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空使いとアルカンシェル  作者: 天瀬 智
第二章 大地の呼び声
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第一話 悪夢の始まり(1)

 それは夢であり、悪夢だった。

 ある日をきっかけに、毎日見続ける夢。

 乾燥した砂漠地帯に佇む自分。

 そして、自分を中心に大地に伏す、数多の死体。

 そのすべての死体が、同族のものだった。

 そのほとんどが、人の原形を保っていない、歪なものとして転がっていた。

 首や腕、脚――それらが、本来ならば曲がっていけない方へと曲がり、そしてまるで圧縮されたかのように押し潰されていた。

 あまりに見るに堪えない光景。

 本当なら目を覆いたくなる光景なのに、この悪夢は自分にその死体の有り様を嫌でも見せつける。

 まるで、自分が望んで皆を殺し、その死体を見て喜んでいるように思わせようとしているかのように。

 どうしてそう感じるのか。

 なぜなら、それらの死体を見ている自分が――笑っているからだ。


「――っ!」

 悪夢からの目覚めと同時に、クリス・ロックハートはベッドから跳ね上がるようにして上体を起こした。

「……ハァ……ハァ……ハァ……」

 高鳴る心臓。

 体中が汗ばみ、ネグリジェや、軽くウェーブのかかったブロンドのミディアムヘアーが肌に張りついていた。

 何度も深呼吸をし、心を落ち着かせていく。

「またなの?」

 上から聞こえた声に、思わず顔を上げる。

 二段ベッドの上で眠る同室のクラスメイトが、わざわざベッドから顔を覗き込ませてくる。

「う、うん。ごめんね、起こしちゃって……」

 頭を下げて謝るクリスに、クラスメイトが小さな声で応える。

「気にしなくていいわよ。そっちこそ、大丈夫なの? ここのところ毎日でしょ?」

 本当ならこんな真夜中に起こしてしまって怒られても仕方ないはずなのに、同室のクラスメイトは、むしろ自分の心配をしてくれる。

 それが、どれだけ救いとなっているか。

「小さい頃からよく見るんだけどね。でも最近……特に酷くて……」

 優しくされたせいか、つい弱音を吐いてしまう。

「それなら、コーデイ先生に見てもらった方がいいわ。不安なら付き添うけど?」

「ううん、そこまでしてもらうわけには……ひとりで大丈夫だから」

「そう? もし何かあったら、遠慮なく言ってね」

「うん。ありがとう」

 そう言うと、クラスメイトが顔を引っ込める。

 しばらくそのままでいたクリスは、やおらベッドを下りた。

「少し、夜風に当たってくるね」

「……気を付けてね」

 夜間は外出禁止なのだが、屋上ならば出ることができる。

 静かに床に足をおろし、部屋を出るクリス。

 その背中を、クラスメイトの心配そうな視線で見つめられているとも知らずに。


 屋上に出ると、涼しい風が肌を撫でた。

 火照った体にはちょうどいいが、長居すれば今度は汗で冷えてしまいそうだ。

 屋上を進み、フェンス越しにイリダータ・アカデミーの広大な敷地を見下ろす。

 その中のひとつ――円形闘技場コロッセウムをクリスは見つめていた。

 半壊した闘技場。

 今でも修復作業が行われ、立入禁止となっている。

 一ヶ月前。

 エレメンタル・トーナメントの火の部門【ガーネット】の試合において、生徒のひとりが火のエレメントを暴走させ、会場は騒然とした。

 あの日以来だ。

 特に酷い悪夢を見るようになったのは。

 クリスは、幼い頃からよく悪夢を見る体質だった。

 悪夢と言っても、ちょっとした嫌なことで済むこともあれば、誰かが――もしくは自分が死ぬような夢もある。

 だが、一ヶ月前から見るようになった夢は、特に酷い。

 周りは死体だらけで、そのどれもが体が歪に折れ、そして潰されていたのだ。

 思い出すだけで気分が悪くなり、吐き気がする。

 その最大の原因は、その悪夢の中心でひとり佇むクリス自身が、笑っていることだった。

「はぁ……」

 溜息ひとつ。

 駄目だ。

 ここにいたら、逆に悪い方へ悪い方へ考えてしまう。

 クリスは踵を返し、屋上を後にしようとした。


 ――我を求めよ。


「え?」

 声がした――気がした。

 だけど、ここには自分以外誰もおらず、気のせいとしか思えなかった。

 それでも、確かに聞こえた。

 それは、耳から聞こえたというよりも、頭の内から直接語りかけられたかのように聞こえた。

 だが、それこそ気のせいだ。

 そんな声が聞こえるはずなどない。

 クリスは自分にそう言い聞かせ、屋上をあとにした。

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