第12話 元勇者
昨日は、布団の中でずっと。戦いについて考えていたせいで、眠ったと言う実感が余りなかった。
布団を力任せに、めくる。
埃が部屋の中で暴れた。
体を起こし、ベッドから出る。
試しに右腕で、正拳突き。
打ち出す時に、軽い打音。
静かな部屋で、捻りを加えた正拳突きを打ち出せば空気が叩かれ音が鳴る。
少し目が覚めたので、椅子に座りノートPCを起動させて気づく。
昨日の出来事を検索して出てくるのだろうか?
そんな感情に、覆われノートPCを閉じた。
開絵さんに貼って貰った絆創膏は、お風呂前に剥がしてお風呂の後。
新しい絆創膏を自分で貼った。
あのときは、本当に痛かったし、かなり痺れを感じた。
普通の男子高校生なんだな、俺も……。
昔は家族を増やす為だけの感情で、異性を好きになると思っていた。
今は、愛したい。愛されたいと言う欲みたいな、感情が俺の心にある。
(俺もまだまだ、子供だな)
と自分を戒め。高校の鞄を掴んで気づく。今日は、日曜だった。
鞄を床に置き、また椅子に腰を下ろす。
家族は、父の直久賢太。母の直久友美、俺には両親がいる。
本棚の3段目にある『ラノベ・マンガ・ラノベ』7巻を掴み、本を開く。
子供は、良くも悪くも親に似て影響を受けものだ。
人は、漫画、アニメ、小説。その他、娯楽作品。
それらの影響力は、人が思っているほど少なくは無い。
物事は相手の人格や価値観を尊重した未来こそが最高の、世界の始まりだ。
ライトノベルが俺に、大切なことを教えてくれた。
両親からも大切なことを教わったから、今の俺がいる。
恵まれ過ぎなやつの言葉に、重みは無いよな。
戦い方を忘れないように、今まで練習してきたのはただ弱くなりたくないからだと思っていた。
過去の世界では力が強ければ、正義だった。
冒険者には特権があり、貴族は国すら操る力を求めた。
力があれば、何をしても許される世界では無いが技術を身に着けるのは自由だ。
備えはあればあるほど、後悔しない。
ヒーローになるつもりは無い、だけど守りたいものを守れる力は欲しいから。
本を閉じ、本棚に戻す。
握りが変色した木刀を右手で掴む、俺は部屋の中で木刀を振るった。
学校だけは、いつもと同じだ。
生徒と何度も擦れ違う。
戦いの無い日常は、素晴らしいの一言。
右側にある窓ガラスの外を眺める。
生徒、数人がアスファルトの地面を走っていた。
――校舎の窓ガラス越しに見る景色ってのは、全て青春になるんだ。
5日前まで、ライトノベルの影響を受けた。川一が言った、言葉の意味が解からなかった。
青春は、目に見えるものなのか?
今なら解かる気がする。人を好きになると、青春は燦然と輝き放つ。
これも、ラノベっぽいな。
絶賛片思い中のフェトル・イーストラ=スズナでは無く、俺の名前は直久海晴。
高校1年生だ。
どういった素材で作られているのか、解からない。白い床を歩く。
行き成り、体に突き刺さるような感覚を覚える。
振り返ったら、男がだるそうに歩いていた。
「めんどくせぇな……」
スライド式の扉を強く開き、1年1組と書かれた札がぶら下げられた教室の中へと入っていく。
(朝食、食べてこなかったな……)
ドアが開いていたので、俺は2年2組の教室へ足を踏み入れた。
§ § §
1年1組の教室は、重苦しい雰囲気を漂わせていた。
彼が、周りに魔力を飛ばしていることも理由のひとつ。
一番の原因は、授業中にアニメソングが流れていることだ。
1人の生徒がヘッドホンから、音漏れするほどの音量でアニメソングを聴いていた彼を見る。
「何だよ」
ひと睨み。彼を見た生徒が撃退された。
『戦い~のあと~に、君がいた~から~♪。そばに、ずっと~いた~くて~♪』
先生を除いて“こいつ、誰だ”と全員が思った。
黒板に強く連打されていた、白色のチョークが砕ける。
「鉄馬彰人。『アイドル・タブレット』のOPを流すのは止めろ!」
教諭の趣味の一端を生徒が知ったせいで教室が静まり返り、より一層。アニメソングが強調された。
スマートフォンを取り出した彰人は、音楽を止める。
椅子から立ち上がった彰人は口を開く。
「やっぱ、つまんねぇな。ここに元勇者か転生者は、いねぇか?」
ドッと教室が笑い声に包まれた。
「世界よ、これが日本のオタクだ」
生徒が、彰人を茶化し始める。
「ジャパニーズ、オタク!」
