第二章アフター 二人のお世話がかり(4)
お昼が過ぎ、午後の実技の時間。
カームはいつものようにソラと共に特訓を行っていた。
カームが目指すのは、エレメンタル・マスターの証である【虹使い】。
そのためには、火、水、風、地――四大をマスターしなければならず、今現在、カームは火のエレメントにおいてはマスタークラスの実力を有しているが、他の三つに関しては基本ができる程度で、マスターするにはまだまだ時間がかかるだろう。
史上初の【虹使い】となることを己に誓いつつも、心のどこかでその想いと同じくらいにこの気持ちを否定する自分がいた。
なにせ、入学してから三年が経った四年生への進級時、カームは水、風、地の基本をようやく扱えるようになった程度だったからだ。
火のエレメントをマスターするのに、カームは十年を要した。
それをあと三回――つまり三十年を要するとなれば、それはほとんど絶望的に近い。
しかも、エレメント量は、年齢とともに減少していくのが常であり、ただ時間をかければ習得できるというものではないのだ。
そんなカームの前に現れたのが、ソラだった。
若干十四歳で、水、風、地をマスターしていた少年。
その出会いは衝撃的で、カームは自分という存在の小ささを知った。
卑屈になり、少年に冷たく当たってしまった。
今の自分が当時の自分を見たならば、馬鹿野郎と叫んでいただろう。
ソラは、常人ならば耐えられないような特訓を六年に渡り受け続け、それから二年を独学で学び、それによって三つのエレメントをマスターしたのだ。
それを知ったカームは、ソラを認め、むしろエレメンタラーとして上の存在として認識するようになった。
つまり、上級生であるが、自分が学ぶ立場であるということ。
ソラもまた、そんなカームに協力を申し出てくれた。
カームを【虹使い】にするために、水、風、地のエレメントをマスターさせると。
そして、カームはソラに火のエレメントを扱えるようにすると誓った。
それは、ソラの内に眠る【深淵】を消滅させることができた証であり、カームが【虹使い】となったことの証でもあるのだ。
だから、一日も欠かすことなく、カームとソラはまさに一心同体となり、特訓に特訓を重ね、【虹使い】を目指した。
だが、ここに来て、ソラがエレメントを使えないという事態に陥った。
ソラがエレメントを使えないとしても、指示する形でカームがひとりで特訓することもできるのだが、ソラ曰く、エレメントの扱いは、個人錬を基礎とし、そして実践で飛躍的に伸ばすのだと。
実際、ソラは風と地のエレメントをあの四英雄から直に叩き込まれたのだが、その特訓方法は、まるで体に覚えさせるとでも言うように、とにかく実践だったのだという。
地のエレメントでは生傷が絶えることはなく、体中があざだらけになり、風のエレメントでは四六時中、エレメントをまとい、あらゆる体の動きに風を付与させ、肉体の速度を上げたり、楓との一騎打ちを毎日行ったりと、アカデミーで採用しようとしたならば、誰ひとりとして次の日から姿を見せなくなるような荒行だったと言う。
つまり、ソラ以外に実践を頼もうにも、ソラが要求する強度に誰もついてこられないのだ。
フィリスならば意地になってでもついて来ようとするかもしれないが、それでもソラから見ればフィリスも、まだまだだと言う。
しかし、そんなソラさえも認める生徒がひとりだけいるのだ。
だが、それは同時にソラの両腕を使えないようにしてしまった張本人であり、その当人からすればどうにも気まずい空気になりそうだが、
「おまたせしました」
走ってここまで来たのか、到着するなりぜぇぜぇと呼吸を整えようとするクリスに、カームとソラは顔を見合わせ苦笑した。
「クリス、大丈夫?」
「そんなに焦らないでも、誰も逃げたりしないわよ」
「いえ、待たせるわけには、いきませんから」
背中を丸めて呼吸を整えていたクリスが、体を起こす。
「じゃあ、早速だけど始めましょうか」
ソラの合図に、二人が頷く。
「その前に、クリス。今回の提案に賛成してくれてありがとう」
「ううん。元はと言えば、私のせいだし。そうじゃなくても、私もカーマインさんの【虹使い】になる手伝いをしたいの。約束もしたしね」
「約束?」
ソラが首を傾げると、クリスはカームを見やり、意味深に視線を交わした。
それは、ベヒモスと共に自身の命を絶つつもりでいたクリスが、カームによって救われた際に交わした契約のようなもの。
生きる意味を失ったクリスに、カームは自分のために生きるように言った。
クリスの地使いとしての能力は規格外であり、それをもってカームに地使いとしてのエレメントの扱い方を教えてほしいと。
それをソラに話すと、大いに喜んでくれた。
「クリスが一緒なら百人力ですね、カームさん」
「ええ、そうね。また一歩、目標に近づけた気がするわ。もちろん、やるのは私自身だから、何よりも私が頑張らないといけないのだけれど」
決して奢らず、むしろ謙虚な姿勢のカームに、ソラとクリスは改めて、カーマイン・ロードナイトという女性の器の大きさを思い知った。
「それじゃあ、改めて、三人で頑張りましょう」
「ええ」
「うん」
ソラを中心に、カームとクリスが距離を取り、そして向かい合う。
「行きます! カーマインさん」
「ええ、どこからでもかかってきなさい!」
そして、カームとクリスから、黄のオーラが溢れ出すのだった。




