25 次期カラスの主の苦悩(アルヴィン視点)
グロリアの事件が落ち着いてミハエル達より先に、クォーツに帰る馬車にガタゴトと揺られている。
「母上。今回は父上も許しましたが今後このような無茶はやめてくださいね」
母上を恨みがましい目で睨みつけながら言う私になんとものんきに、母上は笑いながら言葉を返す。
「無茶なんて一つもしていないわ」
分かっている。
分かっているが恨み言の一つでも言わなければ気持ちが収まらなかった。
**************
ベルの鴉からの定期報告を受け取った私は急ぎ、父上の執務室に向かった。
「父上、急ぎサイラスおじ様に訪問の先触れを」
そう言いながら報告書を父上に差し出す。
最近、学園で起こった薬物騒ぎを何とか落ち着かせた私は次なる問題に頭を悩ませる。
薬物を使用していた男子学生は中毒一歩手前の状態で、なんとか彼らの親を説得し、医療施設へ入所させることができた。
本人たちが知らない状態で使用していたとしても、この国で麻薬と指定されているものを使用していたことで罪は罪だった。
しかし、状況を考慮され、強制的に医療施設へ数年入所をさせるということになった。
この件は公にされることはなかった。
親達も、縁を切ることは望まなかった。
本人の貴族籍は秘密裏にはく奪されることなったが、親子の縁は切られることが無かったのが救いだろう。
そして何より問題となったのがカリン嬢の処罰だった。
ボールック男爵は責任を感じ、貴族籍を王家に返還することを求めたがサイラスおじ様がこれを固辞する。
それならばと、カリン嬢を戒律が厳しい修道院に入れる事となった。
本人は自分が勧めたものが麻薬だと知ってショックのあまりふさぎ込んでしまった。
占い師に言われるまま元々薄いピンク色だった髪をはっきりとしたピンクに染めたことも自身の口から語った。
ボールック男爵夫妻はそんなカリン嬢の状態に気づけなかったこと後悔していた。
そしてカリン嬢本人も騙されていたことにかなり責任を感じていた。
更生するのも時間の問題だろうということになった。
ボールック男爵は迷惑をかけた貴族家に謝罪と慰謝料を持参し真摯に対応したことで信頼を失うことも無かった。
シーラスも私たち側近候補にも謝罪をしたいと請われた。
しかし、そもそも大した迷惑をこうむっているわけではなかったので辞退することとなった。
そんな忙しい毎日がひと段落し、シーラスと共に学園では、他の生徒にも騒動がばれないように情報操作を行った。
やっと落ち着きを見せ始めたときに今回のベルからの報告だった。
「兄上に急ぎ訪問の先触れを出す。
アルもついてきなさい」
父上の言葉に私はしっかりと頷き、王宮に向かうために身支度を整えた。
すぐにサイラスおじ様から来るようにと指示がある。
私と父上は王宮に早急に向かい、サイラスおじ様と話すこととなった。
「来てくれてありがとう。
早速で悪いけれど報告を頼むよ」
応接室に入るなり挨拶もそこそこに、サイラスおじ様が言うので早速本題に入る。
「ベルから先ほど報告が来ました。
事態はかなり大きなものだったようです」
言いながら報告書をサイラスおじ様に差し出す。
それに目を通しながら
「なるほど」
と頷くおじ様に父上が声をかける。
「さすがにここまでくれば、あの4人では荷が重すぎる。
アルをグロリアに送り交渉に向かわせようと思う」
「そうだね。
それじゃあ交渉相手はグロリアの王弟にするよ」
なんともないように軽く言うサイラスおじ様に驚きのあまり目を瞠る。
そんな私を見て楽しそうに笑いながら話を続けるサイラスおじ様。
「あの国の国王がこうまでも愚鈍だとこちらとしても困るからね。
それに王太子もあれでは将来こちらも迷惑をこうむる可能性が高い。
ここは優秀な王弟と第二王子に賭けて、恩を売っておこうと思ってね」
「私が行ってもいいが……。側妃の件がある。