右手を前に突き出す。
「黙れよ、《衝波》」
突き出された右手から魔力が、放出。生徒2人が吹き飛ばされ、同時に数枚の窓ガラスが砕けた。
遅れて、甲高い悲鳴を女子生徒が発する。
「雑魚が」
ガラスの破片で怪我をした生徒が、走って保健室へ向かう。
それに合わせるように、生徒が教室の外へ我先に出ようとする。
机が音を立て床に倒れ、椅子が机にぶつかって音を流す。
彰人と1人を除いて、教室から消えた。
「名前、何だ」
「……開絵弓菜だけど」
「日本人じゃねぇ」
「日本人ですけど」
弓菜の言葉に反応し、彰人は舌打ち。
「そういう意味じゃねえ、髪の色だよ。ここはな日本であって、日本じゃねぇんだよ」
「どういう、意味ですか?」
「この石を使えたら教えてやる」
彰人は緑色の石を弓菜に、投げ渡す。
「どうした!」
「直久さん」
「お前も黒髪じゃねぇ? 何だ、その髪色は」
直久は状況の把握を急ぐ。
「新橋色……。嫌なこと、思い出させるなよ!」
瞬時、時間の経過でゆっくりと閉まっていたスライド式の扉ごと。
直久は教室の外まで、蹴り飛ばされた。
窓ガラスの一部が砕ける。
2組からの悲鳴が彼らに届く。
「痛っ」
両手を体の前で、交差させて蹴りのダメージを軽減させた直久は右腕を擦りながら、ゆっくりと床に右手を突き、立ち上がる。
「弓菜、引っ掛かったな」
「何を」
弓菜の右掌の中で、石が発光していた。
「ニュージェネレイション以降の子供は、魔力を持っているんだよ。見た感じお前が一番魔力を保持していたから、その魔力を頂く」
行き成り、直久から彰人は蹴られた。
「意味不明なこと、言いやがって」
床にお尻を打ち付けた、彰人は直ぐに立ち上がる。
「本気で蹴ったから。謝ろうと思ったが、頑丈なやつだな」
弓菜は握っていた石を捨てた。
「元勇者にこの仕打ちは、無いわ。だから俺は日本が嫌いなんだよ」
「何のことだ、文句があるなら。他所でやれ、周りを巻き込むな」
「ヒーローにでもなるつもりか、甘えよ」
「話なら聞くが」
「遅せぇ!」
地面を蹴った次の瞬間。彰人は空中で2回転しつつ、左拳を直久に向けて打ち出す。
直久は左腕を、右から左へ払い流す。
着地はせずに彰人は、空中を蹴って跳躍後。大きく距離をとって、軽やかに着地した。
「人の動きでは、ありえない!」
弓菜の驚きに答える余裕が、直久には無かった。
「一旦。落ち着いて、仕切り直そう」
直久は両手を広げて、攻撃の意図は無いと示す。
「お前が、先に攻撃したんだろうが!」
直久は言い淀む。
「男なら、売った喧嘩で怪我しても。文句言うんじゃねぇよ!」
彰人と弓奈が同時に直久へ向かって走り出した。
先に弓菜が直久の前に立ちはだかる。
「止めなさい」
わずか45センチメートル手前で、動きを止めた彰人は教室の外から観ている観客に向け口を開く。
「観てんじゃねぇ!」
彰人は体内から勢いよく魔力を放出する。
直久だけ、魔力によって教室の外まで吹き飛ばされ、川一に受け止められた。
廊下に散らばっていた、ガラス片が更に砕け音を立てる。
「大丈夫か、直」
他の生徒、数人からも直久は気遣われる。
「その呼び方、久しぶりに聞いたな」
「これ、オンラインゲーム用だから」
教室の中では、ひざ上丈のスカートがはためき。
弓菜はスパッツを穿いていないことだけを、教室の外にいる人たちが知った。
観ていた一部の男子生徒は、このシチュエーションに心躍らせる。
魔力の放出を彰人は止めた。
「見えそうで、見えない」
川一は両手を広げながら。
「セーフ」
「ばか!」
打音。
琴咲の左掌が川一の頭にぶつけられていた。
「いっ!」
間髪を入れず。
「浮気か、川一」
この場にいた生徒が川一を冷やかす。
「作戦終了、じゃあな」
転がっていた石を拾い上げた瞬間、彰人の姿が教室から消えた。
「え?」
弓菜は、訳が解からず困惑する。
教室の外にいた人たちは、気づく。
廊下をゆっくりと楚楚たる美人が、歩いてくる。
「エ、ル、フ。エルフ耳!」
川一は光を放つ金髪と細長く上に少し尖った耳に、釘付けになった。
「ライトノベルみたいな展開が、現実になると本当に夢だって思いたい」
琴咲は、川一の頭に拳を叩き込もうとして止めた。
「精神介入《魔法式記述》刻印」
弓菜、直久、川一、琴咲、この4人だけ気絶した。




