24 王弟殿下のお仕事(王弟視点)
「殿下。こちらもご確認お願いします」
書類を確認しながら空いた手で書類を受け取る。
俺はこの国の王弟で宰相のルクリアンドだ。
代々、長男が国王を継ぐこの国は今かなり消耗していた。
俺の兄である国王はハッキリ言って政治に才能がない。
国王はよく言えば情の深い人間だ。
しかし言い方を変えればすぐ人を信用してしまうため、貴族の駒になりやすい。
王妃はやりたい放題で国庫に負担をかける。
王太子も次期国王の自覚があるのか無いのか権力を振りかざすだけで、優秀とは言い難い。
さらに王妃同様、国庫に負担をかけてくる。
まだ5歳の第二王子だけ、なんとか俺が教育係を担当した。
王妃から離すことで、利発に育ってくれている。
しかし長男が継ぐので、5歳の優秀な第二王子も俺と同じ道を歩むと思うと焦る気持ちもある。
国王が貴族の駒になりつつある現状、俺がほとんどの執務を担当している。
「殿下、休憩を……。
と言いたいのですが少し問題が……」
私を呼ぶ最側近のリカルドに呼ばれしぶしぶ、書類から目を離し立ち上がってソファに移動する。
「リック。
2人なんだからルークと呼んでくれ……。
気が滅入る……」
「すまないルーク。
あまりにも集中しているとみせかけて気もそぞろだったからね」
お見通しかのように笑いながらお茶を淹れてくれる。
「もう何年あなたの代わりをしていると思っているのですか。
あなたの考えなぞ、息をするよりも簡単に読めますよ」
気軽に話しかけてくれる最側近のリックは俺の乳兄弟でもある。
そして俺の影武者だ。
10代の頃よりわけあって、公の場に宰相であり王弟として顔を出しているのはこのリックだ。
目の色が偶然にも同じ深い緑で身長も体格もさほど変わりがなかったため、同じ濃い紺色に髪を染め影武者をしている。
「そんなあなたに、そろそろ問題を解決するときが来たことをお伝えします」
「ほぅ?」
「ついに王太子がやらかしました。
それと同時に偶然にもクォーツ国、国王サイラス様から極秘のご連絡が来ています」
リックから手渡された書類と手紙を手に取り、まずは書類に目を通す。
「なるほど。
王太子は違法オークションに出入りしていると……」
「はい。ルークの影からの情報です。
そのオークションは表向き、希少な商品を出品しているのです。
騎士を使ったとしてもさほど大きな問題にならないでしょう。
ただ許可を取っていなかったというだけで……」
「裏があると……」
「影の力ではまだ突き止めてはいないのですが、裏があることは確かなようです」
その書類を軽く丸めて灰皿に入れて火をつける。
続けてサイラス国王からの密書を開ける。
ヒュッと思わず息を飲んだ。
「サイラス国王は何と?」
「クォーツに我が国の違法麻薬がグロリアの人間により密輸されていると。
カラスがそちらに飛び立つので、しっかりとその目に焼き付けよと。
今回の事は礼はいらないが、一つ、花街にクォーツ貴族経営の店を持つことを認めろと言っている」
俺もリックも言葉が出ずにいた。
我が国に比べれば大国とは言えないクォーツだが、今代の王もかなり優秀だ。
彼を賢王と言わずどうするというほどだ。
俺も数回あったがなんとも食えないお方だった。
しばらく無言が続きリックが話し出す。
「先日からクォーツから国選留学生が来ています」
「学生ということは王太子と近いのか……」
「4名中3名が同学年同じクラスでございます」
「なるほど……。
早急にサイラス国王に返事を出す。
……協力を要請する」
「御心のままに……」
なん百年も続いた歴史を覆すのは難しい。
けれどこうなった以上、この先、面倒をこうむるのは我が国の民だ。
民あってこそ貴族が、そして王族が成り立つ。
俺は国民を守ることを優先することを決断した。
サイラス国王からは
「承知した」
という短い返事と共に、日付けの指定がされていた。
その日に表向き、国選留学生の保護者が挨拶に来る旨が書かれていた。
