紅蓮
「一応は自己紹介してあげるねェ〜! 俺チャンの名前は紅蓮ってのぉ〜」
勝手に自己紹介を始めたチャラ男。
「魔王チャン率いる三巨頭が一人でぇ〜、炎を司る魔神ってヤツですよぅ〜!」
魔神…って、コイツ何言ってるの?
状況が理解出来ない私は、縋る様にローランの背中を見た。
ローランは何かを小声で呟いている。
「ローラン…?」
私は不安の中、彼の名前を呼ぶ。
と、その瞬間。
私の足元に、小さな魔法陣が出現した。
「セーラ、貴女に転移魔法を掛けました」
「え?」
「発動するまでの僅かな時間、僕の命を懸けて時間を稼ぎます…」
何を言ってるの?
命を懸けてって、いったい何…?
混乱する頭。
茫然としか出来ない身体。
その刹那…!
ローランは一瞬だけ振り向くと、私の唇を奪った。
僅か一瞬だけの、私のファーストキス。
直ぐに紅蓮に向かい直し、神剣を構えるローラン。
「セーラ、愛しています……」
え?
何?
何なの?
もう何がなんだか、全然解らない。
(あ………!)
頭は理解出来てないのに、私の瞳は涙が溢れている。
大粒の涙が、ゆっくりと頬を伝って落ちて行く。
「あちゃ〜! 泣けちゃうねぇ〜! 巫女チャンと英雄チャンってば、そういう仲だったのぉ〜?」
紅蓮はニヤニヤしながら私達を見据えている。
「でもさぁ〜心配しないでねぇ〜!」
紅蓮の両腕が炎を纏った巨大な鎌状に変化した。
「俺チャンってば優しいからさぁ〜仲よく殺してあげるからねぇ〜?」
私の手足はガクガクと震えていた。
何も出来ない。
ただ、涙が溢れてくるだけだった。
ローランが神剣を振るう。
眩い衝撃波が紅蓮を直撃する!
しかし、巨大な鎌になった紅蓮の腕が薙ぎ払う様に衝撃波を打ち消す。
と、その瞬間。
信じられない速さで、ローランは紅蓮の背後に回り込んでいた。
神剣の一撃が紅蓮を捉えた!
筈だった……。
まるで背中にも目があるかの様に、振向きざまに紅蓮の両鎌が一瞬でローランに降り降ろされる。
え?
次の瞬間、私の視界に放物線を描く様に飛ぶ物体。
それは…。
神剣を握ったローランの右腕…。
嘘だ…?
嘘だ嘘だ嘘だ…?
私のローランは誰にも負けない英雄だ…!
私のローランは誰にも負けない聖戦士だ…!
こんな薄気味の悪いチャラ男に負けたりしない…!
絶対に、絶対に…負けたりしないんだ…!
「凄えよぉ〜! 流石は英雄チャンだねぇ〜!」
片腕を無くし、蹲まるローランを見る紅蓮。
「俺チャンの背後を取った人間なんて、これが初めてだぜぇ〜! 俺チャン感激しちゃったぜぇ〜〜!」
ローランを見下ろしながら、紅蓮はニヤニヤと嗤いを浮かべていたのだった。




