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空使いとアルカンシェル  作者: 天瀬 智
第十章 闇の少年と虹の少女
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エピローグ 約束(2)

 城塞都市アルディエンテ。

 火の国で最も大きな都市であり、その名の通り、都市を巨大な城壁で囲われているアルディエンテは、初めて来訪するものに、圧倒的な威圧感を与える。

 外から都市の内部を観ることは叶わず、入るにも必ず城門を通らなければならない。

 警備員が立っているものの、出入りは自由だ。

 大陸北部に左右に広がる形をしている火の国は、比較的寒冷だ。

 バカンスの時期だが、半袖でいると肌寒く感じるときもある。

 それでもアルディエンテは、まだ温暖な方で、夏までにはちゃんと雪が解ける。

 アルディエンテは、その無骨な外観から、どこか荘厳な雰囲気を漂わせていたが、この時期だけは違った。

「すっごーい!」

 城門を抜け、通りに出た一同は驚き、それを代弁するかのようにマリアが歓声を上げ、通りを走っていった。

「ちょっとマリア、待ちなさい! 迷子になるわよ!」

「あ、置いてかないでアリシアちゃーん!」

 マリアを追いかけるアリシアと、その背中を追うセシル。

「予約してた宿に行ってるから!」

 エラが両手で口のまわりを囲い、大声を上げる。

 それに気づいたアリシアが走りながらも振り返り、手を挙げる。

 それを確認したエラは、ほっと肩を撫で下ろした。

「じゃあ、行こっか」

 振り返るエラに、

「すぐに行っても待ってるだけだから、少し歩いて回ろうぜ」

「でも――」

「いいじゃない。きっとアリシアさんとセシルさんだって、マリアさんに引っ張られてあちこち見て回ることになるから、すぐには戻ってこないよ。それに――」

 クリスが顔を上げる。

 その通りは今、お祭り騒ぎとなっていた。

「こんなに出し物が出てるんだから、楽しまないと勿体ないよ」

「……そうね」

 クリスに押され、仕方なくといった感じで納得するエラに、レイが手を差しだす。

「荷物、持っててやる」

「ありがとう、レイ」

 エラは荷物を差し出し、それをレイが受け取る。

「ついでに、クリスのも持ってやるよ」

「ふふ、ありがとう、レイ」

 微笑みながら荷物を渡すクリスの横で、エラが小さく頬を膨らませる。

 それを横目で見ていたクリスは、そんなエラの頬を指で突き、からかうのだった。

「それにしても、本当にお祭りだな」

「ええ。なんたって、四年に一度の祭典——『アルカンシェル杯』の開催地に選ばれたんだから」

 アルカンシェル杯は、四年に一度だけ開催される、大陸一のエレメンタラーを決める大会だ。

 参加条件はない――のだが、国同士の威信を懸けた戦いでもあるため、各国は独自の選考委員を発足し、そこが毎年開催している全国大会などの成績による点数によって出場枠に入ったエレメンタラーをアルカンシェル杯に送り出しているのだ。

 これによって、アルカンシェル杯に出場するエレメンタラーはまさに大陸一の実力を有した者たちばかりとなるため、実質、参加条件が不問であるにも関わらず、個人での参加希望はほとんど――というよりも、ない。

 個人参加があったとしても、その者は参加した以上、優勝しなければ恥をかき、生涯に亘ってそれを背負うことになる。

 アルカンシェル杯は、開催国を毎回変えている。

 第一回は水の国『海洋都市アクアマール』、第二回は地の国『緑地都市オアシリア』、第三回は風の国『ヴィエンバリエ』、そして第四回がここ――火の国『城塞都市アルディエンテ』となる。

