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123 緊急会議

 一方、ギンガム侯爵邸の前には、帰りの遅いユージを心配するマリイの姿があった。

 空は次第に暮れかかり、夜が近づいている。

「マリイ、そろそろ中へ入りなさい。じきにユージも返ってくるさ」

 心配したアンヌが声をかける、が、

「ごめんなさい、先生。もう少し待たせて下さい」

「やれやれ、仕方ない。だが暗くなったら入るんだぞ?」

 そうアンヌが言った時、マリイの狐耳がぴんと立ち、

「先生! ユージさんが帰って来ます!…でも、すぐ後から、嫌な感じが付いて来てます」

 マリイの『感』は確かである。それを聞いたアンヌはすぐさま、

「マリイ、中へ入っていろ。警備隊! 門を守れ」

 そう命じ、門前に整列したギンガム侯子飼いの警備隊員に強化を施す。それらの準備が整った時、

「先生! 今戻りました! 生きたサンプルを連れてきましたよ!」

 そう言ってユージが門前で急停止した。

「詳しい話はこいつを黙らせてから」

 急停止したユージは来た方へと向き直り、

「うりゃあっ!」

 右腕を水平に振り抜いた。

 ユージを追って来た狂戦士バーサーカーは、その速度もあって避けることはならず、もろに喰らう。

「がああっ!」

 見事に吹き飛ぶ狂戦士バーサーカー。10メートル以上吹き飛び、立木にぶつかって停止。完全に気絶した。

「ふう、一丁上がり。先生、急いでこいつを調べて下さい」

「わかった。…だが、後でお小言は覚悟しておけよ」

 左肩の傷を見たアンヌはそう言うとすぐさま、吹き飛び気絶した狂戦士バーサーカーの元へ駆け寄った。警備員3名が護衛に付く。

 そしてユージはというと、

「ユージさん! 傷が…! 血が…!」

 涙目のマリイにしがみつかれていた。

「あ、ああ、マリイ、大丈夫だ、こんなのは傷の内に入らねえよ。もう血は止まってるし。だから心配すんな」

 だがマリイはユージを放さない。

「嫌です! ユージさんはいつもいつも、1人で無茶ばかりして…! 何かあったらどうするんですか!」

 とうとう泣き出すマリイ。そんな彼女の頭を優しく撫でながらユージは、

「ああ、わかったよ。悪かったな、マリイ、心配させて。でもな、これが俺という人間なんだ。だから仕方ないと諦めてくれ」

「何バカなこと言ってんのよ!」

 大声で叫んだのはフィオレである。フィオレはつかつかと歩いて来て、

「ユージがあいつを追いかけて出て行ってから、マリイちゃんはずうーーーっと心配し通しだったんだから。なのにそんな言いかたってないでしょ!」

 フィオレにまでそう言われたユージはさすがに神妙な顔つきになって、

「悪かったよ、フィオ。マリイも、泣き止んでくれ。…ほら、中に入ろう」

 そう言ってユージは、しがみつくマリイをそっと引きはがし、その手を引いて侯爵邸へと歩む。

「まったく、不器用なんだから。…治療(キュア)

 フィオレはユージの左肩に治癒魔法をかけた。傷口が癒えていく。

「ありがとな、フィオ」

「ふん、ユージが怪我したらマリイちゃんが泣くんだからね、憶えておきなさいよ」

「わかったよ」


*   *   *


 侯爵邸で着替え、風呂も使わせてもらったユージは、狂戦士バーサーカーの調査を終えたアンヌと共に、ギンガム侯爵、バルーダ伯爵らが開いた緊急会議に出ていた。

「ふむ、統一魔導士団のクランケンドルフ=アウフシュテッツェン、か」

 まずはユージが、追っていった先の廃墟での一幕を報告。

「思いますに王弟派の残党が一枚噛んでいるのではありますまいか」

 とはバルーダ伯爵の意見。ギンガム侯爵は肯き、

「うむ、儂もそう思う。その崩れた廃墟へ、水晶玉を拾わせに部下を向かわせているが、おそらく無駄足になる可能性が高いだろうな」

「なぜです?」

 ユージのその問いにアンヌが答えて、

「遠距離との通話が可能な魔導具は便利だが、逆に居場所を探知されるリスクもある。お前が見た光は、狂化を発動させると共に、水晶を消滅もしくは破壊するための魔力を流し込まれたためと思われるからな。だが、欠片でも手に入れば、なにがしかの情報は得られるのだが…まあ、消滅しているだろうな」

「……」

 残念がるユージ。アンヌは続けて、

「さて、ユージが苦労して私に狂戦士バーサーカーを見せてくれたおかげで、いろいろなことが分かりました」

「うむ、聞かせてもらおう」

「はい。まず言えることは、統一魔導士団、ですか、そやつらは人を人と思っていない集団ですね。発動したが最後、精神を狂わせ、肉体を破滅させる『印呪』を幹部にまで施しているとは正気の沙汰とは思えません」

「確かにな。戦時中というならともかく、非常に拙いやり方だ」

 ギンガム侯が肯けば、バルーダ伯も意見を述べる。

「おそらくクランケンドルフとかいう男は、独裁者で、野心家なのでしょう。他人を信じられず、己の野望のためにはどんなことでもする。そんな奴に大陸を統一など出来るわけがないし、させるわけにもいかない」

「だが、『印呪』は問題だな」

 それにはアンヌも同感のようで、

「そうですね、誰にでも施せて、強力な手駒に出来るというのは脅威です」

「何か対策はないのか?」

 だがアンヌは首を振り、

「今のところは…」

「ない、か。…ユージやボルドーのような、かつての名誉騎士エースを現役復帰させるというのは?」

 そう問う侯であったが、アンヌは沈痛な顔で、

「無理、とお答えするしかありません。ご存じの通り、私共の印呪も完璧ではありません。適正のある者に施したとはいえ、本来有り得ないような無理を強いている事に変わりはなく、このユージを例に挙げるならば、戦争当時の能力を発揮させれば、1箇月と保たずに廃人となるでしょう」

「そう、か。…悪かったな、ユージ。無理をさせてしまっているようだ」

 ユージの抱える問題を聞いた侯は謝罪した。

 が、隣の部屋で聞き耳を立てていた者がいたことに、誰も気づいてはいなかったのである。

 防音の魔法とかは無いようです。さて、誰が聞いていたのでしょう? それは次回で。

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