414話:証明
米国陸軍に所属する覚醒者ミランダ・カーシェル中佐を、『異世界転移門』で俺たちの世界に連れて来た。
『転移魔法』で各地に移動して、世界中を見せて回った。ここが撮影のために作った大規模なセットじゃなくて、異世界だってことを実感させるためだ。
「本当に異世界が存在するのね。一見すると文明レベルは私たちの世界の近世くらいだけど、魔法と魔導具の技術が発展しているから、決して劣っているとは言えないわね」
ミランダは目に映るものを正確に分析している。俺たちの世界には飛空艇や魔銃があるし、日常生活でも魔導具の明かりや、魔石を使った調理器具を使っている。
軍事力という意味でも、魔法が使える奴が普通にいるし、一○○レベル以上なら戦車くらい破壊できるだろう。
「ねえ、アリウス以外に、世界を行き来する魔法を使える人はいるの?」
軍人であるミランダは、この世界の国が自分たちの世界に侵攻する可能性を考えているんだろう。
「いや、俺の知る限りはいないよ。『異世界転移門』を作ったのは俺だし、別の世界に行くには膨大な魔力が必要だ。俺の師匠なら同じことができると思うけど、おまえたちの世界の座標を知っているのは俺だけだ」
グレイとセレナにも、前世の世界に行っていることは話している。だけど反応は『アリウスの前世の世界を見てみたい』と軽く言うくらいで、そこまで興味がある感じじゃなかった。二人は前世の世界と関わりがある訳じゃないし、前世の世界のことは俺に任せるってことだろう。
「理由は解らないけど、おまえたちの世界の人間が、こっちの世界に突然現れる『異世界転移』は結構頻繁に起きている」
ミランダに異世界転移者のことを説明する。
「『異世界転移特典』とか、随分とふざけた名前のスキルだけど、それを発動すると漏れなく覚醒者になって、ユニークスキルが使えるようになるの? 貴方たちにとって、異世界転移者は脅威なんじゃない?」
「脅威というより面倒だな。この世界には異世界転移者よりも強い奴がたくさんいるし、奴らが徒党を組んで『自由の国』に攻めて来ても、返り討ちにするだけの話だ。それよりも俺が元の世界に戻せることを知って、『自由の国』に押し寄せる馬鹿の相手をする方が面倒だよ」
元の世界に戻せと当然のように要求して来る馬鹿を、強制退去させるのも面倒臭い。殺してしまった方が簡単だけど、とりあえず、今はそこまでするつもりはない。
異世界転移者のことまでミランダに説明した理由は、それなりの数の異世界転移者を向こうの世界に戻しているから、どうせバレるからだ。
米国が異世界転者が出現する現象を利用しようとしても、現象を引き起こしている奴に辿りつけるとは思わないし、もし奴の方が米国を利用するなら、こっちにも考えがある。
「貴方たちの世界のことは良く解ったわ。力という点でも文明レベルという点でも、米国の協力が必要ないと言った意味も理解したつもりよ。だけどその上で、これからも貴方が私たちの世界で活動するなら、米国の力が必要になると断言するわ」
ミランダは自信たっぷりに言う。
「理由は二つあるわ。一つは米国の圧倒的な国力。米国は私たちの世界の覇者であり、他の全ての国が米国を止められない。米国が黒を白と言えば、それが真実になる。これほどの国は、貴方たちの世界に存在しないでしょう。どんな悪意が貴方たちに降り掛かっても、米国なら排除することができるわ」
ここまであからさまに言うのは少し意外だけど、異世界の存在を実感して、それだけ俺を取り込みたいってことだろう。
「もう一つは情報力。米国は衛星カメラを使って世界中を常に監視している。世界中のどこにいても米国の目を逃れることはできない。たとえ建物の中や地下に潜んでいても、米国の諜報力で必ず居場所を暴き出す。アリウスなら、この価値が理解できるわよね?」
ミランダが言うように、向こうの世界で活動するなら米国の協力が得られるに越したことはないし、逆に敵に回せば面倒なことになる。だけどその代償として米国に利用されることになるし、協力なんて得なくても俺は自分で勝手にやるからな。
どんな悪意も俺は自分で振り払うし、向こうの世界に行くようになってから、電子機器対策用の魔法は開発済みだ。俺がその気になれば、米国の衛星カメラを支配下に置くこともできる。勿論、そんなことをミランダに言うつもりはないけど。
「同じことを何度も言わせるなよ。条約を結ぶのはあくまでも相互不可侵のためで、米国の協力は必要ないからな」
「そう……だったら今度は米国の力を実感させてあげる。それでもアリウスの考えが変わらなければ諦めるから、もう一度だけ付き合って」
俺が何を言っても、ミランダの自信は揺らがなかった。
※ ※ ※ ※
数日後、俺はミランダと一緒に米軍のヘリで海上を進む。視界の先に見えて来たのは、原子力空母を中心に展開する米国艦隊。
艦船の数は二〇隻ほど。俺はミリタリー系に詳しくないけど、昔の軍艦のような大砲の代わりにレーダーを搭載しいるから、イージス艦って奴だろう。
軍用ヘリが空母の甲板に着陸すると、白い軍服と軍帽姿の髭を蓄えた五〇代の男が近づいて来る。
「ようこそ、アリウス・ジルベルト。本艦隊の司令官を務めるマーク・ブレイクマン中将だ。君の覚醒者としての実力は聞いている。あのハンク・ローランド大佐が手も足も出なかったそうじゃないか」
ハンク・ローランドは米国が送り込んで来た一〇〇〇レベル超えの覚醒者で、米国最高戦力の一人らしい。
「頬に傷がある奴のことだろう? それなりには強かったけど大したことなかったよ」
反応を見るためにわざと挑発的に言うと、マーク中将が不敵に笑う。
「カーシェル中佐から今日の目的は聞いている。君は米国の協力など必要ないと言ったそうだが、幾ら覚醒者でも個人の力などたかが知れている。我々の実力を見た上で同じことが言えるか、試させて貰おう」
ジェットエンジンの轟音とともに、甲板の上を二枚の縦尾翼を備えて、少し丸みを帯びた戦闘機がカタパルトへと移動する。
「これが米軍の誇る最新鋭ステルス戦闘機F35CライトニングⅡだ」
カタパルトで射出されたF35Cが一気に加速する。音速を超えると急上昇して旋回、アクロバティックな動きで空母の上空を通過する。
「F35Cは対地上攻撃用のミサイルも搭載可能だ。幾ら覚醒者といえども、戦闘機には敵うまい?」
正直、こいつは何言っているんだよって思う。そもそも戦闘機って人と戦うための兵器じゃないだろう。スピードや機動性のことを言っているなら、一〇〇〇レベル程度のハンクって奴が最高戦力の一人なら、米国の覚醒者じゃ敵わないかも知れないけど。
「撃墜しても文句を言うなよ」
「アリウス、君は何を――」
マーク中将が言い終わる前に『短距離転移』を発動。上空で加速して、戦闘機を後ろから追い掛ける。音速の一〇倍を超える速度で一瞬で追いつくと、拳で殴りつける。
機体が爆発したけど、直前に『絶対防壁』を展開したからパイロットは無事だ。俺の方は殴ると同時に『転移魔法』で空母の甲板の上に戻る。
「最新鋭戦闘機とか言っても、所詮はこの程度だろう」
俺が戻ったことに気づいていなかったのか、マーク中将が振り向いて唖然とする。
「もっと俺の力を見たいなら、この艦隊を全滅させることもできるけど、嘘だと思うなら試してみるか?」