 ちなみに、次回の第五回は記念回として、『五彩都市アルコイリス』で行われるらしい。

 イリダータ・アカデミーとも共同で何やら行うらしいが、それが分かるのは、まだ先のことだろう。

 それよりも、大事なのは今回の大会だ。

「うう~、楽しみすぎて震えが止まらないわ」

 身震いするエラに、レイとクリスは顔を見合わせ苦笑してみせた。

「そういや、お前は好きだったもんな。こういうの」

 一年生だったころ、アルカンシェル杯のことや、イリダータで行われていたエレメンタル・トーナメントに関する情報をよくエラから教えられてものだ――とレイがしみじみと呟く。

「だって、カーマイン先輩が出場するのよ! 興奮しないわけないじゃない!」

「まぁ、落ち着け。そんな姿、後輩たちには見せるなよ」

 どうどう、と興奮するエラを宥めるレイ。

「でも、気持ちは分かる。私も、カームさんの活躍を見てみたいと思ってたから」

 同意するクリスに、

「破竹の勢いだったもんな。やっぱり凄いぜ、カーマイン先輩は」

 レイもまた頷かずにはいられない様子で、何度もうんうんと頷いた。

 カーマイン・ロードナイト。

 その名は、イリダータ・アカデミーでは伝説となっている。

 一年から三年までエレメンタル・トーナメントで三連覇を達成し、四年のときはアクシデントで無効となったものの、実質、優勝は間違いなかったため、一年から四年までの【ガーネット】を制覇したと言われている。

 火使いにとっては憧れの女性として、まるで偶像アイドルのように扱われており、それ以降のイリダータには、カームに憧れて入学するものもいた。

 なんといっても、マリアもそのうちのひとりなのだ。

 そんな卒業生でもあるカームだが、その名は卒業しても届き続けていた。

 イリダータにエレメンタル・トーナメントがあるように、各国も独自の大会を開いている。

 カームはそこに出場し、そして優勝し続けた。

 それだけでも偉業なのだが、カームの名を大陸中に広めたのは、それがカームの自国である火の国だけでなく、他の三国でも勝っていたからだった。

 カームは火のエレメントだけでなく、水、風、地すらも使いこなし、あらゆる大会に顔を出しては、どのエレメントにも対応しているため、どんな条件でも出場でき、そして優勝していったのだ。

 そしてカームは自分のことを【虹使い】と称し、それに広報が便乗し、カームの二つ名を大陸中に広めたのだ。


 ――虹のカーマイン。


 それは、史上初の四大エレメントを極めたエレメンタラーの存在が、大陸全土に広まった瞬間でもあった。

 そんなカームだが、アルカンシェル杯において、どの国からでも出場可能枠に入ることができたカームだったが、一番の有力候補はやはり、出身国である火の国だった。

 火の国も、カームは自国枠で出場することを疑ってはいなかった。

 だが、カームはそれに反し、別の選択肢を取ったのだ。

「それにしても、カーマイン先輩が個人枠からの参加にするなんてね」

 祭りの雰囲気を楽しみながら、屋台でジェラートを頼み、休憩スペースの日傘の下でジェラードを口に含む。

「国が定めた出場枠からの参加だと、どうしてもその国のエレメントを使わないと国の面子があるからっていうのもあるから、カームさんにとっては不自由に感じたんだろうね」

 ジェラートを口に含み、クリスが呟く。

「でも、おかげでカーマイン先輩の全力が見られるんだから、国の圧力に負けずに己を貫き通したカーマイン先輩には脱帽だな」

 レイの言うとおりだ。

 己を貫き通すことの難しさは、よく分かっている。

 それには、勇気と、自信と、そして実力が必要となる。

 そして、それらすべてをカームは兼ね揃えている。

 その強い――いや、強すぎる女性像は、大陸すべての女性にとっての光となっていた。

 昔からエラも強い女性に憧れる傾向にあったが、カームはもはや、自分の中ではそういった対象にすら入らないほど、神格化されてしまっているのだ。

「大会の予選は明日で、明後日は決勝トーナメントだから、今日はこのお祭りをめいっぱい楽しんで、明日からは全力でカーマイン先輩を応援するわよ!」

 おーっ! と拳を突きあげるエラに、レイとカームも控えめに拳を上げて見せるのだった。

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