうに、言った。

「おはよう」

「おはようごさいます」

 開絵だけ、丁寧に挨拶。

「解かっていると思うが、ライトノベルと官給品のスマートフォン。そのふたつだけは絶対に紛失、窃盗にあうな」

 頷く。

「その制服も特注品だから、同じくだ」

 昨日の夜、行き成り渡された謎の制服。

 謎だなと思いつつも、着ている。

 勝色のブレザーを見る。

 昔のより、光沢感が増したような気がした。

「特殊繊維が編みこまれてあり。1着に総額80万以上の税金がかかっているから大事に扱えよ」

「伸縮性が、昔の制服より優れていますね」

 腕を曲げ伸ばし、確認しながら開絵は述べた。

「それにしても、いつ採寸したんだよ。柿谷さんよう」

「川一くん。世の中には知らない方が、いいこともあるんだぜ」

 アタッシェケースの止め具を外し、中を見る。

 右に文庫のライトノベル。

 左に官給品のスマートフォンが、納まっていた。

 スマートフォンを取り出す。

「スマートフォンの転送魔法機能を使って、家に帰れる。画面ロックの解除方法は忘れていないよな?」

 忘れるか!

 と頭の中で、文句を言い画面ロックを解除する。

 アタッシェケースを閉め、左手で持ち手を掴む。

 アプリをタップして、転送魔法発動を押す。

「学校で会おう。じゃあな」

「もう帰るのか、直」

「勉強しないと、いけないからな」

「本当かよ。ラノベが読みたいだけじゃねえのか」

「違う!」

 体が空色のリングに囲まれる。

 あの時に観たあれか。

 目蓋を閉じた瞬間、景色が変わっていた。

 4LDKの家。

 帰ってくるのは随分、久しぶりな気がする。

「家か……」

 アタッシェケースを左手に持ったまま、スマートフォンを右ポケット捻じ込む。

 人は、ひとりでは生きていけないんだよな。

 しみじみと思い、扉の取っ手に右手を掛けた。

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