消去
黒ずくめの男が侵入した王都の市街地。
既に飲めや歌えの大騒ぎで、街の至る所で人々が騎士団長の婚姻に歓喜していた。
「よう、あんちゃん! 今夜はめでてぇ……」
フレンドリーに肩を組もうとした酔っ払いの男性。
彼も一瞬にして、その姿を消した。
「え…! き、消えた?」
すぐ近くを歩いていた若いメイドの女性。
突拍子もない現象を目の当たりにし、先程の酔っ払いが居ないかと左右をキョロキョロと見回す。
「見ました? 貴方も見ましたよね! 貴方の目の前、確かに酔っ払いが居ましたよね?」
同じ光景を見たであろう、黒ずくめの男に近寄った瞬間。
メイドの女性も突如、消え去った。
そんな異常な事態を、街の喧騒は何も無かったかの様に掻き消してしまっている。
男はニヤリと嗤いながら、街の奥に聳え立つ王城を眺めるのだった。
男が王城に向かう途中、不幸にも行方不明となった者。
その数、おおよそ三百名以上。老若男女問わず、跡形も無い。
その消息は全員が不明である。
そして、遂に…
男は王城に辿り着いた。
門兵達も皆、消え去ってしまった。
男は悠々と城内に入って行く。
警備の騎士達、近隣の領地から駆けつけた貴族達。
他にも多くの者が行き交う城内。
彼らもまた、男の至近に入っただけで消え失せた。
男の向かう先は大広間。
不審者を呼び止めようとする使用人や騎士達。
責務を果たそうとした彼らが男に近寄った瞬間、消える。
男が大広間の入り口に来た時点で、世界最強を誇っていた騎士団の大半は行方不明になってしまっていた。
残す半数の騎士達も、この中で開催されている宴に参加している。
そして、国王と王妃も。
そして…男にとって何よりも嬉しいのは、戦乙女が一緒に居る事だ。
嬉しい誤算。
まさにこんな時に使うのだろうと思うと、男の頬は弛みっ放しになりそうだった。
「何だ…貴様? 一般の者は立ち入りを禁……」
同じ様な事ばかり言われ、いい加減に飽き飽きしてくる。
とは言えど、最後まで喋る事すら許されずに消えてしまうのだが。
「さて…始めるとするか。全てを無に還す、楽しい楽しいショータイムってヤツをな…!」
男は遂に大広間の中へと入って行くのであった。




