417話:師匠と弟子
「馬鹿はどこにでもいるってことだ。一切容赦する必要はねえだろう」
「私も同意見だけど、グレイ、あまりアリウスを焚きつけないで。やり過ぎると敵を増やすことになるわ。アリウスなら、世界中を敵に回しても問題ないと思うけど、向こうの世界に行きづらくなるわよ」
『自由の国』にあるグレイとセレナの家で、ハワイのビーチで襲撃を受けたことを話した。世界迷宮を攻略してから、二人は世界中を飛び回ってるけど、ベースとなる家は『自由の国』にある。
「俺も馬鹿じゃないから、上手くやるつもりだよ。向こうの世界に行けなくなっても俺は問題ないけど、ミリアは前世の家族が向こうにいるからね」
俺には、前世で繋がりがあった相手は向こうの世界にいない。その分、こっちにみんなや家族がたくさんいるし、アリウスとして知り合った奴は向こうの世界にいるけど。
「結構面倒なことになっているようだし、俺たちも向こうの世界に行ってみるか。アリウスに絡んだ奴らの面を見ておくのも悪くねえだろう」
「そうね。アリウスなら心配ないとは思うけど、何かあったときに対応できるようにしておきたいわね。アリウス、私が『異世界転移門』を発動するから、向こうの世界の座標を教えて」
『異世界転移門』は異世界転移現象を『解析』して俺が作った魔法だけど、セレナには話していたから、同じ魔法を使えても不思議じゃない。セレナは俺の魔法の師匠だからな。
俺たちはお互いの予定を確認して、向こうの世界に行く日程を決めた。
※ ※ ※ ※
さすがはセレナ、向こうの世界の座標を教えると『異世界転移門』で簡単に世界間を移動した。
「これで、いつでもこっちの世界に来れるようになったけど、もう少し実験してみないと別の場所に『異世界転移門』を開くのは難しいわね」
俺たちの世界と『伝言』で連絡を取る方法も教えたら、セレナはアッサリと再現した。
「だけど『異世界転移門』を開きっぱなしにするって……魔力の消費が激し過ぎるわね。今さらだけど、アリウスの魔力はどれだけあるのよ?」
『異世界転移門』は膨大な魔力を注ぎ込んで、強制的に二つの世界を一時的に繋げる魔法だ。維持するには物凄い量の魔力が必要だけど、俺の魔力量なら問題ない。とりあえず今回は、俺がセレナに代わって『異世界転移門』を開いておくことにする。
『認識阻害』と『透明化』を発動して、目的地の一番近い登録済みの転移ポイントに『転移魔法』で移動すると、あとは空を高速移動。
俺たちが向かったのは米国バージニア州のアーリントン。待ち合わせ場所に行くと、相手はすでに来ていた。
「グレイ・シュタットさん、セレナ・オスタリカさん、初めまして。私は米国陸軍に所属するミランダ・カーシェル中佐です」
ここに来たのは米国国防総省があるからだ。別に何か仕掛けるつもりはないけど、俺の師匠を連れて行くって言ったら、ミランダの方から誘って来た。
ミランダが用意した車で国防総省の本庁舎に向かう。ペンタゴンと呼ばれる巨大な正五角形の建築物。ここは米国の陸軍・海軍・空軍・海兵隊の中枢だけど、観光スポットにもなっていて、ガイド付きのツアーがあるらしい。
それでも米国艦隊を壊滅させた俺を連れて来たの、同盟国の国王に対して敵意がないことを示すためだろう。
ミランダは米国大統領や国防長官との会談をセッティングするって言ったけど断った。あくまでも相互不可侵条約を結んだだけで、米国に協力するつもりはないからだ。
「グレイさん、セレナさん、アリウスさんからお聞きかと思いますが、先日米軍の者がバカンス中のアリウスさんとご家族を襲撃しました。一部の者が勝手に暴走したことですが、私たちにも責任があります。二度とこのようなことが起きないように全軍に徹底させます」
「俺たちに謝ることじゃねえだろう。アリウスと話がついているなら口を挟むつもりはねえが、仕掛けて来るなら排除するだけの話だ」
「ミランダさん、私たちは貴方たちを牽制しに来た訳じゃないわ。アリウスの敵に回る可能性があるから、戦力を測りに来たのよ」
グレイとセレナの言葉が十分牽制になっているけど、わざとやっているんだろう。
二人は魔力を隠しているから実力を測れないけど、ミランダは内心で相当警戒しているだろう。向こうの世界に連れて行ったときに、俺の師匠なら同じことができると言ったことがあるからな。
「米国は貴方方と敵対するつもりはありません。相互不可侵のみの条約とは言え、こちらとしては同盟国である『自由の国』に全面的に協力させて頂きます。何か必要なことがあれば、何なりと仰ってください」
「グレイ、セレナ、あまりミランダを虐めるなよ。ミランダは俺たちの協力者として、色々と手を回してくれているんだ。裏で動いているのは気づいているけど、こいつも組織の人間だから仕方ないだろう」
ミランダは米国のために動いているから、情報を流していることは解っている。だけどハワイで襲撃して来た奴らはミランダが仕組んだことじゃない。そんなことをしてもデメリットしかないことを、ミランダは理解しているからだ。
「アリウスが言いたいことは解るが、おまえはちょっと甘いところがあるからな。ミランダ、あんただけじゃなくて上にいる全員に理解させろ。アリウスがその気になれば、この国は一瞬で滅ぶ。これは脅しじゃねえぜ。馬鹿のせいで国を終わらせたくねえだろう?」
グレイは世間話でもするような感じで続ける。
「アリウス一人の実力を見くびるのは、ある意味仕方ねえ。一人の人間にできることは限界があるって思うだろうからな。だがアリウスの味方はたくさんいるし、『異世界転移門』を開けるのはアリウスだけじゃねえ。あんたは俺たちの世界に来たことがあるから解るだろう。向こうの世界から俺たちが大挙して攻めて来るような状況になればどうなるか」
グレイが俺のために言っていることは解っているし、この方が効果的だと解っていても、俺なら絶対にこんな言い方はしないだろう。
「私たちは怒っているのよ。一部の兵士の勝手な暴走とか、規律が守れない軍隊なんて暴徒と同じじゃない。今回はアリウスが言い訳を聞いたけど、次はないわよ」
やり方としては間違っていないと思うけど、これだと師匠の二人に代わりに言って貰ったみたいじゃないか。グレイとセレナにとっては、俺はまだ手の掛かる弟子ってことか?




