416話:リゾート
「みんな、勝手に遠くに行かないこと。解ったわね?」
「「「「「「はーい!」」」」」」
ミリアの言葉に、子供たちが元気よく答える。
米国艦隊を殲滅してから二週間。俺はみんなと子供たちと一緒にハワイに来ている。リゾートの話をしたら行きたいと言うから、予定を合わせて遊びに来た。
水着姿で暑い日差しを浴びているけど、耐性魔法を発動しているから日焼けすることはない。
子供たちと一緒に海に入って遊ぶ。小さい子供だと水の事故が心配だけど、水中呼吸を発動して対策してある。一番小さい一歳のエストも、
みんな目立つから、相変わらず注目されているけど、ここだと日本と違って、髪や目の色で目立つことはない。しばらく遊んでから、ビーチパラソルの下で、白いビーチチェアーに座って冷たいドリンクを飲む。
「こっちの世界の海も綺麗ね。やっぱり、海は良いわね。如何にもバカンスに来たって気分になるわ」
エリスが楽しそうに笑う。エリスはロナウディア王国の公爵としての仕事とマリアーノ商会の仕事に、子供たちの面倒や家事までこなしているから、毎日忙しい日々を過ごしている。本人は部下が優秀だから、そこまで忙しくないって言っているけど。
「子供たちの面倒は俺が見るから、バカンスに来たときくらい羽を伸ばせよ」
「アリウス、ありがとう」
「じゃあ、子供たちは俺と一緒に海の中に潜るぞ」
「「「「「「うん、お父さん!」」」」」」
下手に悪目立ちしないように、透明な『絶対防壁』を子供たちの周囲に展開すると、『認識阻害』と『透明化』を重ね掛けする。
『絶対防壁』ごと移動して海の中に潜る。沖の方に進んで海中を散歩。色とりどりの魚たちや様々な海洋生物を間近に見て、子供たちが楽しそうな声を上げる。スキューバーダイビングをしている奴らがいるけど、俺たちには気づいていない。
『アリウスなら気づいてると思うけど、魔力の強い人たちが集まって来ているわ』
エリスから『伝言』が来る。俺の『索敵』の効果範囲だから当然気づいている。
『相手が何者か想像はつくし、対策済みだから放置して構わないよ』
みんなの周りにも最小限の大きさの『絶対防壁』を展開済みで、みんなが動くのに合わせて移動させている。ここまでしなくても、みんななら自分で対処できると思うけど、艦隊を殲滅した後だから何をして来るか解らないからな。
子供たちを連れて浜辺に戻ると、みんながバーベキューの準備をしていた。肉や野菜なんかの食材はこっちのスーパーで大量に買った。海に潜ったから、ついでに魚と海老や蟹といった海鮮を取って来たけど、そんなに大量じゃないから文句は言われないだろう。
「みんな、お腹が空いたよね。お昼ご飯にするよ」
「「「「「「はーい!」」」」」」
子供たちがわいわい騒ぎながら、焼きたてを頬張る。テーマパークも良いけど、こうしてみんなで海で遊んで、外で飯を食べるのは楽しいな。
俺が子供の頃は強くなることばかり考えていたけど、師匠のグレイとセレナと世界中を巡っていたとき、ときどき息抜きに狩りをして、こんな風にバーベキューをして食べた。
研究熱心なセレナは料理の腕も一流で、グレイもワイルドな見た目通りの豪快な料理を作ってくれた。今思い出すと懐かしいな。
今も、それなりに魔力が強い奴からが遠目に俺たちを監視している。私服姿だけど動きから軍隊の人間だって解る。魔力の小さい奴らも一緒にいるけど全員軍人だな。
とりあえず監視しているだけで、何も仕掛けて来ないなら放置だ。そう思っていると、高速で飛来した弾丸が『絶対防壁』に命中する直前に消滅する。スナイパーの狙撃を俺が阻止したってことだ。
弾丸が来た方向と『索敵』の反応から、スナイパーの居場所は解っている。俺は『短距離転移』を発動。スナイパーの目の前に転移してライフルを破壊する。
「家族じゃなくて俺を狙ったから一発目は見逃すけど、次はないからな」
「ば、化物が!」
スナイパーが拳銃を出して乱射。こんなモノ俺には効かないけど、このまま放置するつもりはない。
引き金引く手ごと拳銃を握り潰して、呻き声を上げるスナイパーごと再び『短距離転移』。遠巻きに監視していた奴らの元に向かう。
「スナイパーに狙撃させたのは、おまえたちの指示だろう? 俺が艦隊を殲滅したのは、そうしないと、おまえたち米軍の方が納得しなかったからだ。まだやるなら相手になるよ。俺が人を殺せないと思っているなら、試してみるか?」
「どうやら部下が勝手に暴走したようだ。済まない」
サングラスを掛けた四〇代の男が答える。口では謝っているけど、全然悪びれる様子はない。周りの奴らもやる気満々だ。
「そんな言い訳が通用すると思っているのか?」
「だったら、どうするつもりだ? 貴様が化物なのは解ったが、俺たち全員を本当に殺せるのか? そんなことをすれば、貴様は米国の敵、テロリスト確定だ」
公衆の面前で、この人数を殺せる筈がないとタカを括っているみたいだな。
俺が黙っていると、奴らは下卑た笑みを浮かべる。だけど俺が黙っていたのは、言い返せなかったからじゃない。
「米国国防総省と話はついたよ。同盟国の国王を暗殺しようとしたおまえたちのことは、好きにして構わないそうだ」
「な、なんだと……何をいい加減なことを!」
このとき、男のスマホが鳴る。
「嘘だと思うなら電話に出てみろよ。相手はたぶんミランダ・カーシェル中佐だ」
男はスマホに出ると直ぐに青ざめる。種明かしをすると、俺が黙っていたのはミランダに『伝言』を送っていたからだ。
ミランダには、ハワイのビーチで米軍のスナイパーに狙撃されたことと、スナイパーに指示した奴らを始末して構わないかと伝えた。
ミランダが米軍に所属する只の覚醒者じゃないことは解っている。ミランダからの返事は、状況を確認したから好きにして構わないという内容だった。
ミランダにはハワイに来たことは事前に伝えていたから、俺たちの居場所をつきとめて、軍事衛星で監視していたんだろう。だから奴らがしたことの証拠は残っている。
俺だって人を殺すのは好きじゃないけど、こういう馬鹿は放置すればまた同じことをするだろう。米軍に俺の力を見せた後でこれだから救いようがないな。
俺がやらなくてもミランダが始末しそうだけど、群がって来る馬鹿を片づけるくらいは自分でやる。
直後、奴らが俺の前から消える。突然たくさんの人間が姿を消したのに、周りは誰も騒いでいない。今の俺なら、やろうと思えばこれくらいのことはできる。
「アリウス、今度は何をしたのよ?」
みんなのところに戻ると、ジェシカに訊かれる。
「狂犬を片づけただけだよ。飼い主の許可は取ったから問題ない」




