慟哭
広間の入口辺り、何やら騒がしい。
怒声が聞こえたと思いきや、直ぐに静かになった。
宴に参加していた騎士達は、率先してそちらに向かって行く。
何だろう、このピリピリした感じ…
敵意は感じないのに、殺気だけは満ちている…?
私はそんな違和感を覚えながら、腰に携えている神剣ジュワユーズに手を置いた。
「ひッ…!き、消えた?」
「や、止めろッ!き、消えたくないッ!うわッ…」
2人の騎士が消えた…?
そして、歩みを進める一人の男。
真っ黒いロングコートを羽織り、顔の半分が前髪で隠れている。
明らかに怪しさ満点である。
「何者だ? 国王陛下の御前である、無礼な真似を…」
そう勧告しながら男に歩み寄った騎士。
彼も、消えた。居なくなってしまったのだ。
魔法?いや、全く詠唱していなかった。
それとも、あの男が持つ属性の力なのか?
何だかヤバイ奴が来ちゃったけど、ハッキリしている事がある。
護衛で来ている私が、この男の相手をしなくちゃいけないという事だ!
咄嗟にサーテインに目配せすると、彼は国王や皇女達を奥へと避難させ始めた。
師弟関係ならではのアイコンタクトだ。
近くのテーブルに置いてあったグラスを手にし、男に向けて投げつける!
投げつけたグラスは男の至近に入った瞬間、消えた。
やはり、コイツの近くに入ってしまうと…消える!?
男はグラスを投げた私を一瞥すると、ニヤリと嗤う。
「…戦乙女か。会えて嬉しいぜ?」
薄気味悪い、黒コートの男は私に向かって走り始めた!
(コイツの近くに入ったら、消されるッ!)
男から距離をとるには、まるで鬼ごっこの様に逃げるしかない。
「…なんてな!オメェは…後からのお楽しみなんだよッ!」
私が避けたばかりに、背後に居た人達にそのまま突っ込んで行く男。
多くの恐怖に駆られた悲鳴も、声の主が次々と消えては掻き消された。
そして、私には目もくれずに向かった先。
そこに居たのは、国王と王妃…
そして2人は…消えた。
一瞬の出来事だった。
レイとローランのお父さん、お母さん。
いつも私の事を気を掛けてくれる、優しい王様と王妃様。
2人は、消えてしまった。
最早、広間内はパニックに陥っていた。
そんな状況の中、私を見据えて語り始める黒コートの男。
「冥土の土産に教えてやるぜ。 俺の名は慟哭。 消滅の力を操る、魔王軍三巨頭の一人よ」




