201 ネクタルとアムリタ
2カ月以上投稿の間が開くと「この作品は……」という注意書きが付けられてしまうので書き溜めは終わっていませんがとりあえず第3部投稿開始します。
アルデンシア大陸の南にはかつての大陸戦争で王弟派が拠点にした地であるダッカード地方がある。
戦争で徹底的に破壊されたが、現在はかなり復興が進んでおり、住民も増えてきていた。
そんな町にネクタルとアムリタがある。神話に出てくる酒の名を冠したこの2つの町は、早くから復興が進んだ町であった。酒の名を冠するだけあって、酒場も多い。というのも、この地方で取れるシャイテンという果実が、良い酒の原料となったからだ。
そんなネクタルの酒場で。まだ日は高いのに、2人の男が酒を呑みつつ何かを話していた。暗いので顔は良く見えないが、1人は若く、もう1人は中年のようだ。
「それじゃあ、そいつが知ってるんだな?」
「ああ、知ってるとも。だがよ、教えたら何をくれる?」
「そうだな、シャイテン酒1樽ってのはどうだ?」
「本当かよ! 嘘じゃねえだろうな?」
「ああ。その証拠に、ほれ」
テーブル状に金貨が1枚、投げ出された。
「これで釣りが来るだろ?」
「ほ、ほんとにいいのか?」
その金貨を掴もうとした中年男の手を、もう1人の若い男が掴んだ。
「おっと、情報と交換だって言った筈だぜ?」
「わ、わかったよ。隣町の『ジャロ・ジャロ』っていう酒場のオヤジだ。名前はローグ」
「そいつが情報屋の元締めなんだな?」
「あ、ああ。間違いねえぜ」
そこまで聞いた若い男は、
「それだけ聞けば十分だ。ありがとよ」
そう言ってすぐにその場を立ち去るのだった。残った中年男は金貨を手ににたにたしていた。
* * *
「隣町の『ジャロ・ジャロ』か。ようやく手がかりが掴めたかもしれねえな」
外に出た男、ユージはその足で隣町へと向かった。距離は10キロほど、ユージの体力なら明るいうちに十分着ける距離だったが、
「乗り合い馬車があるのか」
ちょうど目の前を通り過ぎた馬車がすぐ先にある停留所で止まったのを見て、乗る気になったのである。代金は10ジェン、銀貨1枚だった。
金を払って馬車に乗りこむ。先客はいなかったが、15分という停車時間の間に2人が乗り込んできた。1人は20代前半と見える女、もう1人は初老の男性である。
「さーて、それじゃ出発しますぜ」
御者はそう一声掛けると馬に鞭をくれ、馬車は走り出した。ユージは黙ったまま窓から外を眺めている。
「アムリタへ行きなさるのかね」
「ええ」
女と男が会話を始めたようだ。聞くとも無しにユージは聞いていた。
「アムリタは魔導士を優遇してくれる家があると聞きましたので」
「ああ、確かにのう。じゃが、誰でもと言うわけではないらしいぞ。試験のようなものがあって、それに合格した者だけが優遇されているようじゃ」
「そうなんですか……試験に落ちたらどうなるんですか?」
「まあ優遇はされんじゃろうが、普通に雇ってもらえるようじゃな」
「それならいいです。がんばってみます」
「そうかい。じゃがのう、あの屋敷はあまりいい噂を聞かんからのう」
「噂、ですか? どんな?」
「夜な夜な屋敷から悲鳴が聞こえるとか、使用人が人知れず行方不明になる、とかのう」
「そ、そうなんですか? それはちょっと怖いですね」
「まあ、あくまでも噂じゃからな」
「おじいさ……失礼しました、おじさまは何しにアムリタへ?」
「儂かい、儂はアムリタに家があるのでな。今日はネクタルの友人を訪ねた帰りじゃ」
「そうですか。……そちらさまは?」
最後の呼びかけはユージに対してだったようだ。
「俺か? 俺は、なんとなく……だな」
気怠そうにユージがそう答えると、初老の男性が、
「君は軍人、いや、元軍人だったのかね?」
「え?」
「いや何、ただの勘じゃがね」
ユージは内心、警戒の度合いを強める。
「まあ、少しだけ、軍にいたこともありますけどね、今はもう首になって大分経ちますよ」
「そうかね、それにしては現役と変わらないようじゃがね、ユージ君」
「!?」
「ふほほ、何で自分の名前を知っているのかと聞きたそうな顔じゃな。そのくらい知らんでどうする。酒場で儂のことを聞いたのだろう?」
そう言われたユージは、1つの名前に思い当たった。
「あんた、まさかローグという名前なのか?」
「ほっほっ、ようやくわかったかね。そうとも、儂がローグじゃ」
「……あの、お知り合い、なんですか?」
最初に話しかけたのは自分だったのに、いつの間にか自分を差し置いて話が弾んでいることに面食らいながら、女性が割り込んできた。
「知り合い、というほどではないのう。ま、名前くらいは知っている、といったところじゃな」
「そうなんですか。てっきりお知り合いなのかと。あ、あたしはジェシカといいます」
「さっきも名乗ったとおり儂はローグじゃ、こっちはユージ」
「よろしく、ローグさん、ユージさん」
そう挨拶したジェシカをよく見ると、ボブにした赤毛でグレイの目、美人と言うより可愛いといった容姿だ。
「実は、この前の戦争で家も何もかも無くなっちゃったんで、就職先を探してるんですよ。ローグさん、アムリタにお住まいでしたら、どこかいいところご存じありませんか?」
「そうだったのかね。そうじゃな、さっき聞いていた魔導士優遇の家、な。あそこでないとするなら、町長の家じゃな。町が急速に大きくなったので仕事が増えてしまい、人手が足りなくて困っておる」
「そこも良さそうですね」
「まあ給金は落ちるじゃろうが、堅実といえば堅実じゃな。どうするね? 町長のところなら紹介状を書いてやれるが」
「どうしようかしら……」
ジェシカは悩んでいたが、
「やっぱり、まずは魔導士を募集しているという屋敷へ行ってみます。元々そのつもりでしたから」
「そうかい。それじゃあ、選考に落ちたら儂の所へ来るといい。町外れで『ジャロ・ジャロ』という酒場を営んでおる。夜なら大概おるよ」
「ありがとうございます、ローグさん」
馬車はまもなくアムリタの町へ着こうとしていた。
一人旅をしていると電車とかで隣の席に座った人と話が弾んだりしますよね? ね?




