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23 裏オークション会場へ潜入(2)



窓の外の鴉が低空飛行した。



私はそれを見てあらかじめ切りこみを入れていた縄を引きちぎる。

すぐに後ろの男の頭めがけて回し蹴りをする。

そのまま念のため後頭部にかかとを落とし、クレア卿のそばに移動する。


「なっ……」


何か言いながら立ち上がりかけたクレア卿の側頭部めがけ肘をぶつける。

最後まで言葉にならずクレア卿が沈み込む。

そのまま金髪の男に向かい合い。



「こんなところでお会いできると思わなかったですわ。殿下」



そう。この男はグロリア国王太子エディハルトだった。

こんな奴に買われたことに思わず苛立ちを感じたので思いっきりエディハルトの腹に向かって蹴りを放つ。


「うっ……」と前かがみになって落ちた後頭部に思いっきりかかと落としをした。

そのまま意識を失ったエディハルトをちらっと確認して別の部屋を制圧しようと扉に手をかけた。




その時、後ろから首を腕で抱えられ締められる。

そのまま鼻と口を布で抑えられて薬をかがされた。




馬車の中に入れられ固いシートに寝かされた。

激高する男の声が聞こえる。

手と足は縄で縛られ、目隠しもされていた。


「くそっ! オークション会場はめちゃくちゃだ。

なんなんだ!」


怒り狂う男に違う男がのんびりした声でなだめる。


「まぁ偽のクレア卿のおかげであなたは無事だったんだ。

良かったじゃないか」


この声に聞き覚えがある。私を誘拐した男だった。


「まさかこんなひょろっこい女があいつらの仲間とはなぁ」


「お前が連れてきた女だろう!!」


「だから無料でお助しているじゃないですか。

本物のクレア卿」


「さっさとアジトに連れていけ!!」


男の「ハイハイ」と言う声と馬車の天井をコンコンと叩く音が聞こえ、馬車のスピードが上がった。






実は、私にはもう一つ任務があった。


私が攫われた次の日にベルからの手紙で知らされた。

オークションの開催の裏に大きな麻薬密売組織が関わっていることが知らされた。


よって私は騒ぎに乗じて、麻薬密売組織のアジトを突き詰めることも追加された。

その方法は当日まで決定できなかったが、先ほど漆黒から手渡された紙に方法が記されていた。



あのご婦人のおかげで私が高額落札されたことによって私の取引に責任者に近いものが出てきたのだ。

そしてもう一人男があの部屋に隠れていたことをあえて知らぬふりをして暴れたのだ。

まんまと私を攫い、さらに今は本物のクレア卿と馬車に乗っていた。





馬車が止まり、アジトらしい場所に到着したようだ。

私は、私を攫ってきた男の肩に担がれて中に連れて行かれる。

意外にもそっとソファに降ろされる感覚がする。


「おいっ! そいつのせいでこんなことになったんだ! 