書かれていた名前はクォーツ国公爵家、マグネ公爵アイラ夫人と次期公爵アルヴィン殿と記されていた。
俺は第二王子近衛騎士の制服を纏い、王弟に扮したリックの後について応接室に入った。
ソファに座っていたご婦人と令息が立ち上がり、礼をする。
「頭を上げて、ごゆるりとしてください」
リックがそういうと二人が頭を上げる。
公爵夫人とは思えないほど可憐で綺麗な容姿に銀色の髪が輝き、水色の瞳が俺を射貫く。
令息も黒の髪に一部分が夫人の銀色を受け継ぎ、藍色の瞳が俺を見る。
2人は俺に向かい再度挨拶の礼をする。
「本日はお目に書かれて光栄でございます。ルクリアンド王弟殿下。
クォーツよりご挨拶に参りました。
マグネ公爵家、アイラ・マグネでございます。
こちらは息子でございます」
「次期公爵になります。アルヴィン・マグネと申します」
「頭を上げてくれ」
リックの言葉に二人は反応をしない。
リックが困って俺の方を向く。
「二人とも顔を上げてくれ。
ゆっくりと座って事情も話させてほしい」
俺がそう言うと二人はそっくりの顔を上げて緩ませる。
そしてソファに座った。
「すまない。試したわけではないんだ」
俺が座りリックが俺の後ろに立つ。
頭を下げた俺たちに、鈴を転がしたような声で夫人が笑い
「困りますわ。殿下」という。
頭を上げるとアルヴィン殿が話し出す。
「グロリアの王弟殿下に頭を下げられたと知れば、困るのはこちらですのでどうぞご容赦を。
そちらの事情は把握しておりますので大丈夫でございます。
それよりも時間もありません。
失礼を承知で本題に移らせていただいてもよろしいでしょうか?」
そんな堂々としたアルヴィン殿の態度に驚きをなんとか押し隠した。
成人して間もない、グロリアの王太子エディハルトと一つしか変わらないと聞いている。
クォーツが持っている人材の優秀さに恐れおののきながらも続きを促す。
アルヴィン殿の話を頷きながら聞く。
さすがはクォーツ国の隠密……。いやカラスか……。
「……なるほど……。
そちらの動きは承知した。
リユー嬢を誘拐して潜入するのは私がやりましょう。」
「「ハッ!?」」
アルヴィン殿とリックの声が重なる。夫人はただ微笑んだだけだった。
「それは殿下が動かなくても!!」
リックが焦って俺を引き留める。
「まぁそうなんだがな。
おとなしく王宮で結果だけを待つなんて……面白くないだろう?」
俺の言葉にリックを額に手をやって天を仰ぐ。
アルヴィン殿と夫人は声を出して笑った。
「殿下。ただし、我々が守るのはリユーの命が第一優先ですわ」
夫人がするどい目で俺を射貫く。
「もちろんだ。ただ話を聞く限り、リユー嬢は優秀なようだ。
俺の命を守ることもたやすいだろう?」
試すようにアルヴィンを見れば
「当たり前です」と力強い言葉をもらった。
結果、人身売買、麻薬密輸組織を第二王子近衛と俺の力で解決したことになった。
王太子は裏オークションの現場に居たことで廃嫡。
そして犯罪奴隷として北方の鉱山へ送られた。
裏オークション会場に居ただけであれば、そこまで重い罪にならなかったが、人身売買に加担した。
なおかつ国の金を使って人を買ったとなれば斬首刑となってもおかしくなかった。
しかしエディハルトを溺愛していた兄王により、犯罪奴隷に落ち命を奪われることは無かった。
但し、それを認める代わりに国王の椅子から降りることと引き換えになった。
表向きは心労により公務ができないため、療養という名の蟄居となった。
国王はまだ5歳の第二王子がつくことになる。
ただし公務などはできないため、成人するまでは俺が国王代理として公務をすることになる。
グロリアの花街にクォーツのカラスの拠点があることは問題だが、サイラス国王であれば悪いことはしないだろう。
それに我がグロリアはクォーツに不要な苦労を掛けすぎた。
先代の側妃の件にはじまり今回の麻薬密輸。
そしてクォーツの手を借りて我が国の歴史を変えることとなった。




