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空使いとアルカンシェル  作者: 天瀬 智
第十章 闇の少年と虹の少女
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エピローグ 約束(4)

 城塞都市アルディエンテにある総合競技場スタジアム

 古くからあった闘技場を、アルカンシェル杯が開催される年に合わせ、大規模な改修と増築が行われてできたのが、総合競技場スタジアムだった。

 イリダータ・アカデミーにある円形闘技場コロッセウムと違い、アルディエンテの総合競技場スタジアムは楕円の形をしており、より広い空間での競技が可能となっていた。

 その総合競技場スタジアムの観客席は、満員御礼となっていた。

 それを予期して朝からすぐに宿を出たエラたちは、総合競技場スタジアムに直行していた。

 そして、ついに見つけたのだ。

「フィリスお姉さま――っ!」

 観客席に座るフィリスの後ろ姿を見つけるなり、エラは階段をふたつ飛びで駆け下り、

「エラ!」

 席から立ち上がって階段まで移動してきたフィリスと抱き合った。

「お姉さまー! お久しぶりです! 会いたかったですー!」

 胸に顔を埋めるエラの頭を撫でるフィリス。

 そんな先輩の姿に、マリアたちは唖然としていた。

「せ、先輩……!?」

「あのエラ先輩が……」

「びっくり……」

 驚く三人の隣でレイがしみじみ呟く。

「あれが、エラ・グリーンだ」

 一方で、クリスもまた階段を下り、フィリスに続いて階段まで移動してきた風子と抱き合い、久しぶりの再会を喜び合っていた。

「さぁ、俺と喜びを分かち合ってくれるカワイイ後輩はいるか!?」

 階段を一歩下り、振り返って階上に立つ後輩の三人に向かって両腕を広げて見せるレイだったが、

「エラせんぱーい! 私も混ぜてくださーい!」

「レイ先輩、それ、訴えられますよ」

「ご、ごめんなさい」

 三者三様の返事をしながらレイの横を通り過ぎる後輩たち。

 ひとりになったレイは、腕を下ろし、ひとりやりきった感を醸し出しながら、ひとり寂しく階段を下りるのだった。


            ※


「それにしても、お姉さまと風子さんも来ていたんですね」

「ええ、何せカームが出場するのだから、観に来ないわけにはいかないわ」

「私はてっきり、フィリスさんも出場すると思っていました」

「それは私も思っていたのだ」

「私は、卒業してからずっと勉強の毎日だから、今は専ら、エレメントの実技よりも座学に重きを置いているのよ」

「そんなお姉さまも素敵です。嗚呼、先生になったお姉さまに教えられる生徒が羨ましい」

 恍惚とした表情を浮かべるエラに、もう誰もが当たり前のように接する――まだ慣れていない後輩たちを除いては。

「そういう風子はどうなの? 個人参加も可能なのよ?」

 フィリスの問いに、風子は首を振って見せた。

「こう言っては悪いが、私という存在は規格外すぎるのだ。そんな私が出ては、場が白けてしまう。だから、私は遠慮しているのだ」

「っていうのは建前で、本当は、楓さんと決着をつけるまで、誰とも戦わないようにしているんですよね?」

 風子の説明にすかさず合いの手――という名の本音——を挟み込むクリス。

「それは、一生を費やすことになるかもね」

 フィリスの言葉は、茶化しているようで、圧倒的なまでの現実だった。

 大陸最速の壁はあまりに高く、その到達に最も近いとされる風子でさえ、その高みを拝むことができないでいる。

 それでも風子は鍛錬を怠らず、昨日の自分よりもさらに前へと進んでいた。

 今の自分に満足せず、そのさらに上に立つ明日の自分を目指して。

 それはもしかしたら、終わりのないことなのかもしれない。

 それでも風子は昇り続ける。

 そんな変わらない風子の生き様に、エラたちは懐かしいものを見るように、しみじみとしてしまった。

 これから先、みんながそれぞれの道を歩き、色んな経験をしていくなかで、風子だけはただひたすらにひとつの目標に向かって進み続けているのだろう。

「そろそろ始まりますよ、先輩方!」

 後ろの席に座るマリアの言葉で、談話に耽っていたエラたちは正面の下方に見える競技場に視線を向けた。

 開会式が始まり、各国の代表選手が入場する。

 風の国、地の国、水の国、そして最後に火の国の代表が入場する。

 競技場をぐるっと一周しながら、集まってくれた観客たちへ手を振る代表選手たち。

 その最後の火の国よりも後にひとり、オレンジ色の髪をした女性がいた。

 誰よりも存在感を放つその女性が、堂々とした自信に満ちた表情で手を振る。

「カーマインせんぱ――い!」

「カーマインさま――!」

 エラとマリアが、カームに向かって声を上げる。

 まわりの歓声もすごいが、この二人の声は特に大きい。

 そして、それに気づいたのか、カームがエラたちの集団を見つけると、こっちに向かって手を振ってくれたのだ。

 反応してくれたことに狂喜乱舞するエラとマリア。

 その傍らで、

「すごいわね」

「はい」

「これは楽しみなのだ」

 フィリスとクリス、そして風子の三人だけは、視線を交わした際に感じたのだ。

 かつてのカームからは感じられなかった、圧倒的なエレメントの力を。


            ※


 予選トーナメントで、カームは圧倒的な実力を見せつけ、他を圧倒した。

 カームよりも年上やマスタークラス、戦争を経験した歴戦の猛者に、歴代のアルカンシェルもいたが、その誰もが固唾を呑んだ。

 カームは決勝トーナメントへの出場を果たし、観客たちを大いに盛り上げ、明日の試合への期待を膨らませるのだった。

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