124 守れぬ約束
「それでは、ユージにはこれまで通り、自由に動いてもらうことにしよう」
「わかりました」
バルーダ伯が出した結論に肯くユージ。
「さて、それでは今後の事だが…」
それからもしばらく対策会議は続いた。
* * *
会議が終わり、部屋へ戻ったユージは、マリイがいないことに気が付いた。フィオレと一緒かと思い、2つ隣のフィオレの部屋を訪れる。
「どうぞ」
ドアをノックするとフィオレからの返事が返り、ユージはドアを開けた。
「あれ? ここにもいないのか」
「え? どうかしたの?」
部屋の中にはフィオレ1人だった。ユージは、
「いやな、さっきからマリイ探しているんだけどな。見なかったか?」
「マリイちゃん?…いいえ、見なかったわね」
フィオレは少し考える。
「ユージが怪我して帰ってきて、一旦部屋に戻って、ユージは着替えてお湯を浴びに行ったのよね?」
「ああ、そうだったな」
「その時、マリイちゃんは部屋に戻ったわ。そしてあたし達だけ、悪いけど夕食済ましちゃったし」
「ああ、それから?」
「あたしもマリイちゃんも部屋に戻った筈なんだけどなあ…」
その時ユージは嫌な予感に襲われた。
「なあフィオ、まさか、会議を盗み聞きしてはいないよな?」
「さすがにあたしでもそれはしないわ」
「マリイもそうだろうか?」
「え?…うーん、…まさかとは思うけど…ちょっと、ユージ?」
ユージは思った。マリイが会議を盗み聞きしていたら。そしてユージの体についての話を聞いたとしたら。
ユージは急いで玄関へと向かった。
「ちょっと尋ねるが、俺の連れの女の子、外に出ていないか?」
玄関番に尋ねると、
「ああ、あの獣の子ですか。確かにさっき出ていきましたよ。それが何か?」
「いや、わかった」
マリイが外へ行ったことを確認したユージも外へ出る。だがもう真っ暗で、何も見えなかった。
「まさか、マリイ…」
しばらく外で待っていたが、マリイは帰らず、ユージは一度部屋へ戻ってみることにした。
ベッドに腰掛けると、何かが手に触れた。見ればそれはマリイからの手紙であった。
『わたしがいるとユージさんにごめいわくばかりおかけしてしまうのでここをでます。 ユージさんはわたしのことなんかわすれてながいきしてください。 おせわになったこと、ずっとわすれません。 だいすきです、ユージさん。 さようなら。 マリイ』
「くっ…やっぱり盗み聞いていたのか…! 馬鹿野郎!」
駆け出そうとするユージ、だがそこへアンヌがやってきた。
「ユージ、マリイがいないんだって?」
そのアンヌはユージのただならぬ様子、そして差し出された手紙を見て全てを察した。
「そう、か。…で、お前は、どうするんだ?」
「そんなの決まってますよ」
「そうだろうな。…だが、出ていくならその前に魔力補給をしていけ」
「はい…」
「よし、そこに横になれ」
ベッドの上に俯せに横たわるユージ。アンヌ医師はユージの首筋と腰に掌を当て、
「魔力放出」
魔力を放出していく。それはユージの背中に刻まれた印呪により一時的に蓄えられる。これにより、ユージが印呪の力を使う必要になった場合、蓄えられた魔力を使う事で、ユージへの負担を軽減するのだ。
とはいえ完全ではないので、この方法を以てしても、印呪によるユージへの負担は無くならないのだが。
「…よし、終わりだ」
「ありがとう、先生」
立ち上がり、身支度を調えるユージ。アンヌは諦めたような顔で、
「侯爵達には私から言っておく。いいか、調子が悪くなったらすぐ私の所へ来るんだぞ?」
「わかってますよ、先生」
ドアに手を掛けたユージは、
「先生、それとフィオにも謝っておいて下さい。約束守れなくてごめん、と」
「ふん、仕方ないな」
「でも俺にはこうするしかできないんですよ。あいつと交わした約束の方が先だったし」
「バカは治りそうにないな」
「ええ、最後までこんな奴ですみません」
「もういい。とっとと行け」
「はい。それでは先生、行ってきます」
そう言い残してユージは部屋を出た。そのまま玄関を通り、真っ暗な外へ。
「マリイ、お前の帰る場所を探してやる、って言ったあの約束はまだ果たしてないんだぜ…」
そしてユージの姿も闇の中へ消えていった。
第2部終了です。少し更新をお休みさせていただきます。