さっさと殺せ!!」


激高した口調で言うクレア卿に男が落ち着いた声音で言う。


「まぁまぁ。

何かあったときの人質になるだろうし、むやみに傷けるもんじゃないですよ」


私の頭を優しく撫でながら言う。

普通であれば不快感が押し寄せてくるようなものだが、少し安心してしまう。


「ちっ! 船の準備を急げ!! 早く逃げるぞ!!」


クレア卿が大声で言いながら立ち去っていく。

人の気配はおそらく10人ほどだ。

耳から入れられる情報を、意識を集中させて取り入れる。


すると頭の近くにいたはずの男が横向きに寝かされている私の背後に回る。



「そろそろかな……。まだ目は開けないで。そのまま」



小声で私にだけ聞こえるように言いながら、私を縛っていた縄を緩める。

私は男の言うとおりに微動だにせず、そのまま意識を集中しておく。


「おい! その女を連れてこい!」


クレア卿が近づきながら叫ぶ。



「分かりましたよ。

それにしても今日はよく鴉が飛んでいる」



勢いよく起き上がりガーターベルトに隠していたナイフをそのままクレア卿に投げる。


クレア卿の「ギャーーーー!」

という叫び声を合図に外からも叫び声や怒声が飛び交いだした。


「こちらは任せて」


言いながらどこからともなく剣を取り出し、男は身に着けていたローブを脱ぎ去る。

男は真っ赤な騎士服に身を包み、そのままクレア卿を助けようとしていた男たちに容赦なく切りかかる。


「私は大丈夫だ。先に残りを頼む」


そう言って、クレア卿を捕縛しに向かった。

私は目礼し、手にした棒状の鈍器を様々な方向に投げる。


全てが男たちに当たり周囲が

「ぎゃっ!」や「うおっ!」という短いうめき声で埋め尽くされる。


それでも立ち上がる男たちには音もなく近づき、しゃがみながら手に持った短剣で足の筋に切りつける。

全員が地面に沈んだことを確認し、まだ意識のある者の意識を刈り取る。

そして武器を持っているものの腕を折って歩回った。




私を誘拐した男がクレア卿を縛り上げてから静かに私に近寄ってきた。

私は男に自ら近寄り、膝を折り、騎士の最敬礼をした。


「お初にお目にかかります。王弟殿下」


殿下の苦笑する声とクレア卿が叫ぶ声が重なる。


「違う! そいつは王弟ではない!

ハッ! 俺は王弟に謁見したこともある!」


叫ぶクレア卿に威圧を込めた視線と、今までどうやって隠していたのかという覇気を放ちながら殿下が言う。


「お前がどう言おうが関係ない。

私はこの子の言う通り、この国の王弟だ。

なぁ? クラーレ侯爵殿?」


殿下の威圧に恐れてしまい、クレア卿もとい、クラーレ侯爵はぶつぶつと俯きながら独り言を言い始める。


「すまなかった。膝をおらせたままだったね。リユー君」


私の手を取り立たせてくれた時、扉が大きな音を立てて赤い塊が私に向かってものすごい勢いでやってきた。


「リユー!! ケガはないか!? 無事でよかった!!」


力いっぱい私を抱きしめるのは、真っ赤な髪に真っ赤な騎士服を纏ったベルだった。

私はベルを抱きしめ返しながら、ベルの無事を確認して安堵する。

大きな笑い声が聞こえて、私もベルもハッと我に返った。


「殿下。外の制圧完了しております」


恭しくベルが伝える。


「大儀であった。

この件に関して再度クォーツと話し合うことになるだろう。

夫人によろしく伝えてくれ」


そう言って、ベルと同じ真っ赤な騎士服を着た騎士たちの方に向かい颯爽と歩いて行った。





先ほどの勢いと違い、今度は包み込むように優しくベルが私を包み込んでくれる。


「よかった無事で……」


「大丈夫だよ」


ベルの体に腕を回し、頭をベルの胸に預ける。

ベルも私の髪に顔をうめた。


しばらく二人で抱き合っていたが私はハッとしてベルから体を離し緑の目を見る。


「ベル!! 無茶したでしょ!

突入の時、ベルの気配しかなかった!!」


「…………。いや……」


「嘘つかないで!

私が分からないわけないでしょ!

私に無理するなって言うのに自分は無茶するなんて!」


気まずげに私のから目線をそらすベル。

殿下に合図を出されたときに分かったのはベルの気配だけだった。


他の騎士が到着したのはベルが中に入ってきてすぐだ。

外には20人ほどの敵の気配があった。

それを短時間で、一人で制圧したベルを褒めるべきか、無茶したことを怒るべきか悩んで怒ることにしたのだ。


「ベル!? エイベル! 私の目を見て!」


「……リユーが連れ去られることは分かっていたが、中から殺せって声が聞こえて……。

騎士たちが遅かったんだ。俺は悪くない」


拗ねたように言い始めるベルの頬を両側から引っ張る。


「いひゃい」


ベルの変な声に思わず声を出して笑ってしまう。


「私のために突入してくれたのは分かったけど……。

もしベルに何かあれば私だって嫌なんだからね」


「ごめん……。リユーの護りのカラスは俺だ」


「うん……。でも私も嫌なものは嫌なの。

ベルがケガするのは嫌。

絶対この先もケガしないで?」


「分かった」


おでこをコツンと突き合わせてベルが言う。

2人で少し笑い合った。



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