122 統一魔導士団
飛んできた空気の槍は壁を貫いた。が、そこには既にユージはいなかった。
男が魔法を発動させるのを知るや否や、瞬時に場所を移動する。魔法使い相手の戦闘の鉄則、狙いを付けさせないことである。
「ちょこまかと動きおって!」
魔法であれば雷でも炎でも無効化できるユージの左手であるが、魔法によって崩された壁、のようなものは当然防げない。よって室内での戦闘はやや不利である。
が、そんなことを微塵も感じさせず、ユージは男を追い詰めていった。魔法は放てば放つほど、体内の魔力を消費する。そして男はギンガム侯爵邸で、そしてここまでの道中で、既にかなりの魔力を消費していた。そしてユージとの戦闘である。
「く! こんな筈は! 魔導士団第3席の私が何故!」
「悪いが手間暇かけちゃいられないんでね」
だん、とユージは一層強く踏み込み、男との距離を一瞬で詰める。そして男の放った空気の槍を体を低くしてかわし、低姿勢から男の顎目掛けて掌底を打ち出した。
「あぐっ!」
男はのけぞり、そのまま後ろへと吹き飛ぶ。拳だったら顎は砕けていたであろう一撃。勝負は決した。
「……」
ユージは、男と話していたのは誰なのか知るため、部屋を見回す。が、人の気配は無く、誰かが逃げ出した様子もない。ただ20センチほどの直径の黒い水晶玉が転がっているだけである。
「ひょっとしてこれで相手と話していたのか?」
水晶に近づくユージ。と、その水晶が微かな光を放った。
ユージは左手を構える、だがその光は水晶が作動した印であった。
「ほう、そいつを倒したかね。たいしたものだ。素直に賞賛の言葉を贈ろう」
水晶から声が響いた。向こうからはこちらが見えるらしい。
「お前は誰だ?」
ユージは警戒しながら尋ねる。
「私か。私は統一魔導士団団長、クランケンドルフ=アウフシュテッツェン。君は?」
「俺はユージ。ユージ=アキモト」
「ほほう、聞いたことがあるぞ。確か、王孫派にそんな名前の名誉騎士がいたな」
砕けた話し方をする相手だが、ユージは警戒を緩めない。この機会にと、更に質問をする。
「貴様等の目的は何だ?」
「教えてやろう。『大陸の統一』だよ」
「そんなことが出来ると思っているのか!?」
「思っているからこそ実行するのだよ」
「星の欠片を狙ったのは何故だ?」
すると水晶の向こうで笑ったような声が聞こえ、
「そこまで教えてやる義理はないな。君が我々の仲間になるというなら別だがね。…そろそろ話も終わろうか」
「待て! 1つだけ教えろ!…闇ブローカー、バサラから星の欠片を奪ったのもお前等だな?」
「バサラ?…ああ、あの犬っころか。確かに。あいつはいい星の欠片を持っていたよ」
「やはりそうか…返せ、と言っても返さないだろうな?」
「当たり前じゃないかね、第一君の物ではないだろう?」
「俺の物じゃないが、元々は俺の連れの物だ」
「何?…ほう、そうだったのかね。ますます返すわけには行かんな。欲しかったら私の所まで来ることだな。それじゃあまた…と言ってももう会う事もないだろうがな」
そして声はぷっつりと途絶えた。ユージは水晶を手に取り、
「これを持って帰って調べてもらえば何か分かるかも知れないな」
その時、水晶が一瞬明るく光った。
「うっ!? 何だ?」
その光は崩れかけた部屋中を照らし、すぐに消えた。
「何だったんだ? とにかく…!!?」
背中に殺気を感じ、ユージは反射的に飛び退いた。
「危ねえ危ねえ」
ユージが今まで立っていた所には石の槍が5本突き立っていたのだ。
「もう目が覚めたのか…ってわけじゃねーな」
手にしていた水晶玉を放り出し、相手を睨み付ける。
それはさっき倒したはずの男、それが虚ろな目で立ち上がり、ユージ目掛けて魔法を飛ばしてきている。
「喰らうかよっ!」
先ほどまでとは違い、地属性の魔法である石槍を飛ばしてくる。
「ちっ、こいつも狂化したのか!?」
ユージの掌底で顎を砕かれているので、締まらない口元から涎を垂れ流しながら魔法を使う姿は不気味でもある。それより以上なのは喋れないはずなのに魔法を使っていること。
「『印呪』で底上げされて無詠唱で魔法を使えるって訳か。さすがに第3席と言うだけあるぜ!」
石槍を躱しながらユージは考える。
「室内では不利だ。先ほどとは違い、狂戦士となったからには、俺のことだけを追ってくるだろうな」
避けながら少しずつ外へと誘導していく。が、次第に暮れていく空、その薄闇のため、敷石の隙間に足を取られてしまった。
「し…しまった!」
一瞬動きの止まったユージは格好の的である。10本の石槍が襲った。
「くそっ!…ぐう…」
9本までは躱し、あるいは叩き落としたユージであったが、10本目の槍を左肩に受けてしまった。
「ちい…こんなこっちゃ伯爵に叱られちまうな」
刺さった槍を抜いたユージはその場を離れた。男は尚も追ってくる。ようやく廃墟の外へ出た。
「さあ、ここなら思いっきり暴れてやるからな、覚悟しろよ」
ユージはそう言いながら、さっき抜き取った石の槍を男目掛けて投げ付けた。それは狙い過たず、男に刺さる…と思いきや、男はそれを見事に避けたではないか。
「何?」
外に出た事で動きが速くなったのは男も同じだった。
「そういやここまで走ってくるだけの身体強化も使えていたんだっけな」
呟きながらユージは大地を蹴る。
「ほぼ、互角…か」
先ほどまではユージの方が明らかに勝っていた速度だが、今や同程度となっている。狂化畏るべし。
「だけど、それだけじゃ勝てないんだよな」
少しフェイントをかけただけで男はユージに付いて来られなくなった。
「やっぱりな。狂化状態だと頭は悪くなるって事だよな」
ならば、とユージは来た方角へ駆け出した。男も付いてくる。
「どこまで付いて来られる?」
ついにユージは全力で駆け出した。その速度、実に時速80キロを超える。狂戦士となった男も辛うじて付いて来ているが、魔法を使う余裕はないようだ。
「思った通り。さて、ちゃんと付いて来いよ!」
そのままの速度でユージは走り続ける。目指すはギンガム侯爵邸。
初めてユージが怪我をしました。ですがまだこの程度の相手ではユージの方が上。




