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神「賢者が魔法を使えるなんて、誰が決めた?」  作者: 源泉
第五章:検索結果が一致しません

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1地下にひそむもの


ケンサクたちが訪れた村の地下で発生していた“呪い”は、実際は換気不良によるものだった。


村人たちは浄化のために火を使おうとしていたが、それは酸素をさらに消費し、地下に二酸化炭素を溜め続ける危険な行為だった。


ケンサクは原因を見抜いたが、自分の力だけではどうにもならなかった。


その時、ホタルの呼びかけに力を貸したのが、偶然居合わせたゼドだった。


彼は風魔法を使い、地下全体に空気の流れを作る。

人を傷つけることなく、空間だけを変える精密な制御で――ケンサクとリテナ、そして村人たちの命を救った。


村は救われた。


そして、四人の関係は、ほんの少しだけ変わった。


ゼドは本来、拠点へ転移して帰る予定だった。

だが魔力を使い切ったことでそれが叶わず、命の恩人であることを理由に、ケンサクたちと共に歩いて向かうことになった。


――翌朝。


村は、何事もなかったかのように動き出していた。


家の前で水を汲む音、薪を割る音、遠くで交わされる何気ない会話。

昨日の騒ぎが嘘のように、日常が戻っている。


その一角で、あの父娘が村人たちに囲まれていた。


「だから、火を使うと逆に危なかったんだって……!」


父親が身振り手振りを交えながら説明している。

娘も隣で頷きながら、必死に言葉を補っていた。


「空気が……下にたまってて……それで……」


うまく言葉にしきれない部分を、父親が拾う。


「そうそう、空気の流れが悪くてな。それを――」


一瞬、言葉に詰まり、それから少しだけ誇らしげに続けた。


「……勇者様のお仲間の、ゼド様が教えてくださったんだ」


その言葉に、少し離れて見ていたゼドの視線がこちらに向く。

リテナも首を傾げる。

ケンサクは肩をすくめた。


「俺の言葉よりも、その方が通るだろ」


小声でそう返す。


ゼドは何も言わない。

ただ、わずかに視線を細めただけだった。


リテナが小さく呟く。


「名前を借りるなら、せめてケンサクが説明すればいいのに」


「自分たちの言葉で伝えた方が記憶に残る」


短く、それだけ。


やがて、父娘がこちらに気づく。


「あ……!」


慌てて駆け寄ってきて、父親は深く頭を下げた。


「昨日は……本当に、ありがとうございました」


隣で、娘が少し寂しそうに笑う。

リテナの表情が柔らかくなる。


「うん……よかった」


少女の目線に合わせて、しゃがみ込む。


「もう大丈夫だからね」


少女は小さく頷いた。


ケンサクは軽く手を振るだけだった。


「礼はいい。原因が分かれば、あとは対処するだけだ」


父親は少しだけ驚いたように目を瞬かせ、それでも穏やかに笑った。


「……それでも、助けてもらったことには変わりありません」


その視線が、もう一人へ向く。


「あなたも……本当に、ありがとうございました」


ゼドに向けられた言葉だった。


「風で、あの中を……あれがなければ――」


言い切らず、再び頭を下げる。


ゼドは一瞬だけ言葉を選ぶように間を置いてから、


「……当然のことをしただけ」


とだけ返した。


少女も小さく手を振る。


「お兄ちゃんも、ありがとう」


ゼドはそれに、わずかに頷いた。


それ以上は何も言わなかった。


「どうか、気をつけて」


父親の言葉を背に、ケンサクたちは歩き出す。


リテナは何度か振り返り、手を振った。

ケンサクは振り返らない。

ゼドは、一度だけ村の方を見た。


そのまま、森へと足を踏み入れる。


しばらくの間、誰も口を開かなかった。


足音だけが、乾いた地面に続く。


やがて、ケンサクがぽつりと口を開く。


「……ああいうのは、やめろ。死ぬかもしれなかったんだ」


前を向いたままの言葉だった。


リテナは一瞬きょとんとして、それから理解する。


「……でも、あの子を一人にさせたくなくて」


「分かってる」


短く遮る。


少しの間。


「……間に合わなかったら、どうするつもりだった」


責める声ではなかった。

ただ、低く、抑えられている。


リテナは言葉を探すように口を開きかけて――閉じた。


答えられない。


「……ごめん」


それだけが、ようやく出てきた。


ケンサクはそれ以上は何も言わなかった。


沈黙が戻る。


「ケンサク〜……」


その沈黙を、肩の上からの弱々しい声が破る。


「私、まだバッテリー足りてないんだけど〜……」


ホタルだった。


「私も頑張ったのに、感謝されてない気がするし……」


ケンサクは即答する。


「その見た目だと仕方ないだろう、知らない人には虫にしか見えない」


「そうだけどさ……ひどい〜……」


文句を言いながらも、ホタルはケンサクの頭にぐったりとしがみついた。


空気が、少しだけ緩む。

その少し後ろを、ゼドは一定の距離を保って歩いていた。


会話には入らない。


ただ、聞いている。


リテナが振り返って声をかける。


「あの……拠点って、遠いの?」


ゼドは足を止めずに答えた。


「歩けば数日。転移なら一瞬」


「今はできないんだよね」


「そう」


簡潔なやり取り。


やがて、ケンサクがふと足を止めた。


ほんの一瞬だけ。


地面を見る。


踏み跡。風の流れ。土のわずかな歪み。


――何かが、頭の中で組み上がりかける。


だが、すぐに歩き出した。


「……どうしたの?」


リテナが聞く。


「いや、なんでもない」


それだけ。


再び歩き出す。


しばらくして、リテナがぽつりと呟いた。


「なんか、不思議だね」


「何がだ?」


「敵になるかもしれなかった人と、一緒に歩いてるなんて」


少しの間。


その言葉に、ゼドが小さく応じた。


「……別に、敵だとは思っていない」


淡々と。


「最初から」


それだけ言って、また口を閉じる。


誰も否定しなかった。


ただ、三人と一匹は同じ方向へ歩き続ける。


まだ名前のつかない関係のまま。

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