さすがにそこまで圧力をかけるのも今後よくないからね。
アル頼めるかい?」
サイラスおじ様の試すような目と父上の心配するような目が私を見る。
それにしっかりと頷いて
「御心のままに」と返事をする。
2人は満足そうに頷いて、サイラスおじ様が急ぎ手紙を書いてくれる。
鴉を使ってグロリアの公爵邸に送り、王弟に届くようにしてくれた。
「さぁこれで面会の予約もできたも同然だから、アルは急ぎグロリアへ。
期待しているよ」
その言葉を胸に急ぎ公爵邸へ戻って旅立つ準備を始めた。
グロリアへ向かうために馬車に乗り込むと予想していなかった声が聞こえる。
「アリアは元気かしらね。
久しぶりに会えるの楽しみ」
小旅行にでかけるかのような弾んだ声の主は母上だった。
私が声を上げる間もなく、扉を閉め御者に合図を出した母上に思わず声を荒げる。
「母上! 何をしているんですか!!」
「私もグロリアへ同行するのよ」
いつもの事だが……。
我が母上は本当に言葉が足りない。
怒ることにも疲れ、座席に腰を下ろす。
眉間を揉みながら母上に尋ねる。
「父上はご存知なのですか?」
「ええ。気を付けてねって」
コロコロと笑いながら言う母上に何も言うことができず、うなだれたまま馬車はグロリアへ向かった。
王弟と面会という名の交渉のために、カラスから情報を聞いたり慌ただしく過ごす。
肝心のリユーと会う時間が取れず、そのまま作戦決行の時となってしまった。
王弟は面会の次の日にリユーを誘拐するという、なんとも早い行動に私が頭を悩ませたことは言うまでもない。
ただ、まだ数日オークションの日まで時間があるということで、ベルの鴉を介して最低限のやり取りはできた。
見た目は若々しい母上がどこからかちゃっかり裏オークションの招待状を手に入れ、私も母上と裏オークションに参加することになった。
裏オークション当日、私は母上に懇願するようにお願いをする。
「母上……。
ここはミハエルが中心となっている作戦です。
我々はあくまで裏の作戦の担当なんですよ」
「大丈夫よ。ミハエル君ともきちんとお話したし、無茶はしないわ」
母上のその言葉に一抹の不安を抱きながらも、裏オークション会場に到着する。
最初は情報通り麻薬や薬物、媚薬の類がオークションにかけられていく。
会場に炊かれている香の影響だけではない異様な興奮が会場を埋め尽くしていく。
隣の母上をちらりと確認すると仮面に隠れて分からないが微笑んだ気がした。
そして急にあたりがシンと静まり返る。
「それでは当オークションの目玉の商品をお出しします!」
司会者のその声に一斉に沸き立つ会場。
私は仮面で表情が分からないことを良いことに思いっきり顔をしかめた。
すると母上が私の手をそっと握る。
母上の手のぬくもりでこれから起こることに集中できる余裕が生まれた。
女性や子供が次々と落札されていき、会場の雰囲気は頂点まで上り詰める。
「それでは最後の商品になります!!
珍しい金の瞳を持つ女です! 少々お待ちください!」
会場が暗くなり、ざわざわとざわめく参加者をよそに私はごくりと生唾を飲んだ。
次の瞬間、檻に入れられたリユーが光に照らされて出てきた。
一瞬、目を周囲に向け、ミハエルとアリアの居場所を掴んだリユーは今までの商品とされた人と違い、おとなしくただ檻の中で立っている。
母上がどんどん値を釣り上げていくのをヒヤヒヤとしながら見守った。
最後にリユーを落札したのは若い雰囲気の金髪の男だった。
リユーが檻ごと運ばれているのを見守りながら、参加者の動向を確認しつつ母上が軽い雰囲気でつぶやく。
「さぁ、そろそろ行ってくるわね」
少し散歩にでも行くようなつぶやき方だったせいで私は思わず反応が遅れた……。
「母上―――――!! 自重を!! 自重をしてくださーーーい!」
私の叫びは阿鼻叫喚とする会場の中に消えて行った……。




