第19話 小さな女子会
5LDKの一軒家。玄関近くの駐車場にはハイブリッドカーが駐車されている。
早朝の道路に積雪していた数センチメートルの雪は、いつの間にかなくなっていた。
心山が厚手のジャンパーを門扉の前で脱ぎ、左腕に掛ける。
玄関前の門扉に付けられたチャイムを、心山が鳴らした。
「弓菜、お友達が来てるわよ」
勿忘草色の水玉ワンピースを身につけた、開絵弓菜が廊下を走って玄関へと向かう。
すでに玄関の中に、案内されていた心山は、弓菜ちゃん家では普通なんだねと思いながら待っていた。
ブーツをすでに脱ぎ終わっていたので、床に上がってから靴を揃える。
「おはよ、琴ちゃん」
心山は、新橋色のスリッパを履く。
「おはよう。で、昨日の話を聞かせて貰いましょうか。弓菜ちゃん」
何となく、開絵は右側へ顔を向け、吹き抜けの先にあるキッチンを覗き込む。
「そだね、部屋に行こ」
「そうそう、あれも持ってきたからね」
そこへ開絵の母親がやってくる。
「丁度良かった。これ、持っていってね」
返事をした開絵は、母親から急須と湯飲み2客。お菓子類が載ったお盆を受け取った。
「弓菜ちゃんのお母さん。ありがとうございます」
会釈した心山に「いいのよ」と言いながら、母親は奥へと消えた。
廊下を壁に突き当たるまで、2人並んで歩く。
壁に突き当たると左へ曲がり。少し歩けば、開絵の部屋だ。
ふたつの3段棚をつなげて並べ上段と中段に書籍が、隙間なく収まっていた。
少女マンガ、少し大人向けの少女マンガ、少年マンガに青年向けマンガ。
新書、一般文芸書の並製本と上製本。文庫もある。
ライトノベルと言われている、イラスト付の文庫などがあった。
心山は、棚の中を観賞しながら頷く。
歩いて、オールドローズ。その色をしたハート型の絨毯においた、大きい厚手の手提げ袋からブックカバーが掛けられた文庫を9冊掴み、取り出した。
「『ラノベ・マンガ・ラノベ』1から9巻。読み終わったら、返しても返さなくてもいいよ」
急須の蓋を左手で押さえ、湯飲みへ注ぐ。
「どっちですかー。読み終わったら、ちゃんと返します」
「弓菜ちゃん。ちょっと、敬語入ってる」
「どうぞ」
開絵はお盆の上に載せたまま、緑茶が注がれた。湯飲みを心山に勧めた。
「ありがと」
お茶を口に含んだ心山は、湯飲みをお盆に載せる。
「で、昨日のデートどうだった?」
開絵は、顔を左右に振った。
「違います。デートじゃ、ないです。ただ、一緒に動物園に行っただけ」
にこやかに開絵は、話した。
「じゃあ、楽しかったんだ」
開絵は驚く。
「そんな、楽しかったです。みたいな顔で言うんだから、バレバレだよ」
自分の両手で顔に触れる。手を離した開絵は、心の中で気を引き締めた。
「ほんと、凄い偶然じゃん。直久くんのことは、先に弓菜が思いを寄せてたよね。病室でだけど」
「交通事故のせいで、学校を累計9ヶ月はいってないんだよ。そう言えば中学校の時の直久さんは、割と独りでいたような記憶があるな」
開絵は湯飲みを右手で掴み、左手をそえ口につけた。
「3年間の内に車に乗っている時に、追突され。他に軽自動車に当てられて、骨折かー」
「病室で琴ちゃん。勾乃さんと直さんの話しか、しなかったじゃん」
他にアニメと開絵は、小声で呟いた。
「中学3年生の時。違う高校になると思ってたから。直久さんのことは、忘れようって決めたのに」
「それもまた、流れなんじゃない人生の。そして皆、少しずつ変わっているんだよね」
「そうかもしれないなぁ」
個別包装の袋から、クッキーを取り出した開絵は、クッキーを食べ終わった後にお茶を飲んだ。
「弓菜ちゃんは、直久くんのどんなところが好き?」
「う~ん、大人っぽくて、優しい。側にいるだけで安らぐな」
「心底、惚れちゃっているんだぁ。じゃあ、付き合うって決めたんだ」
開絵は、その言葉に頷く。
「心に決めたから」
「最後に言おうと思ってたんだけど、今言うね。思いやりが大切だから」
湯飲みを空にした開絵は、宣言する。
「それなら大丈夫」
§ § §
ざっと3時間、談笑してから琴ちゃんは帰りました。
夜の7時ぐらいに晩ご飯。
お菜は豚のしょうが焼きでした。
本当にこの世界の食事は、美味しい。手に持っていた食器を、炊事場におく。
「弓菜、話があるから。部屋にいても良いけど、お風呂にはまだ入らないでね」
食器を洗剤をつけたスポンジで、洗っているお母さんに言われた。
「うん、解かった」
私は、部屋でライトノベルを読むことにしました。
夜の静けさ。お母さんから言われたことをベッドの中で考える。
――彼氏ができたことは嬉しいんだけど、健全な付き合いでね。
その後に、言われた一言で現実に戻されたんだよね。
――責任を負えないことはしない。弓菜なら、解かるわね。
続けて。
――甘木の実家で、新年を迎えるから。あと、彼氏君には電話しておいてね。
あー、もう! 何か恥ずかしいな。
何で、気づいたんだろう。
掛け布団を引っ張り、顔を少し隠す。
女性の勘?
それとも、母親だから?
大事なのは、明日。直さんに電話しなくちゃです。掛け布団を顔から退けて。
深呼吸の後。私は、幸せ者かもしれないですねと思うのでした。




