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空使いとアルカンシェル  作者: 天瀬 智
第二章 大地の呼び声
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プロローグ 闇の蠢動

 そこは闇。

 黒――とも違う、色のない世界。

 上下左右の感覚すらなく、色の識別もできない。

 肌の感覚もなければ、何の匂いもしない。

 五感が作用しないこの空間は、生身の人間であれば一分も持たずに気が狂い、精神を病んでしまうだろう。

 そんな異質な空間で、蠢く闇。


 ――いやはや、困ったものです。まさか、我らが主が再び眠りについてしまうとは……。


 どこか飄々とした、男の声。

 誰の口から発せられたものではない――だが、その声は確かに闇に響いていた。


 ――あの火使いの娘から感じたオーラは、『魔眼』と同質であった。奴の炎は、その本質である浄化を司る。


 飄々とした男とは違う、野太く低い声が応じる。


 ――『魔眼』……ねぇ。あの力を受け継いでいるのなら、厄介ね。その娘が傍にいる限り、坊やから主が目覚められなくなる。


 二人の男とはまた別の、今度は女の声だった。

 闇の空間でかわされる会話。

 かつて大戦で闇の使徒と呼ばれ、恐れられ、そして四英雄によって葬られた三人のエレメンタラー。


 闇の風使い――ジズ。

 闇の地使い――ベヒモス。

 闇の水使い――レヴィ。


 力を欲するあまり、自ら【深淵しんえん】によって闇に堕ち、強大な力を手に入れた闇のエレメンタラー。

 イリダータ・アカデミーで起きた、ソラの内に宿っていた【深淵しんえん】の目覚め。

 それに乗じ、闇の使徒の三人もまた、四英雄に敗れた際、肉体を失いながらも、精神体――闇の残滓となって復活の機を窺っていたのだ。

 そして訪れた、復活の時。

 だが、闇そのものとなっていた三人は、【深淵しんえん】自体が完全にソラを支配しきれておらず、その影響を受けてしまい、闇の使徒もまた力を完全に発揮することができなかった。

 そして、あろうことか暴走したソラによって、力を四散させられ、最後にはあの火使いの娘――カーマイン・ロードナイトの炎によって、【深淵しんえん】が再びソラの中へと封印されてしまったのだ。


 ――やはり、『器』が必要ですかねぇ。どうにも、本物の刀を使わないと、本領が発揮できません。いやはや、闇そのものというのも、便利なようで不便なものだ。


 ――私たちの力を完全に発揮できる『器』ねぇ。


 ――我はすでに目星をつけている。


 ――あら、早いのね。私も、自分の『器』にするのなら、候補は一人しか思い浮かばないけど。


 ――お二人とも羨ましいですねぇ。私は、そもそも刀を扱えるものでなければなりませんから、これは骨が折れそうです。


 ――まずは我が先行しよう。


 ――『器』を手に入れたのち、再び主を目覚めさせるわよ。


 ――ああ、楽しみですねぇ。そして、訪れる暗黒の世界。次はどれだけの数を斬れるでしょうか。


 屈折した笑い声が響く。

 そして、闇が霧散していく。

 そのあとには、何も残っていなかった。

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