渡航
王都から馬で3日程の距離に位置する港町。
ここから王国の商船に便乗させて貰い、遠い目的地へと渡航する。
そして私とデューレは波に揺られながら、半月近い船旅に出航するのだった。
初めての乗船に、最初は軽く船酔いをしてしまう。
それでも一週間を過ぎた頃、慣れてきたのか普段と変わらない様になった。
あと4〜5日でようやく、目的の学問都市とやらに到着するらしい。
元の世界ならば、飛行機で半日も掛からずに到着しちゃうんだろうけどな。
元の世界か…
こちらに召喚されてから、既に2年以上も過ぎている。
同級生達は高校3年生か…。
みんな元気にやっているのかな?
私の事、たまには思い出したりしてくれてるのかな?
不意に元の世界の事を思い出してしまう。
駄目だ駄目だ!
私はこの世界で戦乙女として生きるって決めたんだから…!
そんな事よりも…
暑い!
とにかく暑い、暑過ぎる!
私とデューレに充てられた船室は、これでも一番に風通しが良いらしいけど…
冷房とは言わないまでも、せめて扇風機が欲しい。
この船室に居る限り、誰かに見られる事も無い。
という訳で、私もデューレも下着姿で過ごしている。
はっきり言って、だらけ放題だ。
「セーラっぢ…暑〜い〜!」
デューレは遂にキャミソールを脱ぎ捨てて、上半身裸になってしまった。
もう少し恥じらいなさいってば、この残念エルフ…
ちなみに…私の勝ち。
あられもなく晒されたデューレの胸を見ながら、密かに勝利感を味わう。
って、何やっているんだろ…自分が情けない。
気持ち悪い湿気と暑さ加減のせいで、正常な思考が働いてないな…
やる事も無い。
そして、非常に辛い。
何故こんなにも辛いのか、それは…
長い船旅に於いて、真水は非常に貴重である。
とどのつまり、節約の為にお風呂は3日に一度しか入れない決まりなのだ。
王族や貴族を乗せる豪華客船などではなく、物資運搬の小さな商船なので仕方がない。
この船が一番早い学問都市への便だったので、妥協した結果によるものだ。
しかし、これは年頃の女の子にとっては非常事態である。
次は明朝までお風呂はお預けの上、生暖かい潮風が肌に纏わりついてヌメヌメになっている。
隣にいるデューレの身体は少し臭い…。
と言う私だって同様に臭い…。
「セーラっち…暇ぁ〜!膜の確認させて〜?」
この状況でもセクハラ発言を緩める事がない残念エルフには、ある意味で感心する。
「あ、でも今はいいや。ブルーチーズの匂いは嗅ぎたくな〜い!」
暑さで反論する元気も出ない。
チェダーでもカマンベールでも好きにして…
乾涸びる寸前のナメクジみたいになった2人。
「セーラっち…?」
「何?…膜の確認は却下ね…」
「そうじゃなくて…。目的地に着いたら…第1王子に会いに行くの…?」
予想外のデューレの質問だった。
「…うん。ローランの事、ちゃんと伝えたいし」
「…そっか。無理強いするつもりは無いけど…アタシは会わない方が良い気がするよ…。ま、余計なお世話なんだけど…」
何故、そんな事を言い出すのだろう?
ローランのお兄さんである第1王子…
デューレの言った意味は何なのだろうか。
しかし言及する元気もなく、私は眠りに落ちてしまったのだった。




